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ポット出版
立ち読みコーナー●風俗見聞録
[2003-12-01]
風俗見聞録

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風俗見聞録
[2003.12.01刊行]
著●松沢呉一

定価●1800円+税
ISBN4-939015-59-9 C0095
四六判/224ページ/上製
印刷・製本●株式会社シナノ
写真●阿部ちひろ[ひとみーとマツ・新宿編]
   細野幸人[ひとみーとマツ・新宿編]
   和田義彦(ワニマガジン社)[ミレニアム射精]
カバー写真●松沢呉一(場所・大分県別府市・八坂レンガ通り)
ブックデザイン●沢辺 均/山田信也
 

在庫有


【立ち読みコーナー】※本書所収原稿の一部を紹介
「風俗嬢の源氏名」
「ワールドカップと風俗事情」
「ミレニアム射精」
「ひとみーとマツ 新宿編」



■風俗嬢の源氏名


最初の見聞は風俗嬢の名前です。重要な要素ながら、あまりしっかり考察されることがないものです。風俗嬢の皆さんは、今後名前をつける際に参考にしてください。


  風俗嬢やキャバクラ嬢の名前を「源氏名」と呼ぶが、これは昔の花街で「藤壷」「明石」など「源氏物語」から名前をとったことが多かったためだと言われる。
 江戸時代の吉原では、「高尾」「吉野」といった名妓の名前が代々引き継がれたもので、明治以降の遊廓でも、「小菊」「桂木」「花月」「羽衣」「小式部」といった古風な名前をつけているのがよくいた。しかし、一方では「みちよ」「みさ子」「米子」「春子」「みどり」など、戸籍上の名前を思わせる名前も時代を経るとともに増えていく。
 公娼(遊廓)よりも私娼の方にこの傾向がより強くて、小沢昭一対談集『雑談にっぽん色里誌』(講談社・1978)に出てくる玉の井(大正期にできた私娼窟)で銘酒屋(表向き酒を出す店になっている娼家である)を営んでいた人物によると、よっぽど田舎くさい名前じゃない限り、戸籍上の名前をそのまま使ったと証言している。長い歴史を背景にした吉原の格式の高さと対抗して、「いかにも」を嫌って素人臭さを売った玉の井ならではなのかもしれないのだが、戦後ともなれば、赤線でも青線でも、「それらしい名前」は影を潜めるようになる。
   *
 吉原の赤線女給たちによる文集・柳沼澄子編『明るい谷間 吉原の娘たちのうた』(新吉原女子保健組合・1952)に書いている筆者の名前を全員挙げてみる。「秋子」「ゆう子」「真弓」「順子」「マチ子」「鈴木愛子」「登志恵」「和子」「路子」「ルミ」「喜代美」「菊代」「和代」「多恵」「たか子」「君江」「波子」「沙利」「澄子」「とし子」「直子」「道子」「由美子」「愛子」「さざえ」「のり子」「美穂子」「美鈴」「歌子」「門脇加代」「よし子」「沙子」「A子」「明美」「町子」「佐々枝」「落子」「夏子」「れい子」「民子」「正子」「時枝」「松永てる子」「京子」「惠美」「志津子」「ミッキー」「しづ子」「京子」「辻原和子」「ひろ子」「てる子」「麗子」「冴子」「せつ子」「きぬ子」「ふじを」「栄子」「早苗」「さぶみ」「中村則子」「由紀江」「大湖礼子」「しのぶ」「華子」「三好百合」(同じ名前が複数あるもののうち、別人と思われるものだけ重複してここに挙げた)。
 占領軍支配の中で、わざとアルファベットを入れた「A子」という源氏名を名乗った可能性もなくはないだろうが、ここでの「A子」は匿名を意味する名前だろう。「さざえ」はたぶん本名ではなかろうし、「ミッキー」も同様だが、日本人を相手にしていた吉原では、こういう源氏名は米兵相手の街娼=パンパンを思わせて、客受けがよくなかったのではないかとも思う。
「菊代」は遊廓時代の名前を彷彿とさせるが、本名であってもおかしくない。編者であり、組合委員長だった柳沼澄子は本名だったはずで、漢字をひらがなにしたり、漢字を変えたりしたのはいたにせよ、本名が少なくなかったようである。
 今の時代につけたら、娘が大きくなって恥ずかしがり、「なんでこんな名前をつけたの」と親に抗議しかねないようなダサい名前も多いが、おそらく当時としては、男にも女にも受けのいい女の子らしい名前だったのだと思われる。
 長谷川町子(漫画家)、伊東絹子(ミス・ユニバース世界第三位)、並木路子(歌手)、笠置シズ子(歌手)、淡谷のり子(歌手)、園田てる子(小説家)、大島みちこ(『愛と死を見つめて』の著者)、宜保愛子(霊能者)、大西民子(歌人)、大空真弓(俳優)、岸田麗子(画家/岸田劉生の娘)、中原早苗(俳優)、岸田夏子(画家/岸田麗子の娘)、佐藤愛子(小説家)、湯川れい子(音楽評論家)、松尾和子(歌手)、原節子(俳優)、比嘉和子(「アナタハンの女王」で話題になった)、原ひろ子(文化人類学者)、林京子(小説家)、山本道子(小説家)、矢川澄子(詩人)、三田和代(俳優)、藤堂志津子(小説家)などなどこの時代に活躍していた人、話題になっていた人、この頃までに生まれていた人の中に、同様の名前を容易に探すこともできる。
 それにつけても、麗子というのは「麗子像」の時代から今に至るまで使われている息の長い名前であるな。大原麗子など、芸能人にもよくいるし。
   *
 これに対して、街娼たちとなると、趣がまた違ってくる。有名な「ラクチョウのお時」がいい例だが、彼女たちは赤線女給たちのような「××子」といった日常的な名前ではなく、あだ名めいた名前で呼び合っていた。「ラクチョウのお時」の本名は「時子」で、ここから「お時」を通称とし、さらに出没する場所である有楽町の俗称「ラクチョウ」をつけて、「ラクチョウのお時」をフルネームかのようにメディアでは扱っていたのである。
 田村泰次郎の小説『肉体の門』(風雪社・1947)でリアルに描かれたように、彼女らはグループを組織して助け合い、なおかつ社会への憎悪も抱き、その分、結束が強かった。結束を強めるために、仲間内だけで通じる隠語を好んで使用しており、特殊な名前のつけ方もこのことに関わっているのだと思われる。
『肉体の門』にも、「小政のせん」「ボルネオ・マヤ」「ジープのお美乃」といった名前が出てくる。それぞれ本名は滝田せん、菅マヤ、乾美乃であり、本名の前にその人物の特徴を表す言葉がついているのは「ラクチョウのお時」と同じパターン。
 この伝統は脈々と続いていて、今でも「埼玉の××ちゃん」「浅草の××ちゃん」「大阪の××ちゃん」といったように、住んでいる場所や生まれた場所を含めて呼称としている街娼グループがいる。
 このように、歴史を辿っていくのも面白いのだが、キリがないので、ここでは今現在一体どんな名前が風俗嬢に好まれているのかを探ってみることにする。[…続きは本書をお読み下さい]

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■ワールドカップと風俗事情

昨年のワールドカップは盛り上がりましたね。生きているうちに再度日本でこんなことがあるとは思えず、ここぞとばかりに、私もあちこちのスタジアムに行きました。でも、試合はひとつも観てません。テレビで観ただけです。実のところ、たいしてサッカーが好きなわけでもなく、「アサヒ芸能」の取材で、試合会場のある地域の風俗店を取材したのです。便乗バカ企画です。「アサヒ芸能」で連載している「亀吉がゆく!」は長田要氏の漫画がメインで、詳しいことは書ける余裕がないのため、その時の様子はインターネットに旅日記として書いていたのですが、別の雑誌からも、開催地の風俗をガイドがてらまとめて欲しいとの依頼がありました。便乗企画のさらに便乗です。さて、ワールドカップは風俗店にどんな効果をもたらしたのでしょうか。
 
★1 札幌
 札幌の試合会場である「ビッグアイ」またの名を「札幌ドーム」は市内の羊ヶ丘にあって、札幌駅から地下鉄に乗って十三分の福住駅から徒歩十分足らず。


春の大通り公園


雪の残るビッグアイ

 私は北海道育ちで、小学校の頃、遠足に行った羊ヶ丘には羊しかいなかったものだが、今はずいぶん建物が増えて、人も増えた。
 その便利さもあり、また、イングランド対アルゼンチン戦が行われたため、ススキノに繰り出したフーリガンが騒動を起こす最危険会場とも言われていたが、事なきを得たようでなにより。
 育った場所のためなのか、北海道に行くと落ち着く。北海道育ちの人じゃなくても、北海道の人とつきあうのは楽だと思う。
 道産子の身上は人懐っこさだ。、ほとんどの住民は数世代前に本州から渡ってきた根無し草で、親の転勤あるいは本人の転勤で北海道に来た人も多く、土着性、排他性が薄く、外からの人でもすぐに受け入れてくれる。道産子の歓待ぶりで、フーリガンも気をよくしたのかもしれない。
 道産子は性的にもオープンで、ナンパ成功率が高いことでも知られる。ススキノでは、風俗店が、ある一画に押しこめられているのでなく、ソープやヘルスが、映画館や百貨店と並んで営業している。あの光景は、他地域から来た人にとっては異空間にも見えるだろう。
 ススキノは、ソープもキャバクラ(ススキノのキャバクラはおさわりパブのこと)もヘルスもピンキャバ(ピンサロのこと)も値段が安く、女の子の質が高いことが売りだ。ソープは一万円から二万円程度が標準で、高級店でも三万円台。こんな街だから、ヘルスは東京の二割から三割は安い。


もっとも派手なススキノの風俗ストリート


風俗店の入り口もど派手

 性的におおらかなことに加え、北海道は不景気が続いて就職先がないため、人材が豊富に供給され、一万円ポッキリのソープでも、ホントにかわいいギャルが出てきたりするから、ススキノはあなどれない。そのため、北海道から東京や横浜に出稼ぎに来ている風俗嬢も多いものである。
 以前、潰れた北海道拓殖銀行の元銀行員のヘルス嬢に接客してもらったこともある。彼女はさすがにしっかり者で、妹も同じ店に引っ張ってきて、二人でヘルスを出すと言っていたが、どうなったろうか。
 ススキノでは今なおヘルスの許可がとれるのは、この不景気のためとも言われている。観光客が金を落とし、そこから確実に税金をとれるため、規制してしまってはいよいよ不景気に拍車がかかってしまうのである。一方で、こんな不景気のさ中に、風俗産業を規制しようとしている自治体もあって、何を考えているのだろうか。


地下鉄の吊り広告が入らないくらい不景気は深刻

 これも人懐っこさと関係しているのだろうが、テレクラが盛んなのもよく知られるところなので、時間のある人はテレクラに行くのもいいだろう。ただし、道産子は人懐っこいのと同時に、人間関係がいたってクールでもある。人情味に厚いわけではないのだ。なにしろ離婚率日本一を沖縄と争っている土地だ。出会うのは簡単、別れるのも簡単。
 福岡出身で、現在札幌に住んでいる知人が、「札幌の女は見た目がいいし、遊ぶにもいい。でも、人情がなさすぎる。女房にするなら九州の女の方がいい」と言っていたが、特に九州の人たちにとっては、そういう印象が強いのかもしれない。
 風俗嬢やキャバ嬢と会うや否や十年来の友だちのようになり、電話番号をすぐに教えてくれるが、いざ電話すると、やたら冷たくて悲しい気持ちになる。また、「あーんなに仲がよかったのに」という子が突然連絡がとれなくなったりもする。どこの地域でもそういうことはありがちだが、札幌では特にその傾向が強い。チクショー。と思い出したりして。思い出すと悔しいが、私自身、そういうところがあるので、やっぱり楽チン。
 札幌の女に惚れ込んで痛い目に遭ったイギリス人やアルゼンチン人が続出していなければいいんだが。
 また、ススキノには人懐っこいボッタクリが多いので、注意のこと。東京に続いて、ボッタクリ条例ができたが、今もあちこちに客引きが出没する。
 なお、人情味が欲しければ、青線の生き残り「ふきだまり横丁」に行くとよい。ススキノからも歩いていける距離だ。戦前から北海道では「屋台売春」が盛んで、かつてはツブ貝の屋台に女が待機していたそうだ。
 今は駐車場になっているが、1970年代までは、ススキノのど真ん中に、「屋台団地」という売春地帯があって、その流れを汲む人たちが「ふきだまり横丁」で今も営業している。
 さすがに今は屋台ではないが、飲み屋やスナックに、四十代から六十代のおねえさんたちがたむろしていて、近くのラブホや専門の旅館でこってりと相手をしてくれる。短期で辞めてしまうのが多いが、少数ながら、二十代の子もいる。飲み屋としての営業もちゃんとやっているので、飲みに行くだけでも大丈夫。私も札幌に行くと必ずといっていいほど立ち寄る店がある。
 でも、今回は立ち寄る暇はなかった。日帰りだったのである。飛行機に一日二回も乗るものではない。[…続きは本書をお読み下さい]

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■ミレニアム射精

今は懐かしいミレニアム。世間の流行に乗じて、私も私なりの方法でミレニアムを祝ってみました。

 二〇〇〇年特別企画である。
 急に去年からミレニアム、ミレニアムって馬鹿の一つ覚えのように騒ぎだしやがって、だいたいミレニアムって何だよ。千年紀というのは世紀が十個集まったものなのだろうから、二〇〇一年から新ミレニアムと違うんか。それとも、センチュリーとミレニアムは無関係で、ミレニアムは一九九九年と二〇〇〇年の間で区切れるのか。一説によると、ミレニアムには千年祭という意味があって、二〇〇〇年がそれに該当するともいう。この説が正しいとしても、一九九九年にミレニアムで騒ぐのはやっぱりヘンだ。
 まあ、なんでもいいや、私もこれに便乗して、一九九九年から二〇〇〇年の年変わりの瞬間に射精でもしよう。ミレニアムの意味がよくわからないまま、これを「ミレニアム射精プロジェクト(MSP)」と名付けた。たぶん妻や恋人、セフレなどでこれを狙うのはいるだろうが、私の相手はあくまでも風俗嬢でなければなるまい。次のミレニアムも風俗嬢とともに乗り切る覚悟を込めてのことだ。って、あと千年生きる気か、オレは。
 いかにもエロ雑誌臭い企画だが、雑誌の企画でこれをやろうと思い立ったのでなく、まったくの個人的計画として、着々と準備をしていたのである。
 ところが、困ったことが起きた。年末は忙しくて、連載用に、取材をする暇がなくなってしまったのだ。担当編集者にふと「ミレニアム射精プロジェクト」のことを話したら、「だったら、それでいきましょう」ということになった。本当は「二〇〇〇年特別企画」でもなんでもなくて、私の個人的なバカ計画に雑誌が便乗しただけの、単なる手抜きなんであった。
 ところが、もうひとつ困ったことが起きた。十二月三十日になって突然、プロジェクトのパートナーとして予定していた風俗嬢から「ダメになった」と連絡があったのだ。彼女がいる店は大晦日も通常通りに営業するということだったのだが、その店では、大みそかのラストまで出勤できる女の子が彼女しかおらず、十時までで閉店になることが三十日になって決まったという。私の射精のためだけに、従業員が店で年を越すのは確かにバカバカしい(念のために言っておくと、風営法の規定で、店舗型性風俗店の営業は十二時までなので、厳密に言うなら、年越しの瞬間に店内で射精をすると違法営業になりかねない。しかし、条例によって深夜一時まで延長できる地域もあって、ここでは客も堂々年越しができる。また、無店舗型は時間の規定がないので、合法的に年越しができる。実際には、多くの店舗型風俗店では、十二時前に入店した客の接客は十二時以降も続けており、この際、細かな事情には目をつぶっていただきたい。ミレニアムだし)。
 しょうがないので、大晦日に、あちこちの店を回って、パートナーを探すことにしよう。
   *
 私の思いつきのために大晦日まで仕事するはめになった編集者と、最初に向かったのは渋谷。金曜日だというのに、いつもと比べると、人通りが極端に少ない。会社も学校も休みに入り、実家に帰る人はとっくに帰り、あとは年越しの準備のために自宅にいる人が多いのだろう。



 まずは仲のいいSという店に行ったのだが、ドアが閉まっていて、「工事中」とある。ありゃ、摘発でもされたかな。
 続いて、この近くのイメクラ「おさわり分校」に行った。店名の通り、「おさわり指名」のできる店だ(何人もの女の子の体を堪能してから指名できる)。しかし、店長によると、本日は午後九時で終了で、明日もお休みだそうだ。
「お客さんはやっぱり少ないですね。女の子も六人しか出ていません。年末年始は出られない子が多いんですよ。普通、そうじゃないですか」
 そりゃそうか。こんな時まで仕事をしている私らはどうかしている。
「おさわり指名」は今や関西でも大人気だが、その元祖的な店が「つり革倶楽部」。「おさわり分校」が学校で教師が生徒におさわりする設定になっているのに対して、「つり革倶楽部」は電車の痴漢という設定。ここから徒歩五分ほどの円山町のホテル街にあって、こちらも本日九時までの営業。
「明日は休みで、二日と三日も九時までです。四日から通常営業になります。うちも女の子は少ないですね」と「つり革倶楽部」の店長。
 私の贔屓にしているこの店のナンバーワン、エマちゃんも実家に帰っていて、本日はお休みである。この子とはむちゃくちゃ肌が合うので、絶対延長してしまうんですよ。
「年末年始に出勤しているのは、東京に実家があって、仕事熱心で、彼氏がいない子が多いんじゃないですか」
 なるほど、東京出身の子だと、夜の九時に仕事を終えてから実家に帰ったって、家族と年を越せるわけだ。
   *
 ここで年末の風俗店の客の動向をざっとおさらいしておこう。九月から十一月にかけては客足が極端に落ちるが、十二月に入ると気分が浮かれ、ボーナスが出るために客が増加。気の早い人は「どうせもうじきボーナスが出るから」と十一月の給料で遊ぶので、暮れの大波は十一月末から始まる。
 また、忘年会などの宴会が激増するために、風俗業界はどこもかき入れ時に入り、月の後半は一年を通してのピークとなる。しかし、イヴとクリスマスは客足が極端に鈍る。
 最近は、イヴとクリスマスの夜は、プライベートのスケジュールを優先させるため、会社でも宴会を避ける傾向があり、宴会をやるとしても、この夜ばかりは妻や恋人と過ごさなければならず、宴会はさっさと切り上げることになり、風俗店に行くスキがない。
 過ごす相手がいない人たちはそれぞれに集まって、クリスマス・パーティをやらかすが、たいていは「来年こそは彼女と過ごしたいなあ」なんて語り合い、「ホワイトクリスマス」なんぞをBGMにしんみりとした気分になり、「風俗店に繰り出そう」ということにはなりにくい。
 まして、一人淋しくテレビを観るしかないような人が風俗店に行くといよいよ悲しさ、虚しさ、寂しさがつのるため、一人でケーキを買ってきて、自分のケツの穴にロウソクを立ててセンズリこいたりするわけだ。
 こうしてこの二日間は、年末の忙しさの中でポッカリと真空地帯のようになり、各店、なんとかして客を呼ぼうと躍起になる。以前、クリスマスの歓楽街を取材したところ、この二日間、多くの風俗店はその前後の半分くらいに客が減り、大幅割引などのキャンペーンなどをやって客を呼ぶようにしている店でも二割減から三割減は避けられない。
 どっちみち学生だったら冬休みは実家に帰っていたり、そうじゃなくてもこの日は出勤したくない子が多いため、女の子の出勤数は少なく、うまくバランスがとれてはいる。
 ところが、切れ者風俗嬢は、しっかり出勤して、しかも事前告知をする。「アタシって彼氏がいないから、クリスマスも出勤なんだよね」なんてことを一カ月くらい前から常連さんに言っておくと、ここぞとばかりに客はクリスマスプレゼントをもって詰め掛ける。この日に好きな子と一緒に過ごせるのは、客にとっては何より嬉しい。中には家庭サービスをしなければならないのに、「残業で」と言いながら、しっかり遊びに来る人もいる。
 女の子にしても、客には「彼氏がいない」と言いながら、仕事のあとで彼氏と会って「メリークリトリス」とかってくだらん冗談を言いながらハメたりするのもいるわけだが、客は「僕のレイナちゃんは彼氏がいないんだ、やっぱりレイナちゃんは僕のもんだ」なんて妄想を広げるため、この日に出ることが翌年の指名にもつながっていく。人気のある子、やる気のある子は、それを狙って、無理しても、この日は出勤するわけである。
 こうして、人気のある子はギッシリと常連の予約が詰まるのに対し、この日は、フリーの客が激減するため、人気のない子はお茶を挽くことになる。日ごろの努力ややる気が歴然とした差になって表れるのがこの日なのである。
 そして、このあと三十日までは忘年会の勢いで客が詰め掛け、また、顔の見納めで常連が最後の指名をしてくれるというのが暮れのパターン。
 しかし、この「つり吊革倶楽部」はちょっと様子が違う。
「うちはクリスマスは混んだんですよ。団体さんがたくさん来ましたね」
「おさわり指名」の店には、見物がてらに遊びに来る人も多く、一人では照れ臭いため、宴会の二次会気分でやってくるらしい。それにしてもクリスマスに宴会をやっているグループがそうもいるとは思えず、クリスマスに混んだのは、風俗店の法則からすると、かなり異例なことだ。
 しかし、「つり革倶楽部」と「おさわり分校」は、外に看板が出ておらず、フラリと立ち寄る客がいないため、正月は客が来ない。というのも、正月は、普段とも年末ともまったく違う客の動きになる。
 正月に風俗店に行くのは、年始回りや初詣でちょっと酒の入った団体さんが中心で、普段、風俗店に行く人も、いつもの店に行くのでなく、親戚や近所の知り合いらと、いきあたりばったりで遊ぶ。
 普段だったら、会社と自宅の間の移動の範囲、営業周りの範囲で店が選択されるが、この時ばかりは、里帰りした先や、年始回りに行った先、初詣に行く神社までの経由地で遊ぶため、正月に人が集まる繁華街で看板を出しているような店だけが賑わう。
 したがって、「つり革倶楽部」も「おさわり分校」も正月は客を見込めないのだ。[…続きは本書をお読み下さい]

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■ひとみーとマツ 新宿編

週に数回は歌舞伎町に行っている私でも、歌舞伎町周辺のことを隅々まで知っているかというと、そんなことは全然ありません。まして、東京に住んでいる人でも、歌舞伎町に寄りつかない人は、どこに何があるのかもよくわかっていないものです。もったいないことですね。一人でフラフラすると、ボッタクリにひっかかったりしますけど、見てまわるべきところはたくさんありますから、探検してみると、思わぬ発見があるかと思います。もちろん、これは他の街でも同様で、身近なところにある歓楽街を見物して回るといい暇潰しになることでしょう。
今回は、一世を風靡したAV嬢の白石ひとみと歌舞伎町とその周辺を探検してみました。


構想四年の「ひとみーとマツ」がいよいよ始動だっ!!

松沢呉一(以下マツ)オレたちって、なんで知り合ったんだっけ?
白石ひとみ(以下ひとみー)なんだっけ? 記憶にないよ
マツ─最初はかれこれ八年とか九年とか前、AVで人気絶頂の時にインタビューしたんだけど、ひとみーは、覚えてないんだよな
ひとみー─全然覚えてない(笑)
マツ─あれを別にすると、下北沢のよくわからないイベントで会ったのか

下北沢のライブハウスで、トークイベントがあって、その司会を私がやり、ひとみーにもゲスト出演をしてもらったことがある。

ひとみー─いや、その前にもう会っていたよ。だって、よく散歩してたよね
マツ─ああ、渋谷の松濤周辺を散歩したり、原宿で散歩したり。二人の間で散歩がブームだったからな

これが四年ほど前のことである。

マツ─ひとみーは、いつAVを辞めたんだ?
ひとみー─はっきり引退したと言ったことはないんだけど、AVに出なくなって三、四年になりますか
マツ─そんなことはないだろう
ひとみー─じゃあ、四、五年前
マツ─ん? そうかあ?
ひとみー─だって九十三年が最後のAVですよ
マツ─だったら、七年も八年も前じゃねえか
ひとみー─えー、そうか。早いなあ

彼女が記憶してないインタビューでの出会いは除いて、彼女と私が知り合った頃、ひとみーは、主にコンピュータ関係の仕事をやっていて、ノイズ・ミュージシャンとしてCDをリリースしていた。また、すでにサンプリングCDのメーカーであり、ショップもやっている「カエルカフェ」のメンバーとしての活動も始めていた。

ひとみー─ああ、そうですよね。あの頃、もうAVを辞めて何年も経っていましたよ

時間の感覚がないひとみーである。
話を突き合わせても、なんで知り合ったかは、結局二人とも思い出せなかったのだが、散歩をしているうちに、「ひとみーとマツ」というフレーズが浮かび、どうせだったら何か共同作業をやろうということになり、雑誌に企画を持ち込んだのに、どこも相手にしてくれなかった。

マツ
─最初は中身を考えてなくて、タイトル先行じゃ連載はできないことに気づいて、ミーティングもやったな。
ひとみー─やりましたね。原宿のパレフランスの地下の喫茶店で。知られざるデートスポットを紹介する企画。二人で行きたいところをピックアップして、毎号どこかに遊びに行く計画だったのに。
マツ─我々で純粋に遊びに行くことだけを考えた楽しい企画だったのに、どこの編集者も乗らなかった。読者のことを何ひとつ考えないピュアさがいけなかったかな。

これで挫折して、「ひとみーとマツ」は何もしないまま休止状態に入ったが、昨年、彼女が拠点としている「カエルカフェ」のフリーペーパー「VOX」でインタビューを受けることになって、久々に彼女に会い、「VOX」で「ひとみーとマツ」をやろうという話になった。この話を「エクストリーム・ラブ」にしたところ、「だったら、うちでやりますか」ということとなって、今回の企画を実施することとなった。

マツ
─どうせやるなら、経費を出してもらった方がいいからね。
ひとみー─うん。私はセイシェル諸島に行きたい。
マツ─どこだっけ、それ?
ひとみー─マダガスカル諸島の近く。陸ガメの宝庫なんですよ。
マツ─いいね、いいね。
ひとみー─アマゾンでもいいですよ。カエルの宝庫。

ひとみーはカメとカエルのマニアである。

ひとみー─中南米のジャングルにヤドクガエルというのとフキヤガエルという猛毒のカエルがいて、フキヤガエルは正式にはフィロバテスと言って、体は小さいけど、一匹で人間百人分くらいの致死量があるんですよ
マツ─なるほど、矢の先につけるわけか。
ひとみー─そう。インディオが動物の狩りのために使っていたんだって。いろんな毒がある中で、フィロバテス・テリビリスの毒が強いって言われている。体が白くてきれいなんですよ。他の動物も、これは食べない。死んじゃうから。すごいでしょ。
マツ─すごいけど、そんなん、飼っているんじゃないだろうな。
ひとみー─そんなん、飼ってますよ。フキヤガエルは飼ってないけど、ヤドクガエルは飼ってます。こっちはデンドロバテスと言って、フキヤガエルよりは毒が弱い。これが今カエルカフェに四十匹くらいいるかな
マツ─一家皆殺しはもちろん町内皆殺しも可能なのか。
ひとみー─ですね。でも、アマゾンの自然の中にいる時はシロアリとかを食べていて、普通、私たちが飼う時はコオロギが餌だから、餌のせいか、環境のせいかわからないけど、毒は弱まるみたい。誰も試した人がいないから、よくわからないんだけど、手に傷があると、そこから毒が入ることもあるので、触るのも危険ですよ。今度、試してみます?
マツ─イヤだよ。そんなもんを飼って誰を殺すつもりだ。
ひとみー─誰も。これを繁殖させて一獲千金を狙っているんですよ。でも、なかなかうまくいかない。卵は産まれるんだけど、ほとんど孵化しない。今、二匹だけオタマジャクシになったのがいるけど、こんなんじゃ全然商売にならないので、アマゾンに行って、何がいけないのか見てきたい。
マツ─夢のある話かと思ったら、金儲けかよ。オレはザイールがいいな。
ひとみー─どこ?
マツ─アフリカ。ボノボというサルがいるんだよ。見た目はチンパンジーに似ているんだけど、大昔に分化しているので、生態はまったく違って、ボノボはセックスやりまくりなんだ。単にエロザルというだけじゃなくて、こいつらはセックスや疑似セックス行為によって、グループ間やグループ内の緊張を緩和しているらしく、チンパンジーに比べると平和的で、非常にコミュニケーション能力が高い。オレが目指しているのはボノボなんだな。
ひとみー─それもいいですね。ザイールに行って、自然な状態で彼らがどうやってセックスをコミュニケーション手段にしているかフィールドワークしようというわけですね。
マツ─いや、オレも彼らの仲間にしてもらって、やりまくろうかと(笑)。
なんて、せっかく計画が具体的になってきたというのに、編集者が横から口を挟んだ。
編集─いくら計画を練ってくれてもいいですけど、とりあえず今回は歌舞伎町です。

というわけで、セイシェル諸島のカメやザイールのボノボを夢見ながら、第一回目は新宿だ。
    *
マツ─近い将来、アマゾンやアフリカに行くことになるので、まずは安全祈願をしておこう。
ひとみー─ここはどこですか。
マツ─花園神社だ。

花園神社は新宿駅から歩いて五分。かつては唐十郎の「状況劇場」が赤テントを建てて公演を行うなど、七十年代新宿アングラ文化のシンボルにもなった。
骨董市や焼き物市が開かれたり、見世物小屋が建つなど、今もイベント会場として機能しており、昼間は近隣に住む人々や働く人々がくつろぐ、まさに「都会のオアシス」でもある。また、深夜、飲食店や風俗店で働く女性が一人でやってきて祈願している姿をよく見かけるのは花園神社ならではだろう。

ひとみー─へえ、教えられないと通り過ぎちゃいますよね。新宿のど真ん中にこんなところがあったんだ。あらあら、横道にそれて、どこに行くんですか、マッツ。
マツ─成徳稲荷だ。
花園神社の境内にある稲荷さんである。
マツ─ほら、見てごらん。ここの上にはデカいチンコがあるだろ。



ひとみー─あっ、ホントだ。こんなの、普通の人は絶対に気づかないね。
マツ─オレは普通じゃないからな。もっと気づきにくいんだが、この裏にもチンコがあるんだよ。
ひとみー─へえ、こっちは石なんだね。でも、修理してあって、痛々しいよ。
マツ─そうなんだよ。包茎手術に失敗した傷跡みたい。
ひとみー─どんなんか知らないけど。
マツ─昔はこれが何本もあったのに、酔っぱらいが折ってしまったみたい。チンコだとは気づかなかったのかもしれないけど、ひどいことするよな。バチが当たって、そいつは包茎手術に失敗したか、インキンになったか、毛ジラミになったと思うよ。
ひとみー─こういうのって、どういう御利益があるの?
マツ─違うところもあるけど、たいていは農業の神様で、五穀豊穣だろうね。歌舞伎町で農業をやっている人は見たことないし、いるとすれば大麻やキノコの栽培ぐらいだろうけど、商売繁盛につながりそうだね。あとはストレートに子宝。この連載を続けると、そのうちひとみーはオレの子供を生むってわけだ。
ひとみー─なんか違うような気がするな。そんなことより、うちのカエルが子供をたくさん生めるように祈願しましょう。
マツ─「そんなこと」って言われちゃいました。
ひとみー─だって、ビルマホシガメは一匹百万円、子どもでも一匹十万円で売れるんですよ。
マツ─ナニ? だったらオレも祈ろう。ひとみーのビルマホシガメがたくさんセックスして、たくさん卵を産みますように。

夢があるのかないのかよくわからない二人であった。
[…続きは本書をお読み下さい]

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