東京二三区のうち九区でカウンターを中心とした業務委託が導入され、来年度に向けてさらにいくつかの区で計画が進められている。
なぜ二三区でばかり委託が進むのか。またこの委託にはどのような問題があるのか。
委託区を含む都内の新旧図書館員に委託と図書館の実像を本音で語ってもらい、今後の図書館はどこへ進んでいったらよいのかを探ってみた。
井東順一●墨田区立あずま図書館
大橋直人●元・文京区立真砂図書館
小形 亮●練馬区立光が丘図書館
手嶋孝典●町田市立図書館
福嶋 聡●ジュンク堂書店池袋本店
本多伸行●元・港区立みなと図書館
沢辺 均 司会●ポット出版、本誌編集委員
井東順一
いとう・じゅんいち●1955年生まれ。墨田区立あずま図書館勤務、選定などを担当。図書館歴は12年。
大橋直人
おおはし・なおと●日本図書館協会会員。図書館問題研究会会員。東京自治問題研究所会員。東京自治フォーラム実行委員。
小形 亮
おがた・りょう●1954年生まれ。練馬区立光が丘図書館勤務、児童担当。図書館歴は21年。本誌編集委員。
手嶋孝典
てじま・たかのり●1949年生まれ。町田市立図書館勤務、館長。図書館歴は20年。本誌編集委員。
福嶋 聡
ふくしま・あきら●1959年、兵庫県生まれ。1982年2月、(株)ジュンク堂書店入社。サンパル店(神戸)、京都店を経て、1997年11月仙台店店長。2000年3月より池袋本店副店長。著書に『書店人のしごと』『書店人のこころ』 (ともに三一書房)『劇場としての書店』(新評論)。
本多伸行
ほんだ・のぶゆき●1954年生まれ。東京都港区非常勤職員(事務職)。1998〜2003年港区立みなと図書館に勤務。
司会●沢辺均
さわべ・ひとし●1956年、東京生まれ。ポット出版代表取締役。本誌編集委員。
沢辺● ポット出版の沢辺といいます。『ず・ぼん』という本を年に一度くらいうちで出しています。ぼくも八〇年代の真ん中くらいまで地方公務員をやっていました。図書館で働いたことはありません。
小形● 練馬区立光が丘図書館に勤めている小形です。図書館歴は今年で二二年目です。図書館の労働組合をやっています。
手嶋● 町田市立図書館長の手嶋です。図書館歴は二〇年ぐらいです。『ず・ぼん』の編集委員をしております。
井東● 墨田区立あずま図書館の井東です。図書館歴は一二年目です。
福嶋● ジュンク堂書店の池袋本店の副店長をやっております福嶋です。書店歴は二一年です。図書館は大変よく利用させていただいています。
本多● 港保健所にいます本多です。この三月まで五年間港区立みなと図書館にいました。
大橋● 大橋直人と申します。四半世紀ぶりに図書館から役所のほうに異動しました。図書館問題研究会や日本図書館協会で活動をやっています。
沢辺● 一回り自己紹介をしていただたところで、小形さんに現状の報告をしてもらい、補足があれば出してもらいましょう。
委託の現状
小形● 東京二三区の委託問題ということで今日はお話しをするわけですが、まず一昨年台東区で一館にカウンター業務が導入され、昨年はそれが四区二〇館に拡がりました。今年に入って五区増え、今現在(二〇〇三年五月現在)九区三七館です。ただカウンター業務委託といってもカウンターだけではなくて、区によってはもっと幅広い業務まで委託するところもあります。
また昔の公社委託の形ではなくて図書館流通センター(TRC)や人材派遣系の会社への民間委託です。これが今後二三区の図書館、さらには他の地域にも拡がる可能性があると思うのですが、どんな問題があるのか、またその過程で図書館自体がどうなっていくのかというのがテーマということになるわけです。
沢辺● 状況認識としては、とりあえずそういうことだと思いますが、ターニングポイントとして江東区での事件はちょっと大きいですよね。どなたかそのことをフォローして下さい。
井東● 事実経過はまだ究極のところまでは分かっていないので、ほぼこういうことだろうということだけです。委託の職員がある予約の資料を早く借りたいがために利用者になりすまして図書館に遅いぞと電話をした。あなたは誰ですかと聞いたら次の順番の人の家族だと言ってしまった。ところが偶然にもその電話に出た職員が次の順番の本人だったわけで私にはそんな家族はいないということでばれてしまった。そこで二重に、データを私的な目的で流用したということと、他人になりすましたということで大きな問題になってしまった。
沢辺● そこで委託を受けていたのがTRCだったわけですね。
井東● あと少々細かいところを補足すると、委託している内容や費用とかが自治体ごとに結構違っているということ。特に今年からはいろいろな会社が参入してきているので非常にバラバラですね。
沢辺● それは例えばカウンター業務だけだとか。
井東● 単純に言うとそれに装備がくっついているとか。あとカウンター委託の内容もレファレンスを含むとか、含まないとか。
沢辺● そうした様々な範囲があって、値段も当然違う。
井東● 値段もピンキリですね。うち(墨田区)なんかは一番安いほうで、コミュニティ会館図書室を含めて八館でトータルで一億円なのです。ところが去年の江東区が八館でだいたい二億円、倍でしょう。さらに今年の足立区は三館で八千万の予算をつけている。
沢辺● 墨田区と江東区でいうと、業務の範囲は。
井東● うちは入っていないのですが、江東は装備を含んでいます。それから江東は職員の減らし方が激しい。二年目でもう半分近くになっています。
委託をどう思うのか
沢辺● 状況については、そういうことがあるよということはだいたい共有しているという前提で、次に委託をどう思うのかについて一人ずつお話ししてもらいたいと思います。では同じ回り方でもう一度お願いします。
小形● 練馬区は今のところはまだ委託という話はないのですが、隣りの豊島区や板橋区は委託が入っているので、労働組合の立場からは大変危惧をしているところです。まず一つは職員の削減ということがありますし、特に非常勤の職員が大勢いるわけなのですが、この辺が例えば大田区あたりでは首切りになっているわけです。
業務的に行きますと、カウンターと他の内部のサービスとの分断。カウンター部分が委託されると選書とかレファレンスとか、そこまで委託するというなら話は別ですが、いわば窓口で利用者の声を聞く部分と、資料を選定したり、そういうソフトを作っている部分とが完全に分断されてしまう。
それではたして良い図書館が出来るのかというのは非常に心配が残るわけです。
それからやはり先ほど言ったプライバシーの問題です。厳しくやればという話もありますが、現に問題も起きているわけで、やはり図書館の目の届かないところが非常に大きいのではないか。
また利用者の声が直接的に届かなくなってきます。いろいろな苦情があったとしても、きちんとそれが図書館の方へ反映されなくなってくる。
それから人件費が主だと思うのですが、委託が本当に安いのかどうなのか。お金を動かすわけですから、当然税金もかかる。いいかどうかは別として、直営で非常勤職員や臨時職員を雇ってやる場合よりむしろ割高になっているのではないか。人にかける費用という点から考えていけば、割高であっても良いサービスが出来るとは思えない。可能性としてはあるとしても、現状の委託はだいたいそういうもので、予算の使い方からしても非効率ではないかと思います。
あと委託を続けていった場合今のような図書館サービスが保証できるのか。まだ江東・墨田あたりで明確にサービスが下がったという話は出ていないかもしれませんが、長い目で見て行けば資料の構成とか、個々のサービスへの影響が出てくるだろうと思いますので、それがサービス低下につながっていくのではないかと懸念しています。
沢辺● 今、職員の平均雇用費用というのはいくらぐらいなのですか。
井東● 八三〇〜八四〇万で計算しています。
沢辺● それは福利厚生費とか退職金を含んだトータルのコストなのですか。
手嶋● そういうのを入れるともっと上がりますよ。九〇〇万以上、一〇〇〇万近い。
沢辺● ではこの八三〇万はどのあたりまで。
小形● 普通の給与と社会保険料までですね。
沢辺● はい。では手嶋さん。
手嶋● 多摩地域の図書館では委託はあまり話に出ていないのです。ただ町田市もそうですが、どこの自治体も財政的に厳しいですから、行財政改革の一環として職員体制の見直しということで、直接委託とは言っていませんが、それを検討しろという指示はきています。
この間町田市では相模原市との相互利用ですとか、祝日開館や夜間の時間延長といった業務量の増大で、正規職員は増やさずに非常勤特別職を増やしてきたという経緯があります。この流れの中で非常勤職員を導入したことに、それなりの評価が定着していて、見直しの中では今後正規職員を減らして非常勤職員に切り替えていくことを逆に提案していかないと、委託の話も無縁では済まないだろうなと危機感を持っています。
ですから委託をさせないために非常勤職員の導入。必要というより、そうしないと生き残っていけないだろうと感じています。
やはりネックは人件費なのです。文京区の「図書館だより」で見たら、図書館費に占める人件費比率が七四%、区職員全体の比率は三一%というふうになっているのです。これはコンピュータとかそういった全部の費用を含めた人件費比率ですが、率直に言って相当高いという実感があります。だから人件費を何とかしなくてはならないのではないかという視点が出てきても当然だと思います。
委託というのが今の財政状況の中ではいかに安上りに、コストダウンを図っていくのかということに、どうしても行ってしまうのだろうと思います。ただ図書館というのは、やはり人的なサービスが主体になるので、一概に人件費が高いからいけないのだという言い方を私はしたくない。そうは言っても、コストをかけるのに見合ったサービスがどこまでできているのかということは、やはり問われると思います。
沢辺● 書店なんかの人件費はどうなのか、あとで聞いてみたいところですね。委託はサービスが低下するからやらない方がいい。だけど現実には金をかければいいというものではないし、その金に見合ったサービスが提供できているかということ。それからある程度は人件費を減らすことはやむを得ない。乱暴に言うとそういうことでしょうか。
手嶋● 委託は決して賛成ではないです。文京区でもそうですが、基幹的業務と非基幹的業務というふうに分けているのは非常にまずいなと思います。本当に図書館の業務の中で、そういう分け方ができるのかどうか。例えばカウンターでの貸出しや書架整理などは非基幹的業務だと見られがちですが、その業務を実際にやらないと、どういう利用者がいて、どういう資料が貸し出されているのかとか、そういったことまで含めて図書館全体をトータルに見られる視点というのを持てないのではないかと思います。
委託の実際
沢辺● はい。では井東さん、お願いします。
井東● 私の考えを最初に言います。効率ということが出ましたが、一番効率がいいのはしっかりした専門職集団を作ることだと思います。いろいろなところを見ても間違いなくそれは言えることだと思います。
実はこの連休に職員一人あたり一〇万冊貸している岡山市立図書館を見学してきたのですが、職員が朝から晩までカウンターに入っていて、いつ選書をするのかと聞くと、たまには休憩もしますからなんて言い方をしている。カウンターをやっている間にすべてそういうことをしてしまうわけで、返却本を戻しに行った際に書架整理までやってしまう。一種の熟練とモチベーションの高さにはすさまじいものがあるのです。こういう集団にやらせておけば、まず間違いなくサービスは上がります。だからこれを壊すのは最悪なやり方だと思うのです。
ただ問題はそういう高いモチベーションを持てない人たちも一部にはいて、勝手に自分のことだけをやってしまうような専門職もいますから、そういうところが批判されてしまうのだろうと思います。さんざん言われたことですが、一種の経営感覚を持った専門職集団が出てくれれば、それがベストだと。
あといわゆるIT技術がものすごく進んできて、コンピュータのコストも下がっていますから、本当にお金を下げたいのだったら、そういうところで下げたほうが早いのです。だから今委託しているところは、はっきり言って経営的にあまり頭が良くない。それなのに委託がどうして入ってしまうのかという一つの背景として、現状のサービスが良くないというのが問題点としてある。東京でも多摩や二三区の西の方がいいとすると、我々のほうは、もともと良くないから委託になってもそんなに目立たないのかもしれない。
うちの図書館でも委託を入れてからこの一年間で冊数で言うと四万冊くらい利用が増えているのです。
小形● それは開館時間が増えたから。
井東● それもあります。ではサービスは落ちているのかと言われると貸し出しだけでみれば数字的には落ちていない。カウンター業務が減ったことで職員が行っている障害者サービスとか学校へのサービスなどは実際のところ向上しています。
もう一つは開館時間を延ばせという圧力がずっとかかっていたのです。その上に人員削減が来るわけですから、本当にどうしようもない。伝統的に二三区の方が多摩地区よりも開館時間が長い。長くするために職員数は、同じくらいの館数でも多摩地区の倍くらいいます。
非常勤の問題でいうと、図書館ではゼロだったのですがコミュニティ図書室では三人解雇されました。図書館にも解雇しろという圧力はさんざんかかったのですが、本人たちも組合もがんばって残りました。
それからプライバシーは確かに心配です。委託会社は人の入れ替わりが激しいですから。向こうは辞めても秘密を守りますという文書を区と取り交わしていますが、どういう保証があるのかと言われるとほとんど意味がないのではないか。江東の事件が起こったあとで、会社の方からプライバシーに関して話をしてくれと言われて、総務課の職員が個人情報についての講演をやりましたが、実際的なところまでは当然話せません。
またカウンターに立たないと情報が入ってこないという点ですが、うちの場合はとにかくカウンターに職員を入れるということで、一種の分業みたいにしているので、完全分断にはされていないです。ただし今後異動とかで慣れない職員が来ると、向こう(委託の職員)が手に余るときはこちらが引き取るといったことができなくなるでしょうし、逆に教えてもらう立場になってしまう。その時が非常に心配です。
江東区の事件のせいで、一社の独占体制になりかけていたのが、一気にあらゆる会社が参入するようになり、たぶんこれからは入札が常態化してくるでしょう。そうなると一年ごとに会社が変わり、継続的な分業というのは不可能になってくる。そうすると本当に人的仕事ですから、来ている人の顔を覚えて仕事をするというようなことができなくなってしまう。それから聞かれた時にパッと反応して本を持って来るというのが、非常に今もクレームが多いのですが、やはりできなくなってしまう。
ということで、専門職だったら一つの流れとしてできることを非常勤だの委託だのと言って切ってしまうと当然効率が悪いし、満足なサービスはできないというのは、はっきりしていると思うのです。
沢辺● では、本多さん。
よい委託はあり得るか
本多● ぼくは二三区の一部の非常勤の人たちを集めて勤務条件を良くしようという集まりをやってきたのですが、そこで委託問題の学習会をやった時に委託に反対している常勤職員の組合の論理が気になったのです。読んだ範囲は足立、江東、文京、練馬のチラシですが、おおむね反対の理由として共通するのは委託は損だ。ピンハネとかマージンをはねられるだけ損だ。臨時職員や非常勤職員の方が安くつくというのです。それから委託労働者というのはバイト感覚で質が悪い。指揮命令ができない。
これは非常勤職員を増やすことに反対した時と同じような、共通な構図を感じたのです。プライバシーは任せられない、図書館の大事な仕事を非常勤には任せられないと言っていた組合が、今度は委託よりは非常勤職員の方がいいですよと言い換えているだけで、結局はギルドというか、職域を守ろうとするのにあとから理屈をつけているとしか見えなかったのです。一番すごかったのは文京のビラで、挿し絵が委託労働者は度し難い。プライバシーは好んで見るし、レファレンスは面倒くさい子供が騒いでも知らんぷりで、ここまで行くかという極まった形なのです。
まだ港区でも何もできないのですが、地方自治法が変わって入札の時に総合業績評価みたいな形がとれて、仕事の評価で下駄を履かせたり、労働安全衛生法無視や不当労働行為をするような企業は入札に参加させないとかいうような試みがあるという話を聞きました。港区でも表の図書館業務では委託はないのですが、本の運搬や清掃、施設管理とかはもう委託が入っているので、その観点で掘り起こしてみたいなこと思っているうちに年限が来て異動しました。
そこでぼくが思うのは、委託が是か非かというのは直営ではできないが、委託すればできるということがあるかどうか。そういう構造的な方向があるのなら委託というのは検討に値すると思うんだけど、費用だけで直営か委託かというのは乱暴な気がします。今はもう完全に費用だけで流れに乗っているからぼくも嫌だなと思います。
井東● 私も非常勤職員で語学のできる人を雇ってほしいとか、あるいは視覚障害者サービスのために実際に視覚障害者を雇ってほしいとか働きかけたのですが、全然だめなのです。例えば民間会社がフレキシビリティを発揮して、そういうことが自由にできるんだったら、それはそれで可能性があると思うのです。今現状ではそういう感じではないのですが。
小形● 可能性としたら、よい委託はあり得るのかというあたりになるのかなと思います。
手嶋● 委託の質をよくするためには、委託料を高くしないと人材は集まらないですよね。それだけの力量を持った人を恒常的に雇って質のいいサービスを維持するということは、お金がかかることなんです。今だとだいたい一般的なアルバイトの賃金並みで雇わざるを得ないんです。
沢辺● そうなんです。金がかかるんですよ。
手嶋● だから私も委託イコールサービス低下という言い方をしようとは思わないけれど、逆に良いサービスをしようと思えば、それだけ金がかかるから、逆に委託には行かないのではないか。
井東● 現場サイドはともかく、上の方のレベルというのはコスト削減しか頭にないから質は問わないわけです。入札なんか入って来た日にはめちゃめちゃになってしまう。私は、本多さんが言われたように、この委託には可能性がある。でも今のような入れ方をしていたら、結果もよくならないだろうと思います。
本多● よい委託を作ろうと言っているつもりはないのです。委託をするならこれとこれと条件を付けて、あるいは法定の労働安全性を求めなければ話にならないよとかやっていって、そんな値段じゃできるわけないだろうというふうに入札の構造を変えていかないと。
前にTRCの人が雑誌(東京の自治)に書いていたけど、委託の人にも志があるのなら私たちはこういう業績や質を持っているのだから、入札の時に考慮しろ。あるいは人の使い方だってそんなにひどくないと主張してもよいのでは。それと二三区に限って言えば、こうやって職域を守るぞとやっている人は多くなくて、港の図書館に限ってみても、委託だっていい。自分たちは事務職でいろいろな職場をグルグル回っているんだから、安く済むならそれでいいじゃないかという職員が非常に多い。
だから保育園とか学校給食みたいにその職で雇われた人が守っているのとは全然違って、守っている人も孤立してしまっているのではないかと思います。
井東● 二三区の場合専門職はまずいません。職名がないですから、有資格者ということになるわけですが、そうでない人との間にやはり溝がある。古くからいる人と新しく来た人の間にも溝がある。職場がまとまらないのです。結局のところ何が何でも守ろうなんて人はほとんどいないと言ってもいいんじゃないかな。
それとこれはあまり言いたくないんだけど、職員をものすごく削減していく中で、新規採用職員なんて、二、三人いればいいほう。若くて優秀な人はまず(図書館に)回ってこないのです。この人は仕事をしていませんと人事記録に書き込まれているような人だとか、よく病気で休む人とか、そういう人たちがいっぱい来るわけです。
そうするとカウンターなんて、さっきの話に出たビラに書かれているとおりのことを正規職員がやっていたのです。この一年間を見てきて、委託職員の中にそんな人はいません。悲しいかな事実としてそうなのです。
だからそういう状況の中で、反対集会とかで住民の前で、公務員じゃなきゃダメなんて話をすると、みんなブーっていう感じになってしまうのです。
沢辺● 福嶋さん、お願いします。
書店の現場から見ると
福嶋● 皆さん方のお仕事の内容をもちろんわかっているわけではないのですが、一番効率のいいのはしっかりした専門職集団がやるというのは書店でも全く一緒です。旭屋の湯浅さんと論争しているのですが、彼は機械が入ったら絶対に人間はダメになると決めつけているんだけれども、ぼくはそんなことはないとずっとやっているのです。ただ現場とは別にそれを使う、あるいは集団をまとめる立場の方が勘違いされるケースが多い。つまり機械が入ったから正社員はいらないじゃないかというのはこの業界でも非常に増えています。
幸いなことにうちはそういう考え方をとっていない。あくまで人が城であるという考え方が社是ですので、毎年新入社員も採っています。
それを継続的にやるためには、ぼくらは簡単なのです。売り上げを上げればいい。人件費率が(売上げの)七%前後であればよしで、一〇%を超えるとつまり荒利が約四分の一としてその四〇%を超えるとやはり厳しい。業界には、荒利の五〇%でも仕方がない、というベテランもいますが、家賃もかかっていますし、大型化もしていますので。
ということで社員であれ、契約社員であれ削減しないでおこうと思えば、そう簡単なことではないのですが、売り上げを上げればいい。その点図書館の方は、貸出数が増えれば予算が増えるというわけではないと思いますので、大変だなという気はします。
それからできるだけ本に詳しい人間をつくる。これは合っていると思ったら、ほとんど担当は動かさないです。私どもの池袋の店の場合はレジとフロアを完全に分けていて、レジは一〇階フロアの中で一階にしかない。でもそれは決して効率だけを考えたわけではなくて本をよく知っている人間は、お金のことにあまり神経を使わずにお客さんとゆっくり話をしろという趣旨なのです。ですから担当者をうまく利用されるお客様には非常にいい方法なのです。ただ今までの通念で考えてレジで聞かれるとずっと時間がかかる。レジにいる人は実際に仕入れたりしていませんから本のことは知らないわけです。おもに学生アルバイトを入れ替えていますので、さっきおっしゃった非常勤だとか、委託の方々と同じかもしれない。
図書館ほどではないですが、やはり問い合わせは非常に多種多様にわたるので、それに対して必ず担当ごとに二名以上社員を置いているのです。実はそれが本当に効率がいい。一冊の本を探すのでは分かっている人間がやれば一〇秒で済むところが、全然知らないアルバイトだったら、まず検索端末のところに行って、しかも一文字でも違っていたら探し方もよく分からない。そういう意味で全然効率が違うし、その辺は図書館と全く一緒かなという気がします。
ただ一番気になるのは、さっきからおっしゃっているように分断の問題です。カウンターにはアルバイトしかいないと言いましたが、一番おもしろいし、一番情報が入ってくるのも間違いなくカウンターです。カウンター業務と選書、あるいは整理というのは全然違う仕事だというのは、間違っていると思います。
要するにぼくらのスタンスというのは、そういう機械仕事、回転の速い仕事はその日に入ってきたアルバイトの人でもできるので、どんどんやってもらう。ただし、新人アルバイトの手に余りそうなことが出てきた時には、ぼくら社員が必ず出ていける体制はとりたい。部署とか仕事内容ではなく、例えばレジカウンターにしてもやはり判断能力のいる仕事は当然出てきますので、ある程度の経験と知識、判断能力と権限を持っている人間が必要です。部署によって比率はそれぞれですが、片一方でいいということは一切ない。想像ですが、おそらく図書館も一緒ではないかと思って聞いておりました。
今度は利用者の立場から言えば、正直いってサービスが良ければ、あるいはにこやかな対応をしていただければ別にそれが正規職員であろうが、委託職員であろうが、たぶん関係ないと思います。
もう一つは利用者がどういうふうな利用のしかたをしているかでも、対応すべき職員は変わってくると思います。ぼくなんか店に入ってくる新刊を見ながら、リクエストカードに必要な情報は全部書けるので、それを機械的に受け取って、速やかに仕事をしてもらえばそれで十分なのですが、ビジネス支援図書館みたいなところまで行けば、かなりの能力と知識のある人が必要でしょう。その辺の職員の比率が問題なのかと。
沢辺● 知識を持つ社員を確保しようと思えばある程度の拡大をして、一定の分母の人員がいないと、その中で専門的な人たちというのはなかなか生まれづらいですよね。
福嶋● それは図書館も一緒だと思うのですが、やはり新しい人に入ってきてもらわないと。ぼくらは若い子たちの血を吸いながら生き延びているので、時代が変わっていくに従ってどんどん入れていかないと本当に硬直していく。これは本を扱っている以上は宿命的なことですから、それを維持するための経営というのが必要だろうと思います。
沢辺● ドキッという感じ。ありがとうございました。それでは大橋さん、お願いします。
公共図書館はどこへ進むべきなのか
大橋● 今回の二三区の委託問題というのは、二三区の特性から来る問題とどこでも起こりうる問題の二つから成ると思っています。まず二三区の特性の方から行くと二三区の常勤職員の司書率というのは、この間一貫して低下して来ています。最も下がったのは二〇〇一年なのですが、二一・四四%で、二〇〇二年は二三・五四%です。一方非常勤職員の方は、専門非常勤に再雇用を加えても二〇〇一年に三二・八六%、二〇〇二年には三五・三〇%です。だから常勤職員の非専門職化と非常勤職員の専門職化という状態が生まれて、この典型というのは図書館の運営経営に責任を持たない館長さんのところに集中的に出ていると思います。
二三区の図書館数は二二〇にちょっと欠けるくらいですが、司書の館長は三〇人いますが、そのうち一五名は足立区の非常勤館長が占めています。また新転任研修の講師を常勤職員ではなく非常勤職員がやっている区もいくつかあります。
財政の問題では、二三区には都区財政調整制度というのがあって、その基準は一般の都市の地方公付税制度の基準より、非常に有利だったのですがこの間劣悪になってきたのです。例えば資料費の場合、一九九〇年には住民一人当り二三区は一五一・二円で、市のほうは五八円だったのです。ところが二〇〇一年になると市が一五八・二円になって、二三区は一一九・一円と逆転するのです。そういう中でいろいろな問題が起きていると思います。
全体の問題としては、自治体の経営のあり方として、アウトソーシング、委託できるものは委託していこうというのが、国の政策も含めて構造改革のテーマになっています。志木市なんかの場合その典型ですが、今の職員を一〇%に減らしてあとを委託ボランティアでやるというのが方針になっています。
また介護保険の導入で、それまでヘルパーさんは各区にいたのが廃止になって、今残っているのは三区だけです。同じように保育園。三鷹市の例が有名ですが、公立の直営の保育園を作ると金がかかりますから、公設民営でやる保育園を作って例のベネッセに委託する。そこでは園長さんの賃金が二七〇万円ですから、他の職員は二二〇〜二四〇万ぐらいで働く。この構造改革が明治維新と戦後改革に次ぐ三番目の改革と言われるように、労働市場そのものも非常に大きく変わってきています。
図書館の典型事例は大田区だと思うのです。大田区は人を減らすのに合わせて業務の根幹、非根幹を決めている。だからレファレンスも非根幹だという位置づけになって委託になるのです。常勤職員が二名であとは再雇用非常勤が二名、だから夜とかは職員はいないのです。千代田区の場合も同様です。
全体として図書館なり、保育園なりそういうサービス行政そのものを市場化していくという動きが大きい。
図書館経営を考えるんだったら、常勤職員を減らしてもいいですから司書を採用するという制度をとればいいと思うのです。
都立図書館の再編の問題の時に多摩の館長会が都に出した要求と、二三区の館長会で議論されていた内容はまったく異質なのです。七〇年代以降の都の図書館政策で、図書館が一斉に出来て、それが今どこの図書館でも残っている本が同じになっている。共同保存庫を東京の中で作る発想なんていうのはちょっと考えれば誰でも気がつくことで、多摩の館長会はまだまともな館長会ですから、そういう要求をきちんと出す。二三区ではそのような公益的な行政資源の共同利用といった発想の上に立った政策的なものが対置されてこなかった。当然だと思うのです。管理職で最も責任者である人たちが一〜二年で異動していく。その間どう勤め上げようかという話にしかならない。
本当にまともな図書館があって、その上でどこを委託するかどうかという議論になると思うのですが、そこの大元、根元のところをきちんとしないで蛇口のところだけで議論をするのは私は根本的におかしいと思うのです。
いわゆる常勤・非常勤の問題だとか賃金の問題は非常に深刻だと思います。非常勤を切って委託にした動機の一つとして、非常勤の人を連続雇用していった場合、辞める時に退職金を払うのか払わないのかという問題が出てくる。厚生労働省もパート労働のレポートの中で、フルタイムの賃金の七割ぐらい保障しなければいけないと言っている。その辺がいろいろ大変だから委託に出すというのが隠れた意見としてあって、いくつかの区の今後の図書館のあり方の報告書の中でもそう露骨ではないけれど、書かれているものもあります。
だからすごい深刻だけれど、今何から始めるべきかという点できつい問題を抱えている。片一方に利用者から批判されてもやむをえない二三区の図書館サービスの現状を抱えながら進んできていますから、なかなか大変だと私も思っています。
沢辺● ありがとうございました。ぼくは今日はもっと簡単だと思っていたのです。もうちょっと簡単にみんな委託反対と言ってくれるものだと思っていたのです。挑発すればだいじょうぶだなんて。(笑)
大橋● 委託の問題を全体に説明するというのは非常に難しいですよね。
井東● わりと突っ込んで話している人は分かると思いますが、全般的には、まだ調布やその前の足立の公社委託のイメージでとらえている人もいます。それでかみ合わなくなってしまうのです。
大橋● 全国平均でいえば図書館の職員は、常勤が全体の六割で四割が非常勤、アルバイトなのです。だから五割くらい常勤がいれば、あとは委託でも非常勤でもアルバイトでもいいのではないか。雑な議論をすれば、同じ効率ではないかという論理もできないわけではないのです。
井東● 利用者像の問題もあります。都会は昼間人口がすごいわけですが、その自治体の住民ではないので、使い勝手が悪ければよその図書館へ行ってしまう。接触も好まないし、図書館がどうなろうと基本的に関係がない。そういうたくさんの人たちが使っている図書館のあり方というのは、どうしても難しいところがあります。
大橋● 七〇年代、主婦と児童に傾斜して、これからの図書館利用者を育てるというのが政策だったし、図書館界の合意だったわけです。従来は児童サービスというのは、子供たちが群れて図書館に来ましたから、そこに飛び込んでいって子供たちの興味を引き出して本と結びつけるという仕事ができたのです。今少子化が進む中で、だいたい家族といっしょに図書館に来て、お父さん、お母さんが本の読み聞かせとか紙芝居をやるという風景が多いわけです。図書館員のフロアワークということが成立するのかしないのか。
またビジネスマン、サラリーマンも図書館に来ていて、その比率が高まって来ています。そういう状態に図書館活動が照応しているかどうか。委託だけの問題ではなくて、もう少し考えてみなければいけないことがいっぱい出てきてる。社会状況がずっと動いてきている中で、公共図書館が今どこに進むべきかというのが非常に揺らいでいる問題だと思うのです。
プライバシーを巡って
沢辺● いくつかの問題から片づけましょう。一つはプライバシーが守れるか、守れないかということについて。
大橋● 住基ネット以降、利用者の意識ががぜん変わりました。従来カードをなくした時は、なくしても借りられるかという質問が多かったのですが、今は、第三者に利用されないかというのが多くなりました。そういう時に役所が持っている行政情報について、どう扱うかというのは、きちんとしなければいけないことだと思います。
でも条例を調べて行くと、契約事項できちんとすれば委託してもいいというふうに制度的にはなっています。
だからどこまでプライバシー保護をすべきかいうことについて選択するのは、利用者なり区民の人たちということになると思うのです。
沢辺● もう一つぼくが確認したいのは、委託になるととたんにプライバシーが犯されるとという議論です。例えば法律で強制されている公務員だと守られる確率が高くて、それ以外の人だったらそうではないというのはどうなのだろうか。
委託とか身分とかに関わりがあるのかどうか。
手嶋● 町田市ではプライバシーに限りませんが、制度化された研修をやっています。実際には短期の臨時職員だとそこまでやれないというふうに、研修をやれる範囲が自ずから出て来てしまいますけれど。常勤・非常勤と長期の臨時職員。その範囲だったら、絶対に大丈夫だというわけではないけど、ある程度のガードがかかっているなという感じがします。
沢辺● 正規職員だとか、委託先の職員とかいう区別よりも、そういう研修をちゃんとやるか、やらないか。
手嶋● それが保証できれば、委託だからダメというふうにはならないだろうと思う。ただ委託の場合には図書館の側から研修はできないわけですよね。
井東● あくまで会社が主体で研修をやる。
小形● 責任の問題として考えるべきなのかと思うけれど、こちらは言わば利用者からプライバシーを預けられているわけですよね。それを外部に出してしまうということは、仕様書なんかでしばることは可能としても、コントロール出来ないところに置くことがどうなのかという気がする。
少なくとも中におけば、研修にしろ何にしろ、目に見える形でのしばりというのはある程度効くと思うのです。
沢辺● ではジュンク堂では、社員にプライバシーに関する研修とかはやっているのですか。
福嶋● いや、実感でいうとむしろ逆で、アルバイトの子はそれを悪用しようなんて知恵はないから、一番悪用する可能性が高いのはぼくだと思います(笑)。
悪用とかひどいことばを使いましたが、ある程度相手のプライバシーに踏み込んでいける人間というのは、要するにそのことで受けるかもしれないダメージを知っている人間。つまり下手な踏み方をしたら反撃を食うし、その場合ぼくらは商売人ですから、こちらのダメージが大きいわけです。ですからそういうリスクをおかしたくない人は逆に踏み込まないと思うのです。
本多● ぼくはペナルティの問題だと思うのです。よく言われたアルバイトは守秘義務がない。地方公務員法の公務上知り得た秘密を漏らしてはいけないという条項にひっかかる人たちじゃないから、ペナルティを持ってない分公務員とは違うんだと。そんなことはないとぼくは思っているんだけど。
非常勤職員というのは、ちょっとこみ入ってしまうけれど、地方公務員法が適用されないから、就業規則や要項とかでしばるしかない。
ただ地方公務員法は辞めてもひっかかるのがあるのです。罰則規定とかも。
だけど民間でも会社の大事なノウハウを持ったまま違う会社に引っこ抜かれて、それをそのまま使ってしまったら民事訴訟が生まれるということもある。だから委託だって、契約条件とか会社が就業規則で縛っておけばペナルティは生まれるわけで、差は全然ないと思います。
あとはそれを倫理として職場にどう活かしていくかというのは、それぞれであって、常勤だってひどい場合もいくらでもある。だから根本も何もない。やれば同じだと思います。
井東● 今言われたとおり、TRCは実際に自治体との間でそういう契約をまず結びます。TRCと雇用している人たちとの間でも契約を結んでいるわけです。その条項を見せてもらいましたが、やはり退職後も秘密を漏らしてはいけないとちゃんと書いてある。何か漏らせば訴訟を起こされる可能性があります。
本多● 今回プライバシーで大損をしたわけでしょう。
沢辺● だからあれを辞めさせてしまうのは、かわいそうだと思うけどな。
小形● TRCを切ってしまったということ自体がですか。
沢辺● 本人が解雇されるのはともかくとしてTRCだって他に働いていた人がいるわけじゃないですか。ぼくはどっちかというと委託される側の立場だから。確かに社員の一人がしでかした不始末はいけないことは事実だから、委託を続けさせろなんて絶対に言えないと思うけれど、可能性としては正規職員にだっていっぱいある。その本人は首にしたとしても、会社が切られたら他に働いている人もその仕事がなくなってしまうわけではないですか。普通の公務員だったら一人が処分されるだけでしょうから、それに比べて著しく重たいなというアンバランス感があるのです。
本多● それは委託だから。まず会社と契約したわけだから、会社がペナルティを受けてしまうというのは仕方がない。
大橋● 逆に区民から問われるのは、そういうことをやっている会社と契約し続けるとは、どういう発想をしているんですかと。そういう時実際に自分たちがきちんとやっているかどうかは、とりあえず横において、うちはそういう問題をかなりシビアに見ていますということで指名停止なり、契約解除をする。役所というのは建て前の社会ですから。
沢辺● それはよく分かります。
大橋● 自治体側ではTRCはずしが今年度、江東区の事件を踏まえて行われたというのが実態です。会社のイメージはあれによって、きちんと職員教育もできない、倫理観が持てない。そういう会社だという評価を自治体が結果としては下したということだと思うのです。
沢辺● それはしょうがないですね。ごめんなさい。率直に言うと委託だからああいうことが起こったんだというような論調があったように感じていて、それにはぼくはちょっと同意しがたいということだったのです。
本多● 委託の属性ではない。
沢辺● 委託に必ずついているもの?
小形● そういうのはないよね。
本多● あの事件で相当こりて、自治体よりすごく敏感になっています。
井東● その反省力というのは、民間企業にはあるんではないですか。
サービスはどうなるのか
沢辺● この問題はこの辺にしましょう。次に利用者にとっての評判なり、サービスということで考えるとどうでしょうか。
大橋● サービスが良くなったいうのは接遇の部分と、もう一つは商品知識を持って、そういうものを提供する部分。二つの側面があると思うのです。よく言われるのは、感じがよくなったとか、きちんと挨拶ができるようになったとか。もう一つの面の方が二三区は大変で、まともにレファレンスサービスが出来る職員が従来から本当にいたのかどうか。その辺が非常に鮮明にならない難しい問題です。
井東● さっきの問題に戻るのですが、二三区の場合は開館時間がやたら長いのです。その全時間帯にレファレンスを完璧に出来る職員を配置したらいったいどのくらいのコストがかかるかということを考えたら、はっきり言って今の状況ではまず不可能です。ということで、あらかじめあきらめられていたというところもかなりあると思う。だから期待されていない分、失望もないのです。
大橋● 二三区の現状を象徴的に表しているのは、今年からレファレンスカウンターを各館に設けたのです。それが実際だと思うのです。だから良くなった、悪くなったとは単純に言えないですね。
本多● 利用者から委託にしたとたんにクレームがつきはじめたというのが本当にちょっとでもあったら、すぐにビラになるはず。だけどそういうのはないから、利用者から見てもずいぶんダウンしたというのはないんだと思います。
沢辺● 接遇が上がったという話はあるが、委託にもれなくついてくるものとして、サービスが下がるとは必ずしも言えるような状況はまだない。
大橋● もう一つおもしろい話があるんだけど、ヘビーユーザーの利用者の人がカウンターを見て、今日は当たりだ、はずれだというのが、二三区のカウンターなのです。井東さんが今日はカウンターに立っている。彼に聞けばこれは頼めるけれど、他の職員では頼めないというふうに。その典型は足立区です。長い常勤職員が相談係というネームプレートをつけるのです。私に聞いてくださいというやつです。職員集団を選別化するのです。
本多● 職員側からよく聞く声として、委託になるとコンビニエンスストアに勤めるのと同じような感覚で短期で勤めに来てしまう人がいるから質が落ちるのだと。
沢辺● コンビニだって、今日は当たり、はずれっているよ(笑)。
小形● 委託の職員だと、そこに長期にいる保証がないわけですよね。そのことによってサービスが下がるということが、あり得るということでしょう。
井東● 実態からいうと、とても一生懸命にやっている人が多いです。うちの場合は定着を条件に付けていましたから結構定着しているし。ただ蔵書に対する知識が根本的にないし、我々よりも長くカウンターに入っているのにもかかわらず、正規職員で有能な人の伸びを考えると、なぜかそこまで行かないです。やはり部分しかやっていないせいなのかという気もするけど。
例えば最近の例でいうと、同じ本の書誌が二つあったにもかかわらず、平気で両方に予約を入れ続けている。何人もの人間がやっているんだけれど、全く何日も気がついていないのです。
大橋● 今までの仕事の形態でいうと、例えば選書の場合、見計いは別として、様々なパンフレットが来たら袋に入れて全員回覧をして、付箋を貼らせて買うものを選別する。そういうシステムの中にカウンター委託だけ入っても、(委託の職員は)この仕事が全体像のどこに位置しているのが分からないから、それによるハンデというのはすごく負っていると思うのです。
井東● それはある。要するに車のメカニズムを全く知らないで運転だけやっている。
本多● それは常勤職員でもいるわけでしょう。ただ、それは教えるわけで、違うよ、だめだそんなんじゃと。委託だとそれが構造的にできない。直接ではなく、会社を通してやらなくてはならない。経験が伝授されていかない。教育が成り立っていかない。だから委託はだめだと思います。
大橋● 労働派遣でやるのか、請負でやるのかというのは全然違う様相を図書館の風景に作り出すのです。ぼくなんかは労働派遣できちんとやればと思うのですが。
井東● 派遣だったら指揮命令に従うわけじゃないですか。そうすると指揮命令をする人がいなければならない。職員を根本的になくす事ができないのです。当局がねらっているのは全面委託だからそれはまずいんでしょう。そういう流れであれば、もっと委託の質を上げないとだめなのです。
委託の職員とは
沢辺● 前に図書館のシンポジウムがあって呼ばれて話をしたことがあったのですが、びっくりするほど司書希望者という人たちが多く来ているのです。ウェブサイトを作って、どこそこで司書採用があるぞとかやっているわけです。
今のそういう司書人気とかを考えると、二三区は司書で入ることは絶対に無理なわけですから、図書館に入れるやり方として、そういう(委託会社経由で行くという)方法もある。
本多● 司書人気がそのままスライドできるような形になっているかどうかだよね。
沢辺● 金が安いとか。
本多● TRCの(委託社員)の司書率が三〇%というのがもし本当だとすれば、それを一〇〇に変えるのは簡単なことだと思うのです。
井東● やる気になればね。あえてやってませんけど。
本多● 公立図書館の非常勤の採用なんか二〇倍とかのすごい倍率が普通になっているわけだから、そこが無理だったら委託会社で雇えば流れていくと思うんだけど。でもそこまで図書館が好きでやる気のある人を雇ってしまうと、長くやりたいというふうに絶対なってくる。
井東● あとで支障が出てくる。
本多● 委託会社としては、そういう人は使いたくないというのがあるんじゃないですかね。
入札の条件に司書資格を持っている人を最低一年は雇うこと、とか入れたらどうですか。
井東● それを(墨田区では)司書、もしくは同等の能力という言い方で仕様書になっていたのです。それから長期雇用というか、最低一年ということも入れたのですが、それは強制はできないですよね。そのつもりでやってますけれど、個人の事情で辞められましたと言われたらそれまでなので。最初の二カ月にはこんなはずじゃなかったという辞め方をする人が結構いたのです。
小形● 現実にはそういう人が来ているのですか。
井東● 今いる人たちは結構本当に一生懸命の人が多いです。それなりに一年たつとお得意さんも出てくるようになった。
小形● コンビニとか、ファーストフードで働いているというイメージとは全然違う。
井東● ところが勤務時間が長いと、そういう人たちで全部埋めるのは無理なのです。半年も経つと一〇日間有給とかも発生してしまう。そうなると今度は臨時で入れなければいけないのですが、このコマだけやってくれる人はそうはいない。結局三つくらいアルバイトをかけ持ちしているような人を、はめざるを得なくなってくるのです。
小形● そうすると会社の中でも階層分化している。
本多● でも大きなコンビニやファーストフードだって、全員が三〜四カ月でコロコロ変わってやっていけるのですか。やはり精通した人が必要では。
沢辺● 書店のカウンターなどではどうなのですか。
福嶋● ジュンク堂池袋本店では、レジが一階集中型でカウンター専属でアルバイトを採用しています。その人たちは実際に棚で本にふれることがないので、商品知識はなかなかつきません。そうした全然(図書のことを)知らない人ばかりがカウンターで、当然フロアの連中は不安がっているのです。結局お客さんに怒られないためにはどうしたらいいのかということを生存本能で覚えていける人が残っていって、二年も続けている人もいます。そうなるとやはりだいたいフロアの中の位置関係も頭に入っていて、四月に入った新入社員よりもよく分かっている人が出てくる。それはある意味では淘汰される部分です。あえて点数をつけて給料格差をつけるなんてことはしていないし、できないですが。
うちの話ではないのですが、ヒントになるかなと思うのは、ファーストフードや何かでアルバイトをしていて、半年一年いてしっかりしてきたら店長の代わりみたいなことをやらされる。それがいやだから辞めましたというのは今の若い子に多いです。
井東● 今回そうだったのです。一年経って、責任者、副責任者といって上の二人くらいを月給制に変えた。でもその時に断って辞めてしまう人がいました。そういう責任は負いたくない。
大橋● それはもちろん日給月給でしょう。常勤職員にしたわけではないでしょう。
井東● 月給制の契約社員。
大橋● 非常勤職員と同じだ。
小形● 今年入れたところはそういうスタイルが結構あるのではないですか。他の自給八五〇円の人とは違って、月給一八万円とかで入って、マネージャー的な全体のまとめとか、教育なんかをするような。
大橋● この受託会社全体が一定期間働いた時に、正規職員にするしかないかということが非常に組織としては大事な問題だと思うのです。そういう先が見えないと、やはり働く者にとってはきつくはないのかな。
沢辺● そういうこともあるし、逆もあるということです。
井東● ずっと働くいうことが重いという人もいるのです。
福嶋● 最初から言おう言おうと思ってなかなか口をはさめなかったのですが、ぼくらにとって一番のサービスというのは、ごく単純にいえば休館日がなくなるということなのです。でもそれをやるために正規の職員の人たちがもちろん全部出て行くわけにはいかないから、そこまでいかなくてもお留守番でもいてくれて、とにかく館が開いているだけでも非常にありがたい。
ぼくが昔から思っているのは、お医者さんというのは結構わがままではないですか。休みがどんどん増えてきて、時間だって短い。でもどうしてもその人にかかりたかったら、その時間に都合をつけて行くしかない。それと同じようにさっきおっしゃった当たりの職員に当たりたかったら、逆に利用者の方で、その人はいつ来ているんだということをあたってもよい。
沢辺● 病院なんか名前が貼ってあるではないですか。午前誰先生、午後誰々先生。
井東● 荒川区はインターネットのレファレンスの場合は名前を名乗ってやっているので、指名も入るそうです。
沢辺● ぼくは賛成です。個人名で取ってほしいですね。
大橋● でもそれは大きな問題提起だね。議論を呼ぶよね。レファレンスで自分が分からないジャンルとかがある時には、そこに強い人にここまで調べたんだけどどうかと引き渡しをするのです。だからそういう性格の仕事だという意味では全くそうでしょうけどね。
沢辺● ぼくはやはり人間は人にほめられたいというのが根本的にあると思うから、ありがとうございました、本当に助かりましたというのは仕事のなかでは欲しがる人が多いと思うのです。だとしたらやはりそれは個人名をさらして仕事をしないと実現できないだろうな。でもこれは皆さんの現場からしたら、大変な問題なのだろうな。
大橋● レファレンスをしたことで、どんな成果がお客さんにあったのかというのが実際にあると、少々苦労しても麻薬ですよね。手当なんか出なくてもいい。
本多● 入り口はバイト感覚の問題で入ったと思うんだけど、バイト感覚というのはステレオタイプに見ないで、いろいろな側面があるよでいいわけですか。
井東● いろいな意見が出ましたが、結局お客さんのほうも、聞きたい人、世話をしてもらいたい人もいれば、世話をされたくない人もまたいるのです。ということは逆に言うと受け取る側も、自動貸出機もあれば聞ける人もいるというふうになってくるのは、しょうがないのではないですか。
小形● 一律の職員体制というものを置いておく必要はない。
手嶋● だからトータルとしてどっちがいいのかということですよね。責任を持てるかどうかということもあるしね。たまたま職員の中に当たりはずれがあったりとか、委託の中でもきちんとできればそれで問題がないんだろうけれど、きちんとやるためには費用がすごくかかってしまうから、逆に委託には出されないですよね。安上がりにするために委託しているわけだから。
利用者が選択すればいいんだという考え方ももちろんあるんだろうけれど、図書館がトータルとしてそれをきちんと見極めてやれるかというところだと思うのです。委託にした場合にそこまで責任が負えるのか。全部引き受けられるのか。
井東● 現状ではどうなのかというと、当然委託職員で完結することもあれば、完結しないこともあるわけです。それでだんだんその職員で手に負えなければ吸い上げて、そこで切れているわけではないのです。うちの場合は正規職員はずっとつけていますから。
ただそこであえていうと、最初の(利用者への)インタビューというのは大事ですね。そこで問題を取り違えて受け取っているというケースが多々あるのです。相手の言っていることを理解していない。そこに居れば分かるのですが、それを間接的に持ってこれらた時に、それを調べて持っていったら全く違うことを言われていたということもあるわけです。その辺はちょっと困るのです。
手嶋● いくら職員が一緒にやっているといったって、それをフォローできる体制がどうかというのはまた全然別の問題ですね。
井東● またフォローできる職員かどうかというのもある。
何のための委託なのか
本多● ちょっとずれるかもしれないけれど、荒川区の児童館の話なんだけど、二三区の児童館がある時期に一斉に常勤職員でやるようになった関係で、四〇〜五〇代の職員がたくさんいて二〇代がほとんどいない状態になってしまった。それが主な理由で委託になった。その仕事を担当した係長がそういう理由で委託をやるんだからと、大卒で区役所に入って五年経った程度の賃金を支払うことを入札の条件としてやって、ほぼそれが実行されたという例を聞いたことがあるのです。
だから何のために委託するかがはっきりしていれば。例えば図書館も同じようなものだけど、ぼくと同じ四〇代の男が三人カウンターに揃ったことがあるんだけれど、来るな、みんな近づくなと言っているような雰囲気だったと思う。(笑)さっきの二〇代の人でなければ分からないような話だってあるわけで、それが今いないので確保したいんだというのであれば処遇をどうするのかというふうにいく。最初がとにかく人件費を下げなければいけないんだというところから入ってしまっているから、全部困っているわけで、そこに矛盾がいくようになっている。
大橋● 例えば井東さんにこれくらいの金で墨田の図書館をやりなさい。今まで委託になって一億くらい減った。この範囲でやれることを考えてみなさいといったら別な手を打てる方法というのはいっぱいあるんですよね。
井東● 結局どういう図書館にするのかというあたりまえの問いがあって、そこでこういう基本計画のもとにこういうサービスを作るから、この部分は委託しようという話があればまだ納得できるのです。でもそういう議論は絶対にない。たぶん委託に入ったところではどこもないと思います。
沢辺● でも、それはなんで井東さんの方から出さない。
井東● 出しているのです。内部でさんざん挙げたりしているのですが、そういう意見というのはなかなか通らないです。
大橋● 文京の時もプロジェクトチームを作って議論をしたのです。はじめはあり方検討委員会で正規を二〇名減らすというのと、行革本部の方は非常勤で対応しなさいということで委託問題はなかったわけです。自治体行政全体がアウトソーシングの方針になってきた中で、最後に委託が出てきたのです。
あるメンバーが二〇名減らしたままでいいですというといったら、中心館長は常勤職員の労働条件が悪くなってかわいそうだから、それは採用できませんという話が議論の立て方なのです。
井東● 民間会社だったらほめられていいことなんでしょうけどね。
沢辺● 今、例えば地域の共同体が崩壊しているわけですよね。そういうことも含めて、図書館の政策がもう一回作られる必要があるのかなって思うんだけど。そしてそれは全国レベルで、各実情を踏まえた上での図書館の基本政策みたいなものを。
井東● それはもう始まってますよ。おととし文部省が「望ましい基準」というのを出したんですよ。その中に自己評価しろとか、数値目標を出せとか入っているんです。それに基づいて静岡市、岡山市、札幌市などいろんなところが、図書館計画というのを作ってパブリックコメントをいっぱい求めているんです。
図書館政策なり図書館計画が動き出せば、当然へんなことは出来ないわけですから、委託をするにしても質をともなった委託になると思うんです。闇の中で何がどう行われているのか分からず委託が進められている二三区とは違うと思います。
本多● 例えば保育園が待機児童を減らしたということになると、区役所中でほめることになると思うんですよ。図書館が貸出冊数や利用者数を増やしたとしても、自治体で高く評価されるような認定になっているかどうか。だから図書館が良くないと自治体のレベルが低いんだみたいな認識がそもそも作られていないから、あそこは安く抑えておけばいいということになってしまう。循環構造だと思うけれど。
きっと利用者とだけやっていてもだめで、区役所の職員ですら図書館の情報ってほとんど意識しない。
井東● 意識しないですね。そんなのあったのかなんて感じで、でも住民の意識調査なんかだと図書館は位置づけが高いんですよね。だけど圧力団体としてまとまらないから、なかなか反映されない。
手嶋● スポーツ系の団体だと、予算を削られたら大挙して押し掛けるんです。だけど図書館というのは、もともと利用が個人的な営みでしょ。そういうところと比べると全然おとなしいですよ。圧力団体もないし、ロビー活動もない。
大橋● 役所の政策についても今までは非常に貧困で、他のコピー的なものは出てくるんですが、それに対して資料提供をして豊富なものを作る。横浜市立なんかはビジネス支援という言葉を利用者に使っているわけですが、行政支援サービスということで役所との交流は始まってきてはいるんです。
本多● 例えば保育園の空き状況とかが図書館に行くとわかるという形がないと、いくら利用が増えても、あそこの特殊な施設と利用者のことだけで、(役所)本体に関係ないっていう感じは変わらないと思います。委託の館と貸出数を競っても、全然違うところで勝負してるという気がするんですよね。
手嶋● そういう意味では町田市では、庁内レファレンスや議員に対する政策立案の側面援助だとか、そういうことは掲げているんですよ。まあ徐々にですけど。戦略的な意図を持ってやっているつもりなんですけど、なかなか浸透しないですね。
図書館のあり方を考える
沢辺● すみません。私の進め方が悪くて時間が来てしまいました。それぞれ本当に一言だけ言いたかったことを言っていただいて終わりにしたいと思います。
手嶋● 最初に人件費の問題を言いましたが、それは依然として続く問題だなと思っています。資料費がこれだけ削られても人件費が減らないというのはどう考えても、利用者の立場から見たらおかしなことですよね。その辺はきちんととらえていく必要はあると思いますし、今後町田市でもやらざるを得ないと思います。
今日の議論の中では出来なかったですが、やはり図書館というのは教育機関という位置づけをきちんと持つべきだと思います。さきほど丸ごと委託という話も出ていますが、それが本当に可能なのかということを法的な部分でも検証していく必要があると思います。生涯学習審議会の答申の中にも委託とかが方向性としては出ていますけど、まだそれが完全にOKになっているわけじゃないんですね。そのへんの議論は今後やっていく必要があるんじゃないかと思います。〔注〕
井東● 内部から図書館の生き方というかあり方、そういうものをなんとか作ろうと思います。これからは職員がいなくなってしまうわけですから、ある程度路線を敷いておかないとどこに行くかわからない。
でもこれは中の努力だけでは非常に苦しいので、今ある条例ではなく中身のある図書館条例を作る運動みたいなものを展開して、そこで住民の理解者を募っていくようなことをしないといけない。せめてテニスの団体のようにまとまってもらわないと絶対に今の流れは変わらないと思う。そういうことも画策しようかなと思っています。
本多● 二三区に限った話になってしまうかもしれないけど、臨時職員や非常勤職員の方が安くつきますという論理は是非やめてもらいたい。それはその人たちも全然低いわけですから。それと混在している場合に指揮命令が出来ないっていう話を良く聞くんだけど、指揮命令というのは管理職がああしろこうしろという話であって、新人と古い人がやってもそれは指揮命令じゃなくて仕事の相談なんです。委託の人たちと相談関係を作れるというのは決して出来ない話ではないので、そこから出来て来るものはあるんじゃないかなと思います。
福嶋● 今日の問題と直接関係のある話ではないんですけれど、ぼくは図書館が複本を入れるから本が売れないなんて思っていなくて、実際自分も利用しています。
都内の図書館の本を探せるサイトがありますよね。「今はもう小売では買えないけれど、本当に読みたかったらここにあります」というように書店と図書館が、どっちが売るんだ貸すんだという話ではなくて、読者に本を読んでもらうためにはどうしたらいいのかということをめぐってもっと風通し良くしたい。
日書連と日図協なんていうとでかくなりすぎるので、もっとこういう現場レベルのところで風通しが良くならないかなって、昔から思っていました。
それぞれにアドバンテージのあること、最先端の流行り本の読書の敏感度というのは、やっぱり書店現場の方があると思う。逆に図書館の方はうちにはこんなに貴重な本がありますよっていうことの情報交換が出来たら、双方とももっといいサービスが出来るんじゃないかな。
それが漠然とした理想論ですけれど少しずつでも出来ていければいい。図書館は図書館の中だけで悩んでいて、書店は昔の良い本が売れなくなったと頭をかかえているだけじゃなくて、じゃあ、それをどうしたらいいんだみたいなことでもっと垣根を崩していけないか。それぞれが勝手に作っている遠慮をはずしちゃう方法がないかなと考えています。
正直言って委託問題についてはそれほどできる話がないんですけれど、参加したのは実はそういうことを少しお願いしたかったからということです。
沢辺● うちは本を出して売ろうとしているわけですよね。本を巡るサービスをしているということでは、図書館も同じだと思うんですよ。書店と取次と出版社は何らかの形でつきあいがある。今日本出版インフラセンターというのが出来ていて、その中に日図協も入っているけど、まったく異質な感じがする。
そういう輪にも入らないとだめじゃないかな。市民とかに聞いていくのも大切なんだけど、本がらみの業界での共闘っていうのはあると思う。
例えば図書館の講演会に版元が書き手を提供します。一方その時はその人の本を売らせて下さい。地元の本屋が本を持ってきます。というような循環を作った方がもっと面白く流動していくんじゃないかと。
複本のことを本が売れないと問題にするようなくだらない批判が減ると思うし、ぼくのポジションからいうといい形になる可能性があるんじゃないかと思います。
大橋● 図書館が曲がり角にきているということ自治体の職員そのものが一つの特権階級になっていることが、この問題の背景にあるだろうと思います。例えば民間の人たちと二十人くらい集まって飲むと、会社が潰れたとかリストラにあったという人が三〜四人はいるんですよね。それが我々のところは皆無に等しい。
二三区の図書館職員の状況をみると、権限を持っている人は図書館についての知識がない。知識がある人は権限がない。この問題は解決しないまんまです。それを変えていくためには、踏み込んだところできちっとビジョンを作って行く必要があると思います。
典型的な例として役所の中には資料室ってあるんですが、本当に機能していないので(図書館の)ネットワークに入れて行く。あるいは過去の新聞記事をコピーにとって、何年も前の事件とかでも検索出来るようにする。そういう利便性を高めるような問題提起をして、図書館に近づけていくという作業も必要だなと思っています。
小形● 委託の問題というのは、いろんなところに話が行かざるを得ないと思います。
今の図書館像そのものが非常に揺らいでいるし、図書館の存在理由というのが問われている。市場との接点では既に新古書店で有料で本の貸しが始まっている状況で、公共図書館でなくてはいけないということがないと生き残ってはいけないし、斜陽になっていってしまうと思います。
もう一つは、委託の労働者の問題で図書館で働く人はこのままいくと、身分的に保証されている常勤、中間くらいの非常勤、ほとんど保証されていない委託の人と三層構造になって身分化が進むのではないか。二三区で図書館に入ろうとすると非常勤ですら難しくなってきて、本来常勤で入るべき人が委託で入って時給八五〇円とかでスタートする。それが図書館の労働者として本当に良いことなのか。労働条件とかを契約の中に入れていくというのもさきほど示されましたが、今の委託はとにかく人件費の削減でいく限り、それも難しいことではないかと思います。
委託の労働者も含めて闘う。同じ労働者として一緒に手を結んでいくことを考えていかないといけないと思います。
沢辺● 今日は、本当にありがとうございました。これで終わりにいたします。
〔注〕
座談会から日数が経過したため、民間委託に対する状況が変化しつつある。昨年秋に地方自治法が改「正」され、公の施設の管理委託については、「指定管理者制度」が導入された。つまり、「全面的な民間委託が可能」になったのである。
文部科学省は、文部省時代から持っていた図書館等の教育機関の委託はなじまないという見解を捨て、「今後は館長業務を含めた全面的な民間委託が可能である」という見解を明らかにしている。
この結論に至る背景には、座談会で触れているように、生涯学習審議会答申(一九六八年九月)による社会教育施設の民間委託の検討が布石になっているが、いくつかの地方自治体から「必置職員に対する教育委員会の任命」が民間委託の阻害要因として指摘されているらしい。要するに規制緩和である。今後は、教育委員会の任命を行わずに民間への全面的な管理委託が可能になるという。
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