しばらく前から出版業界では、同業者同士のあいさつは大抵「本が売れない」の枕詞ではじまるようになった。
世の中が不景気なのだから、出版もその例に漏れないだけのことなのだけれども、かつての出版業界は景気が良くても悪くても、全体として出版物の売行きにあまりかかわりがなかった。好景気に浮かれることもなければ、不景気に泣くこともないという、至って“健全”な市場のはずだったのだけれど……。
なかでも売行き不振のまっただ中にあるといわれているのが児童書だ。
しかし児童書の場合は少々産業構造が違うというのが定説になっていて、どうやら不景気ばかりが不振の原因ではないようだ。
児童書市場がいったいどのような構造で成り立っていて、児童書出版関係者は今後にどのような展望を見出しているのだろうか。
文◎長岡義幸
ながおか・よしゆき●フリーランス記者。1962年、福島県生まれ。主な取材テーマは出版流通、言論・出版・表現・流通の自由、子どもの人権、労働者協同組合など。
著書に『物語のある本屋』(共著、アルメディア刊)。
本稿に対するご意見・ご感想などがありましたら、こちらまでお寄せください。
書店売上は、8年で4分の3に減少
取次会社トーハンの関連団体である全国出版協会・出版科学研究所(出版科研)は今年六月、『出版月報』の誌上でショッキングなデータを明らかにした。児童書市場[*01]の販売高が1991年の1000億円をピークにして、7年後の98年には200億円も減少した800億円規模になっていると推計したのだ。いくら出版業界が不景気だといっても、10年に満たない期間で売上げが2割も落ち込んだジャンルはないから大変な事態だ。[図表01]
さらに日販経営相談センターの出版物売上高データ[図表02]で毎年の販売動向をみると、児童書が他ジャンルと比較して特異な動きをしていることがわかった。
総売上高は94年まで前年を上回っていた。しかし児童書の場合、91年を頂点にして92年以降は1度も売上高が回復することなく下落する一方になっている。同様の動きをしているのは新書だけだ。仮に90年の売上高を100とすると、98年には全体で約3ポイント減少の97.3でとどまっているのに対して、児童書は75.4にまで悪化している[*02]。このデータでみる限り、書店での児童書の売上げは、たった8年間足らずで4分の3になってしまった。
ちなみに本の全体状況をみると、1998年の出版物(書籍・雑誌)推定販売高は2兆5415億円(前年比3.6パーセント減)で、うち書籍が前記のように1兆100億円(前年比5.9パーセント減)、雑誌が調査開始以来数10年ぶりに前年を割り込み1兆5314億円(2.1パーセント減)になった(出版科研調べ)。
書籍は2年連続の減少だ。しかもはじめて書籍返品率が40パーセントを越え、販売部数は前年よりも7.1パーセント減少の8億1337万冊になった[*03]。部数減の割に販売額の落ち込みが少ないのは「定価」の上昇が寄与しただけのことで、実状はかなり深刻だ。今年に入っては全体の減少速度が緩やかにはなっているから底に近づきつつあるのかもしれないが、本の売上げをめぐる状況は厳しく、さらに児童書はもっと厳しいということがデータからわかる。
福音館書店の販売部長、塚田和敏さんは児童書の苦境をこう語る。
「最近の売行き良好書上位50位をみるとポケモン、プラレール、トトロ、アンパンマンといったキャラクターものばかり。創作絵本はようやく『ぐりとぐら』(福音館書店)が11位に入り、あとは『いない いない ばあ』(童心社)がでてくるくらいです。キャラクター商品がちまたにあふれ、それがいわゆる児童図書出版社の苦しさとなって現れているんです」
旧来型の児童書出版社にとってはキャラクター商品の隆盛が驚異となっているわけだ。塚田さんはさらに、出生数の減少が顕著になった時期に遅れることほぼ10年で、児童書の売行きが減少に転じたのだと指摘する[図表03]。それが91年以降だった。ピーク時の出生数は200万人前後だが、近年は130万人になっている。ほぼ3分の1の減だ。とすると近い将来、児童書市場は3分の2まで縮小することもあり得ると覚悟せざるを得ないのだろうか。
子どもがゲームなどの他のメディアに目を向けていることで「活字離れ」が進行しているのも不安材料だ。また訪問販売やチラシ販売などを活用しようにも、専業主婦が在宅していることが少なくなり、「家庭直販」も先が読めないと塚田さんは考えている。
「出版社も長年の委託販売にあぐらをかいていた。昔は1年のうちに数回、取次の担当者に会ってセット販売をお願いすると、書店にばらまいてもらえました。高度成長期はそれで売れる、平和な時代でした。ところがいまは、返品率が高くなると取次はもう取ってくれない。1人ひとりの読者を意識しながら自社のマーケットをつくってきたところは、既存出版社ではほとんどないでしょう」
塚田さんに限らず、児童書の販売関係者が「大変厳しい状況」と声を揃えるのも当然の状況なのかもしれない。
しかも、「書店店頭では児童書は売れない商品だというイメージが定着してしまいました。街中の本屋から児童書が消え、消えたから売れない、売れないから消えるという循環になっている」と塚田さんはいう。
本屋から児童書コーナーが消える?!
しばらく前から書店ではこんな声を聞くことがあった。
「児童書売場には、子ども連れの母親などお客がたくさん集まるので、本も売れていると思っていた。でもPOS(販売時点管理)データを取り始めると、ほかの棚よりも効率が悪いことがわかった。賑やかなわりには販売に結びついていなかったのだ。思い切って児童書を外してほかの売れ筋商品を置いたら、売上げが伸びるようになった」
最近は小さな書店でもコンビニエンスストア並みのPOSレジを設置しているところは珍しくない。先進的な書店ではただ単にデータを集計するのではなくタイトルごとの単品管理や売れ筋商品群をみつけるABC分析など、徹底的にPOSデータを活用している。その結果、厳然たる”事実”として突きつけられるのが”死に筋”商品の存在だ。結局、真っ先に整理されるのが児童書売場ということになる。図表01の売上構成比で児童書が急激に減っているのは単純に売上高が減少したからではなく、児童書売場そのものがなくなっていることを示しているのだ。
しかもPOSレジが浸透する以前、十数年前から20坪に満たないような街の本屋は取次の指導で商品構成を見直し、回転率のいい雑誌やコミックス(コミック単行本)、文庫本に傾注していったのも見逃せない。図表01をみてもわかるように雑誌とコミックの二分野だけで52.2パーセントと半分以上の売り上げをつくり、文庫本を加えれば六割の売上げになる(最近は実用書・専門書のなかのコンピュータ書が伸長しているので、文庫本をコンピュータ書と置き換えた3分野で売上効率をアップさせることもあるようだ)。
これでは一般書籍や児童書は隅に追いやられるか、売場から外されるのは当然のこと。街の本屋が「金太郎飴書店」と呼ばれるゆえんでもある。ただ近年はコンビニエンスストアの隆盛で、商品構成の見直しが絶大な効果を発揮することは少なくなったのだけれど……。
福音館の塚田さんはまた、書店の現状に対してこんな指摘もする。
「しかるべき人に本の情報が届いていないという問題がある。新聞書評や広告の効果がほとんどない。読み聞かせの運動に取り組んでいる人からは新刊の情報がほしいという声を聞くんですが、末端の書店はなかなか応え切れていない」
効率化が顧客との接点を希薄にするというなら本末転倒ともいえる事態だ。
がんばる児童書専門書店
しかし一時ほどの元気はないものの、一方では、児童書専門店がしっかりとがんばっている。
塚田さんはこう評価する。
「一般の書店がデータ重視といいながら、ベストセラーに群がっているような状況になっている。ところが雑誌感覚で扱っているから、本は売れなくなっているのではないか。そんな世界から抜け出られなくなった書店人は多いと思います。しかし店にでんと座っているだけではない、人脈をつくって本を売っている児童書専門店は違います。いかに本好きの人を探し育てるか、ネットワークをどう広げるか、そういうことを考えて営業している書店は伸びているし、企業として成り立っていますよ」
児童書専門店は一説では全国に100店ほどあるといわれている。よく知られた書店では、作家の落合恵子さんが経営する女性・子ども向けの専門書店「クレヨンハウス」(東京・青山)、親子がくつろげる空間をつくって読み聞かせの会などのイベントを定期的に開いている「メルヘンハウス」(名古屋)、自ら出版活動をはじめた「童話館」(長崎)などがある。童話館は福音館書店が絶版にした本を復刊し、一定の成果を収めていると塚田さんは教えてくれた。また仙台には江戸時代の土蔵を改造した店舗で異彩を放っている「横田や」という児童書と玩具の複合書店もある。この店は外観を眺めるだけでも既存の書店のイメージを崩してくれるうえに、カルチャーショックを受けること請け合いだ[*04]。
これらの書店は店内の一部を顧客に開放して乳幼児の遊び場をつくったり、大人向けの勉強会や子ども向けのお話会、大人と子どもが一緒に参加できる店外のイベントなどに熱心で、商品カタログや店の通信をつくり、独自に選書した本の通信販売にも積極的、しかもブッククラブなどを組織して全国各地に会員を抱えているというのがほぼ共通した特徴だ。もちろんお客の声を生かして、選書などにフィードバックしている。既存の書店がお客への働きかけを怠って、棚効率だけをみて児童書売場を縮小・廃止しているのとは好対照を成しているようだ。
さらに、大手書店やチェーン書店では新規出店時に児童書売場を拡大する傾向もみられる。街の本屋や競合店との”差別化”を図ると同時に、学習指導要領の変更や教育制度の改編によって「新しい需要が生まれる可能性」(業界関係者)を見越してのことのようだ。
書店は売れ筋重視の書店と、個性化・専門化に意欲的な書店との二極分化が進行している。「金太郎飴書店」の店頭では苦戦中の児童書であるけれど、意欲的な書店が存在していることは大きな強みだ。
児童書販売ルートは書店だけじゃない
実は出版業界には、正確に市販のすべての刊行物を網羅する出版統計は存在していない。出版科研の発行する『出版月報』『出版指標・年報』と、出版ニュース社の発行する『出版年鑑』に掲載されている販売・発行データは、いずれもいったん取次(弘済会・即売卸売業者を含む)を経由して書店店頭などで消費者の手に渡る「取次ルート」を基礎にした数字である。それ以外の直販や取次以外の販売会社などを経由する出版物はほとんど調査の対象にしていない。
公正取引委員会が九五年に実施した「事業者アンケート」では取次ルートは書籍の7割弱、雑誌の九割強を占めていると見積もられている。言い換えると、書籍の3割以上は取次以外のルートで流通していることになる。
書店向けの什器会社ニッテンの会長、武塙修氏は毎年、日販の発行する『書店ゼミナール会報特別号』で「出版物販売額の実態とその分析」を発表している。このなかには「出版物流通総額」という項目があり、メーカーである出版社側からみた総売上高の推定値が算出されている[図表04]。それによると出版社の売上げは「定価」換算で5兆1035億円あり、取次ルートが51.3パーセントの2兆6172億円(『出版年鑑』のデータに同じ)、それ以外の販売ルートが1兆5677億円(30.7パーセント)、また広告収入、不動産収入、映像関連など出版物以外の売上げは9186億円(18.0パーセント)になっているとしている。出版物のみでは取次ルートとその他のルートの比はほぼ5対3になり、直販などの他ルートが37.4パーセントをも占めていることになる。これはかなり意外な数字かもしれない。
しかも児童書については他の書籍以上に様々な流通ルートが存在する。一つひとつのルートを調べて総売上高を捕捉するのは困難な作業だけれども、少なくとも4割以上、あるいは5割前後は取次以外のルートで流通している可能性さえある。公表された出版統計だけで判断すれば、児童書の市場性を見誤ってしまうのだ。
さらに、図表05に示すように、児童書の新刊点数はそれほど落ち込んでいない。発行部数は逆に増加傾向をみせている[*05]。通常、委託商品は取次から精算を受けるのは6、7カ月後になるものの、大手・中堅の老舗出版社の場合、翌月にはかなりの額が先払い(内払い)されている。このお金を当てにして、実際に売れるかどうかを考慮することなく、自転車操業的に出版物を増やしていることは考えられるのだけれども、そのような懸念は取次以外のルートがしっかりしているのならば払拭するだろう。
このようにみると、児童書の実際の売上高は800億円どころか1600億円にもなる巨大なマーケットなのかもしれないということは留意したい。
子どもたちの読書量は増加!?
児童書の販売ルートを図表06に整理してみた。これ以外にも書籍の流通ルートは様々あり、複雑に入り乱れているものの、児童書については概ね網羅しているはずだ。主流はもちろん取次ルート。そしてその大部分は書店・スーパー・百貨店などの店頭で売られていく。売上げ減が著しいのもこのルートだ。
では学校図書館ルートはどうなのか。実は、学校図書館では児童書の貸し出しが増えているという。
「書店の店頭から消えたから図書館の貸し出しが増えているのか、貸し出しが増えているから書店の売上げが減っているのか、どっちが先なのかはわかりません。しかし、読書に対する欲求が冷え込んでいるとは思えません。よく新聞が児童書の売行きが低迷しているという記事を載せていますが、必要以上に暗いイメージを植え付けているのではないでしょうか」
農山漁村文化協会(農文協)普及部で児童書部門の主幹を務める阿部伸介さんはこう持論を語る。
ちなみに文部省は94年、全国の小学3年、小学5年、中学2年、高校2年の児童・生徒約6400人を対象に1回限りの読書調査を実施している。その結果は、「本を読むことが好きか」という質問に、学年にかかわらず70パーセント前後が「大変好き」「割合好き」と回答。実際に1カ月間に読んだ本(教科書やマンガ、雑誌を除く)の冊数は小3が10.1冊、小5が5.9冊、中学2が2.1冊、高2が1.9冊。1カ月間に1冊も読まなかった割合は、小学生の平均が8パーセント、中高生は40パーセントを超えた。この結果に文部省は「精神的に伸び盛りの時期に急に読書量が落ち込むのは問題」などと指摘し、マスコミも「中学・高校生の活字離れ深刻」などと報じた。
また最新の調査では全国学校図書館協議会と毎日新聞社が共同で行っている「第四四回学校読書調査」(98年度)がある。それによると、1カ月間に読んだ「1人当たりの平均読書冊数」は小学生が6.8冊、中学生が1.8冊で前年度よりも増加、高校生は1.0冊で前年と同じだった。一方、1冊も読まない「不読者」の割合は小学生が16.6パーセントで前年より増加、中学生が47.9パーセント、高校生67.3パーセントに減少したという。
これらの数字をどう判断するかは評価が分かれるところだが、テレビゲームやテレビアニメ、カードゲーム、パソコン、携帯電話・PHSなど他のメディアの”誘惑”があるなかで、低年齢ほど読書習慣が身についているということは、その後の”情報提供”次第では中高生も出版物に回帰し得る可能性があるように思える。悲観することではないのかもしれない。
さらに、地域的には児童・生徒の読書量が年々増加しているという調査結果もある。沖縄県教育委員会が発表した「97年度学校図書館・読書活動の実態調査」がそれ。年間1人当たりの貸し出し冊数は小学生が77.5冊で前年より5.4冊増、中学生が20.5冊で過去最高になった。88年時点と比較するとそれぞれ2倍以上になっているという。「沖縄タイムス」は「増える児童・生徒の読書量」「本への関心は女子が多い」などの見出しとともに報道した。
さらに同県では、トーハンが中心になって推進している「朝の読書活動」などの時間を設けている学校が、小学校では全体の99.3パーセント、中学校では99.4パーセントにものぼり、ほとんどが年間を通した活動になっているという。しかもはじめてから5年以上が経った学校が小中学校あわせて7割を超えているというから、そうとうの浸透度だ。
拡大する学校図書館市場
では、肝心の学校図書館市場はどうなっているのだろうか。
「学校読書調査」と同じ調査母体が行った「1998年度学校図書館調査」によると、蔵書数の平均は小学校が7068冊、中学校が9021冊、高校が2万1391冊で、前年度より小学校が307冊、中学校が714冊、高校が391冊増加した。この結果を調査団体は「学校図書館整備新5カ年計画」の「成果の現れ」と分析した。
この学校図書館整備新5カ年計画とは、文部省が93年度から97年度までの5年間に総額500億円(初年度80億円で徐々に増やし最終年度は120億円)の予算を全国の市町村に配分して、学校図書館(対象は全国の公立小・中学校、盲聾養護学校の小・中学部)の蔵書を従来の1.5倍に増やそうという計画だった。
92年時点の文部省調査では、1校当たりの蔵書数は小学校が平均7950冊、中学校が平均9440冊だったものを、それぞれ1万1460冊、1万4400冊にするという目論見だった。
しかし500億円は地方交付税交付金として国から市町村に分配されたもの。使途はそれぞれの自治体に任されていた。市町村が予算化しなければ学校図書館に振り向けなくてもいいという性格のお金だ。これに対して、全国学校図書館協議会や出版の業界団体は予算に図書購入費を組み込むよう全市町村に要請。その結果、96年時点で8割の市町村が図書購入費を予算化したという。
ところが、やはりかなりの額が別の予算として使われてしまったようだ。
全国の小中学校図書館で購入されている図書の総額は、日本児童書出版協会(会員社48社)の直近の推計で年間180億円、取次の推計で200億円と見積もられている[*06]。学校図書館整備新5カ年計画で予算が全額消化されていたならば売上げのほぼ半分が交付税を出所にしたという計算が成り立つはずが、業界関係者の間ではこの間100億円中50億円が図書購入費として予算化され、最終年度である97年は120億円が交付されたにもかかわらずに70億円が振り向けられただけだったと概算している。
また昨年98年度は単年度のみの措置としてやはり100億円の予算措置が行われたが、これも図書購入費になったのは50億円ほど。今年99年度も引き続き単年度のみの措置として100億円が交付されるが、半分程度が図書購入費に振り向けられるだけになるのは間違いない。
現状では単年度の予算措置が繰り返されるだけで、出版社や流通業者にとってはあてにできない不安定なお金ではある。しかも図書館向けで市場拡大があった一方で、取次ルート全体では出版科研の推計のように200億円の売上げ減があったことは不安材料になっている。
とはいえ小中学校図書館での年間の図書購入費は92年度よりも50、60億円プラスになったのは確か。なかには交付金以後、70〜80パーセントをも増額した県がある。仮に交付金がなくなっても引き続き同額を予算化する自治体が増えれば学校図書館市場は拡大するはずだ。
図書館巡回が今後の切り札
小中学校の図書館向け市場は取次・書店を経由する取次ルートが主流になる。しかし出版社主導によって他の顧客向けとは異なる特徴的な販売方法が確立している。「図書館巡回販売」という売り方で、取次ルートと重なる部分はあるものの「図書館ルート」と総称している。また図書館向けに特化したセットもの企画や復刻版、全集を出版して直接販売を専業、あるいは主な業務とする出版社もある。これも図書館ルートの一部だ。
巡回販売の仕組みは、出版社側の巡回グループが学校図書館向けに販促活動をしたい地域の書店を募り、巡回グループが見本になる書籍をトラック・ライトバンに積んで書店とともに学校図書館を訪問(同行販売)。その場で予約を取って、書店経由で納入するという流れになる。学校図書館だけでなく、幼稚園・保育園、学習塾なども販売先になる。
クルマは全国を行脚する場合もあれば、地域ごとに区割りをしてそのコースを巡る場合もある。書店側はグループが用意したカタログをあらかじめ学校の教諭や司書に渡しておき、訪問時の注文の目安にしてもらうことになる。もちろん学校側は巡回訪問を受けなくてもカタログだけで注文できる。図書館巡回に参加した書店には通常のマージンのほかに、出版社が数パーセントの報奨金(バックマージン)を用意しているのが通例になっている。
また、学校図書館では図書購入が年度はじめの1学期に集中し、この時期各グループが入り乱れて学校を訪問することになる。ただし最近は2学期、3学期にも分散する傾向があり、一気に大量の図書を受注するというわけには行かなくなっているという。
図書館巡回グループの最大手は「児童図書10社の会」。ポプラ社、岩崎書店、金の星社、偕成社など児童書の老舗出版社の集まりだ。今年1月には自主販売書店を募るとともに、今年度の売上目標を54億8000万円にすると発表している。ほかにはLグループ、クリーンブックス、NCL(自然と子どもたちを結ぶ会)、岩福巡回、CBLなど大小さまざまなグループがある。クリーンブックスはアリス館、文研出版、草土文化などで構成し、岩福巡回はその名の通り岩波書店と福音館書店のグループだ。
福音館書店の塚田さんは、以前にも増して児童書出版社の学校図書館巡回が盛んになっているという。
「売り上げ減少に悩む出版社が自己防衛のために力を入れているんです。学校図書館は巡回するだけで一定の販売高になり、文部省の学校図書館の振興策も加わって、力を入れれば入れるほど、非常に売り上げが伸びます。学校図書館が充分に活用されていないからこそ、私たちが出かけると積極的に買ってくれるのです」
実際、書店店頭ではなかなか売れにくい数万円のセットものでも満足できる売行きを示すという。ただ学校司書教諭の義務化を先取りしている地域ではきっちりと選書が行われ、出版社の意図どおりの売行きに繋がらなくなりつつあるというのが目下の課題になっているそうだ。
既刊売り込みにも力を注ぐ
NCLは活動を開始して7年目になる。学校図書館巡回グループとしては最後発組だ。農文協に事務局を置き、岩崎書店、講談社、さ・え・ら書房、旬報社、小学館、汐文社、PHP研究所、評論社、ほるぷ出版が会員社。99年度はスポットで朝日新聞社、潮出版社、全国学校図書館協議会、星の輪会、メディアファクトリーなど14社が参加している。書店との同行販売日数は、複数のコースを設定しているので年間延べ600日になる。
ちなみに農文協は農業書では定評のある出版社だが、児童書出版への参入はここ10年のこと。比較的新しい児童書出版社だ。
NCLは初年度1億円半ばの販売高だったが、98年度は8億円の売上げに成長。順調に事業が推移しているようだ。
農文協普及部の阿部さんは NCLの特徴をこう説明する。
「ほかの学校巡回は新刊書が中心になっています。しかし小中学校、高校では2002年から『総合学習』『調べ学習』がはじまり、2003年からは学校図書館に司書教諭の配置が義務づけられます。そうなると既刊も新刊もいっしょに届ければ学校に受け入れられるのではないかと考え、新刊中心の販売形態から変えてきました。たとえばNCLではほるぷ出版がいい。昔から絵本を出していた出版社だから既刊をセット組みするとよく売れるんです。小学館の『ドラえもんの学習シリーズ』も20年前の本なのに全29巻セットがどんどん売れていく。先生方にはすごく好評です。私どもの『そだててあそぼうシリーズ』(第1集〜4集)も伸びています。また『自然の中の人間シリーズ 昆虫と人間編』は小学校低学年から大学生まで読者が広がっているんですが、図書館でもこういう本が売れるんだなあと実感しています」
教員が図書を選択するとき頼りにするのが『99学校図書館ブックガイド NCL図書目録』だ[*07]。ただ単に本を羅列したのではなく、「調べ学習」に役立つようにキーワードを設定、それに応じて適切な本が選択できるようになっている。具体的には「元気と努力のヒーローたち」「総合的な学習をすすめよう!――たとえば」「『調べ学習』に役立つ本」といったキャッチフレーズのもとに、細分化されたキーワード(「愛と感動・冒険がいっぱいウ」「食農教育+学校農園」「福祉やいじめ・ボランティア・防災学習」「土曜日を生かそう!」等々)をおくという体裁だ。
掲載されている出版物もユニーク。個人的には『カムイ伝』や『カムイ外伝』『サスケ』(小学館)、あるいは『手塚治虫漫画全集』(講談社)がラインアップされているのが気に入った。学校図書館でこれらのマンガが読める子どもたちがうらやましい。
とはいえ、図書館の専門職ではない教員が選書を簡単に済ませようとすると、ダブりの確認を必要としない新刊だけを注文しがちになるおそれがある。それをあえて既刊書を売りにするというのは一種の冒険だ。だが、農文協普及部の青木三郎さんは「先生もカタログをみて図書館の棚を調べながら刺激を受ける。書店の棚づくりといっしょです」と話す。いってみれば教員自身の「調べ学習」のきっかけになるわけだから面白い。
農文協が発行する『現代農業』の「主張」欄にはこんな訴えが載っている。
〈農村部は一般に読書環境が悪い。書店も図書館もない市町村は4割もあり、その多くは農村部である。しかし、今回の教育改革を機に、村の小中学校読書環境をぜひ都会の小中学校以上の水準にしたい。本来、『人々の暮らしをつくる特別の産業である』農業のある農村部こそ、最高の教育をつくり全国の模範となることができるのである〉
農文協はもともと直販出版社だった。看板雑誌『現代農業』の購読者を増やすために農村の家々を一軒一軒周り、同時に農家との交流によって農業の実情を知るという取り組みを続けてきた。販売部門の名称を営業部ではなく普及部としているのもそれゆえのこと。全従業員200名余のうち普及部員が100人以上いるというのも出版社としては珍しい。しかも情報の流通を「農村から都市へ」と逆転させようとする思想的かつ実践的な運動団体の側面を持っている。彼らはこれらの活動を「直販の思想」に裏打ちされたものだという。
そんなわけだから、図書館巡回も直接購入者と接する機会を求める「直販の思想」の延長線上のこと。農業者だけでなく児童書でも農村部の小中学校という広大な市場の開拓に乗り出したのは必然だった。
生協販売ではロングセラーが人気
地域生協や職域生協、学校生協などが取り組んでいる図書類の共同購入(生協ルート)でも児童書の占める割合が大きい。ここでも生協を母体にする販売会社や出版社系の販売会社が営業活動にしのぎを削っている。
なかでも出版社側からみて定評が高いのは生活クラブ生協事業連合会が運営する共同購入事業だ。東京、神奈川、千葉、埼玉など首都圏を中心にした生活クラブ生協単協がグループを組み、傘下組合員二四万人に向けて毎月、書籍情報紙を発行。組合員からは本文中で紹介した書籍の注文を集め、後日、食料品や生活雑貨などの消費財とともに配送されるという仕組みになる。
書籍情報紙は「本の花束」(タブロイド版8ページ)。書評や本にかかわる記事、著者インタビュー、「こどもに贈る本」というリレーエッセーなどを掲載し、同時に共同購入選定図書34点の紹介記事が載っている。ほかに音楽CD、ニューメディア商品なども共同購入商品に入っている。共同購入の対象になる出版物は、いっさい出版社の営業活動を受け付けず、公募の組合員で構成する「本選びの会」が独自に選書したものだ。共同購入図書の紹介文も組合員が書いている。
「『本の花束』の記事は非常にしっかりしている。必ず書評委員が書き、買いたくなるような紹介文を載せてくれる。取り上げられると2000冊、10年分の在庫が売れてしまうこともあります。そのうえ共同購入に取り上げられなくても、一面の記事で紹介されるだけで売れるんです。ほかの生協で配布されているチラシは出版社の人間が書いていて面白くない。そこがほかの生協の共同購入との大きな違いです」(福音館書店・塚田さん)
生活クラブ生協の図書の共同購入事業は80年に神奈川からはじまった。これが評判を呼び、各地の生活クラブに拡大。84年には共同購入を事業とする販売会社「協同図書サービス」を設立し、ここを窓口にして出版社との仕入れ・代金精算などの業務を行うようになった。いわば”生協立”の取次といっていい。協同図書サービスはその後、「ゆうエージェンシー」と改称。九州の生協連合グリーンコープとも取引を開始し、共同購入事業をコーディネートしている。また生活クラブ関連の出版物の一部も、ゆうエージェンシーが発行元となり、共同購入ルートに乗せて販売している。
1点あたりの販売部数は商品によってばらつきがあるものの、500部から1000部は期待できる。今年7月期集計のデータでは扱い総部数が2万9100冊、平均で855冊になっている[図表07]。児童書ではないが、週刊金曜日の『買ってはいけない』は1回取り上げただけで実に1万4000部にもなった。生活クラブ生協組合員の6パーセントが購入したことになる。
では実際のところ、児童書の動きはどうなのだろうか。ゆうエイジェンシー図書出版部図書共同購入課の櫛山英信さんはこういう。
「児童書は数字的には落ちている。子どもの数が少なくなっている影響がはっきりでています。出版社も手をかえ品をかえ、新しい企画や売る努力をしているようですが、でもやりつくしているようにみえる。いろんな本を出さなければならないので企画が似かよってきているんです。その結果、出版社の個性がなくなってきた。そんななかで強いのは福音館や冨山房、童心社のようなロングセラーを持っている出版社。岩波書店もよく売れている。ただ組合員は出版社名より内容やタイトルで購入を決める。ほかの生協ではチラシに出版社名を入れないところも現れています。一方で、ピークを過ぎたころに『だんご三兄弟のえほん』(NHK出版)を扱ったんですが、ぜんぜんダメでした。出版社はアンパンマンやドラえもんのように持続するキャラクターをつくらないといけないのかもしれません」
児童書全体では好調とはいえないものの、学習マンガや手塚治虫作品は強いという。ロングセラーのように、評価の定まった出版物に注文が集中する傾向にはあるようだ。
しのぎを削る生協販売会社
生協ルートの販売会社はゆうエージェンシー以外にもたくさんある。最大手のシー・ピー・エス(CPS)のほか、出版情報研究会、ヤスノブックサービスセンター、ドウメイ、石田産業、アイエヌ産業、マルユー書籍販売、ムジカインドウなど。出版情報研究会は関西にある中小取次の柳原書店と関連があり、石田産業は雑貨、文具卸からの進出組になる。生活クラブ生協が80年代はじめに図書の共同購入をスタートさせ、日本生活協同組合連合会(日生協)中央支所(東京)が事業を本格化させた八五年以降に参入した販売会社が多い。柳原書店はそれ以前から日生協関西支所との取引をはじめていた。
CPSは85年、岩崎書店、草土文化、汐文社、童心社、旬報社が共同で出資して発足した販売会社だ。取扱品目はこの五社だけでなく、児童書を中心に他の出版社とも取り引きしている。こちらは”出版社立”の生協向け専門取次といっていい。主な取引先は日生協学校生協支所、ユーコープ事業連合会、日生協九州支所、コープ九州事業連合、コープ北陸、コープ九州、さいたまコープなどだ。
CPS以外の販社の取引生協は、出版情報研究会が首都圏コープ事業連合やみやぎ生協、さいたまコープ、東都生協、日生協関西支所、大阪統一仕入れ会議(大阪いずみ市民生協、よどがわ生協ほか三生協)、コープこうべなどになる。ヤスノは名古屋勤労者市民生協、東海コープなど、ドウメイは日生協九州支所、コープ協同産業、コープとうきょう、エフコープなど、石井産業は北関東東協同センター、ユーコープ事業連合、生協連合グリーンコープ、ちばコープ、京都生協など、マルユーはさっぽろ市民生協、中・四国生協、岩手生協などとなっている。
ほかにも児童書専門店のクレヨンハウス内にある子どもの文化普及協会や偕成社の関連会社、ケイエス販売が生協連合グリーンコープなどと直接、取引を行っている。また市民団体や労働組合と連携して各地にミニ書店を展開する「ほんコミニケート社」も高崎市民生協などと取引を開始し、生協ルートに参入中だ。
CPSの一部の社員が独立して設立したユニポスト・オブ・ジャパンという販売会社があったが、昨年四月、倒産してしまった。生協ルートだけでなく、別のルートを開拓しようとしていた途上だったという。とりわけ困難を来す要因になったのは、学習塾ルートに販路を広げようとしたことだった。生協のように代金決済の仕組みが整備されていなかったことから回収が思うようにいかず、資金繰りの悪化をもたらしたということらしい。
この会社は再販廃止後を睨み、書籍の割引率が異なることで購買率に変化があるかを、九州地区の各生協と提携して実験をするなど、意欲的な取り組みをしていた。個人的にはこの会社がなくなったことは残念だった。
昨年中にはユニポストのほか、キャピタルトレイド、アイエヌ産業の2社が倒産している。児童書の売行き不振が要因になったというよりも、生協ルート内の過当競争の結果であるようだ。
これらの販社の多くは、出版社から正味55パーセント、あるいは58パーセント程度で仕入れている。出版社にとっては取次と取り引きするよりも10パーセント以上掛け率を落としていることになる。一見出版社にとって過酷な条件にみえるものの、返品がなく、出荷した商品が確実に現金化されるというメリットがあるからだ。
生活クラブ生協(ゆうエイジェンシー)の取引条件も紹介しておく。
出版社との取引条件は平均すると七掛けから六掛けの後半。生協組合員には「定価」の1割引で販売するのが通例なので、ゆうエージェンシーと生活クラブ各単協が受け取るマージンは20パーセントほど。岩波書店などは直取引を行わないので、取次経由で商品を手に入れることもある。この場合は、流通マージンは限りなく10パーセント近づくことになる。取次・書店を経由する出版物の流通マージンはおおむね30パーセント強だから、それに比べると利益率はかなり低い。生活クラブ内の書籍流通を一手に引き受け、他の販売会社との競争がない分、多少牧歌的な側面もあるのかもしれない。
一方、出版社にとっては、取次と同程度か多少の低正味(掛け率)で出荷できて、しかも出版物の返品はないわけだから、販売効率はかなりいい。生活クラブで取り上げてほしいと期待する出版社が多いのもうなずけるというものだ。ただ選書は生協側が行っているので、出版社にとっては予告なしのスポット取引になるので年間計画がたてられないといううらみがある。
児童書市場に未来はあるか
出版という産業の行き詰まり、少子化という社会構造の変化、編集者の力量不足による企画の画一化・陳腐化など、一面、厳しさの漂う児童書業界ではあるけれども、一方では様々な可能性が広がっているようだ。取材した関係者はそれぞれこう語っていた。
「私たちの常識では本を読むことはいいことだ、できたら読んでほしいという気持ちがあります。児童書出版協会でやろうと思っているのは本の楽しみを小さいときから味わってもらう読み聞かせの取り組みです。読み聞かせをすると、ほとんどの子どもは一生懸命聞いてくれますね。それに読み聞かせをやっているJPIC(財団法人出版文化産業振興財団)の読書アドバイザーなんかはすごい。ほんとうに本が好きな人たちなんですよ。この人たちと協力しながら、私たちは後世に残る作品をこつこつまじめにつくっていくことが大事だと考えています」(福音館書店・塚田さん)
農文協の阿部さんの意見はこうだ。
「児童書市場が冷え込んでいるとばかりいうのは逆効果です。実際は読書運動をやろうとしているお客さまは増えている。お会いする読者の方々には何かをしようという思いがたくさんあって、ポリシーを持っている。私たちも自分の出版社がつくられたときのポリシーを再確認しないといけないと感じている。農文協は世の中を変えるために出版活動をしてきましたが、意味のない出版物は淘汰されて当然だという気持ちで仕事をしていきます」
直接編集した本が約300点、間接的に携わった本を含めると2000点を超えるという、アリス館の編集長、後路好章さんはこういう。
「十把一絡げに児童書がピンチだとはいいたくない。要は著者と編集者が本をつくる過程で真剣に子どもに本を与えたいという気持ちがあるかどうかなのです。本の売行きはどれだけ汗を流したかに比例します。出せばなんでも売れた時期がありましたが、いまこそがいい時期。いいものをつくると結果がでるのですから」
後路さんが蟻の本をつくろうとしたときのことだった。蟻について書かれた本20冊を読み通したら、底本となる図書があり、その引用からはじまって孫引き孫引きと続いている部分があり、驚いたという。日本には260種類もの蟻が生息しているのに、同定が難しいということもあって、本格的な蟻の図鑑は一冊もなかった。
「文化的価値の側面を大事にしたいですね。要はいいかげんな本をつくらないというところに行きつくんです」
その本は昨年出版した科学絵本『クロクサアリのひみつ 行列するのはなぜ?』だった。
後路さんがいいたかったことは、本が売れない理由を外に求めるだけではダメだということだろう。発想を切り替え、じっくりといい本をつくる好機でもあるのだ。
後路さんは読者から読者カードや手紙が届くと必ず返事を書くようにしているともいう。その人たちこそがオピニオンリーダーだと思っているからだそうだ。
「あわてずいい本をつくっていきたい。読者や図書館の人はわれわれにどんどん要望をだしてほしい。出版社と読者が密接なかかわりを持つことでいい本ができるのです」
―読者はただの消費者に甘んじているわけにはいかない。出版社と接点を持つことで、編集者や著者に刺激を与え、それがまた面白い本、楽しい本、役に立つ本、考えさせられる本となって帰ってくるはず。ひいては児童書市場全体に活気を呼び戻すことになるに違いない。
著者と編集と営業・販売、流通、そして読者がうまくリンクして児童書市場が回生することを望みたい。
〈付記〉
本稿をまとめた1999年8月です。本誌発行時点で多少状況が変化している可能性はありますが、その点、ご了承をお願いします。
児童書トピックス
以下、本文中で触れきれなかった、最近の児童書出版にかかわる出版社や流通業者、業界団体の新機軸や動向をトピックス的に紹介する。
出版社◎学習研究社
児童向け直販出版社の先駆的存在ともいえる同社だが、98年度決算で、売上高が前期比11.2%減の930億4800万円、経常損失67億6000万円、さらに75億円余の特別損失を計上して当期損失139億4800円の赤字決算になった。特別損失のうち23億円は「滞留在庫」を処分したことによるもの。学研はかなり前から経営不振を噂されていたが、凋落の一途のようだ。
また80年には600万部を販売していた『学習』と『科学』は100万部を切る状況になっていた。今年4月にリニューアルをして120万部を目標にしているという。
出版社◎講談社
絵本「バーバパパ」の版権を5月に取得して、キャラクタービジネスに本格的に乗り出す。7月からNHK教育テレビでアニメ放映が始まっていて、全国百貨店での「バーバパパ・フェア」がスタート。
創立90周年を記念して、読書推進をすすめようと今年7月から「本とあそぼう全国訪問おはなし隊」というグループを設置、全国キャラバンを開始している。トラック「おはなしキャラバンカー」の運行には日本通運が協力。福島県を皮切りに、8月に山形県、9月に新潟県を訪問している。
出版社◎小学館
昨年刊行された『21世紀こども百科 科学館』は14万部と大ヒットした。小学館の人気アニメ「コナン」のビデオが付くのも小学生の心を揺さぶったようだ。ただし小学館以外の販売関係者からは「ビデオにつられて売れたのではない。本の内容がよく商品力があったからだろう」との指摘もあった。
10巻目となる今年6月発売の『歴史館』も、書店からの事前注文が1万店から15万部も殺到して大ブレイク。初版16万部でスタート、7月には17万部を販売した。『歴史館』については事前予約制・買切条件にすることで流通マージンを43%に設定。既刊9点にも500円の報奨金を書店に提供するなど、販売条件面でも話題になった。
出版社◎径書房
88年いっせいに書店店頭から消えた「ちびくろサンボ」を、原著を忠実に復刻した『ちびくろさんぼのおはなし』(ヘレン・バナーマン作・絵、灘本昌久訳)として5月に復刊させた。訳者の灘本氏は同時に『ちびくろサンボよ すこやかによみがえれ』という著作を同社から刊行。
「サンボ」の再刊で「人種差別解消への小さな一歩となることを心から願っている」と訴えている。新作『ちびくろさんぼのおはなし』は7月時点で発行部数8万部。原書は1988年に英国で刊行され、今年は物語が生まれて100年目という。灘本氏の報告では部落解放同盟中央本部(大阪)のある部落解放センターの書籍売場に2冊とも平積みになっていたという。“絶版騒動”のときは解放同盟も「サンボ」の刊行を批判していた。
なお「サンボ」の改作・翻案ものは97年に相次いで出版されている。最初のリメイク版は心理学関連の専門出版社、北大路書房の『チビクロさんぽ』(訳・改作/森まもる)。改作者の森まもる氏は信州大学教育学部助教授、守一雄氏のペンネーム。絵も森氏自身がCGをつかって描いた。
もうひとつはブラックミュージック雑誌を出版しているブルース・インターアクションズの『おしゃれなサムとバターになったトラ』(文/ジュリアス・レスター、絵/ジェリー・ピンクニー、訳/さくまゆみこ)。文・絵ともアメリカ在住の黒人作家と黒人作家の手で改作され、日本語に訳されたものだった。
書店◎インターネット書店
児童書出版社6社(あかね書房、岩崎書店、偕成社、金の星社、小峰書店、童心社)が「立ち読みができます」をキャッチフレーズに今年1月、インターネット上に「本のペンギン堂」という仮想書店を開店した。
「赤ちゃん向け」「保育園・幼稚園児向け」「小学生向け」に分類され、ここから「図鑑」「名作」「ゲーム」などのジャンルで本を探すことができる。いずれは日本で流通しているすべての児童書を販売しようという考えているという。
また児童書書店が運営するインターネット書店もいくつか誕生している。
業界団体◎ヤングアダルト出版会
晶文社など中高生以上の年代を対象に出版活動をしている版元で組織しているヤングアダルト出版会が今年創立20周年を迎えた。今夏、全国194書店でブックフェアを開催。
公共図書館を対象にヤングアダルトサービスの実施状況についてアンケート調査を実施したり、「活動のしおり」の配布などを行った。
[*01]児童書市場
出版科学研究所は販売対象を児童(乳幼児、小学生、ヤングアダルト等)に置いている書籍の総称として「児童書」の呼称を使用している。他の分類は一般書、教養書、実用書、専門書、女性書、学参書(学習参考書)。発行形態別では絵本、図鑑のほか、単行本、文庫本、新書本、全集・双書、事典・辞典と区分する。
また取次会社の日本出版販売では販売現場(書店等)で用いられている分類を優先して、コミック、児童書、実用書、文芸書、文庫、新書、学参書、その他とジャンルを分けている。ただしコミックス(コミック単行本)のほとんどは雑誌の一形態として流通している。
ほかに文庫、新書、児童書、学参書、実用書、文芸書、ビジネス書、専門書、洋書、その他という分類方法もある。なお「子どもの本」という呼称は出版統計では使われていない。
[*02]75.4
実際の売上金額が不明なので、100に翌年のパーセンテージを掛けあわせ、さらにこの数字に翌々年のパーセンテージを掛けるという計算を繰り返した。
[*03]販売部数の減少
出版科研とともに信頼されている出版統計は出版ニュース社の『出版年鑑』だ。この99年版によると、98年の出版物の実売総金額は2兆6172億円(前年比2.3パーセント減)、うち書籍が1兆610億円(4.1パーセント減)、雑誌が1兆5562億円(1.0パーセント減)。書籍の実売部数は9億919万冊(5.9パーセント減)になっている。
[*04]横田や
かつての職場の同僚だった胡正則さんとともに執筆した『物語のある本屋』(アルメディア刊)のなかで詳しく紹介。
[*05]発行部数の増加
出版科研のデータでは今年に入ってから10パーセント以上新刊点数が落ち込んでいる。発行部数も3割近い減。他の分野と比較してもかなり悪い数字だ。年間トータルでどうなるか注視しなければならないだろう。
[*06]全国の小中学校図書館で購入されている図書の総額
参考までに記すと、98年の国会図書館と公共図書館、国公私立大学・短大図書館、高専図書館の図書購入費の総計は666億円(国会図書館分は納本代2億4000万円を算入)になっている。
[*07]『99学校図書館ブックガイド NCL図書目録』
本体価格800円。希望者は直接NCLの会事務局の農文協に問い合わせてください。
電話03(3585)1142
ファックス03(3589)1387
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