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ポット出版
立ち読みコーナー●風俗ゼミナール 上級お客編
[2003-05-23]
風俗ゼミナール 上級お客編

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風俗ゼミナール 上級お客編
[2003.05.23刊行]
著●松沢呉一

定価●1500円+税
ISBN4-939015-50-5 C0095
四六判 /224ページ/並製
印刷・製本●株式会社シナノ
イラスト●おぐらたかし
ブックデザイン●小久保由美+松沢呉一

在庫有

【立ち読みコーナー】※本書所収原稿の一部を紹介

Lecture14
クンニ屋


風俗遊びのコツは、相手が積極的にサービスをする気になるところにもっていくことであります。こっちが優しくしてあげれば相手も優しくしてあげようって気になる。楽しくしてあげれば、相手も楽しくさせようって気になる。気持ちよくさせてあげれば、相手も気持ちよくさせようって気になる。つまりは優しく楽しくして、相手も気持ちよくさせるテクが大事なんであります。その点、比類なきクンニ好きの私は、自分の好きなことをしていると、たいがいは相手が喜んでくれるようになっているので、ズルいっちゃズルいような気もします。しかし、人知れず努力も苦労もしているのです。

 なんであんなにクンニって楽しいんでしょうね。って同意を求めても、わからん人にはてんでわからんと思うけど。
 映画を見ていて、ベッドシーンになると、たいていキスして、すぐに挿入ってことになっているじゃないですか。そういうシーンを見ながら、「あんなあ、クンニもしないで、何が楽しいのか」ってつい呟いていたりしませんか。ってあんまりしないか。
 周りを見渡しても、私ほどのクンニ好きはそうはいなくて、「どうして、そうもクンニが好きなのか」なんてことを聞かれることもよくある。「そこにマンコがあるから」って答えるしかないんだけどさ。
 何度も遊んでいる風俗嬢に「オレは、「クンニさせたら日本一」って言われるような人間になりたい」って言ったら、「私の知っている範囲ではもう日本一だよ。こんなにナメ好きな人はそんなにいないと思うよ」と言われた。この程度で日本一のわけはないと思うが、こう言われて悪い気はしない。
 よく考えるんだが、私のように、クンニ能力の高い人間が、どうして世間様に評価されないのだろう。カリスマ美容師だのカリスマ店員だのと、なんでもかんでもカリスマ扱いなのに、どうしてクンニストはカリスマになれんのかな。あるいは、加藤鷹などのAV男優がカリスマ・クンニストなんかな。加藤鷹とやりたい女って、素人さんでも多いですからね。
 もっともっとカリスマ・クンニストが話題になって、テレビでも人気沸騰、公開コンテストも開かれて、人気殺到にならないかな。「クンニ・ファイター」とかって呼ばれちゃったりして。
 大食いコンテストも、「早食い」「大食い」などとジャンルがわかれているように、ひと口でクンニストと言っても、人によって得意な方向は違っていて、「早クンニ派」は誰よりも早くイカせることに命をかけている。「大クンニ派」はたくさんイカせることにこそ重きがある。「深クンニ派」は早くないし、数もたいしたことないが、一回の快楽が大きい。
 なんてことを考えているとドキドキしちゃう。いえね、カリスマ・クンニストが脚光を浴びて、武道館で全国大会が開かれることを考えると、今から私も緊張してしまうのだ。
 実験台となる女性たちは実力が拮抗するイキレベルを揃えてあるのだが、どうしても相性があり、体調もあるから、実験台によって結果に差が出てしまうことは避けられない。女たちとても聴衆の面前でイクとなると緊張しないではいられず、ここにも個人差が生じてしまうため、クンニ・ファイターは、五人の女性をイカせて、最初にイカせるまでにかかった時間、規定時間内でイッた回数、本人の申告による快楽の度合いを競うのである。
 一度イクと二度目はイきやすくなる女性も多いため、彼女らはここ三日間、全員イッてはいけないという規則になっていて、また、一度イッたら本日の仕事は終了だから、実験台の女性らだけで数百人という単位で用意してあり、主催者は、実験台の確保とギャラに頭を痛めたらしい(「らしい」って、どこから聞いたんだ、こんな話)。
 ここまで黙っていたが、この大会、実はクンニ部門だけじゃなく、指、舌、チンコ、バイブの四部門あって、それぞれの部門のトップを決定するのと同時に、総合点で「グランドいかせ師」を決定するのである。私はクンニスト部門ではいいところに行くと思うのだが、チンコ部門が弱いかもしれん。しかも、武道館だから、たぶん勃起しないと思うんだよなあ。考えるだけで緊張しますでしょ。
 なんて子供っぽい夢想はこの辺にするとして(子供はこんなこと考えないってか)、あまりにクンニが好きなんで、クンニしているだけで、何とかメシを食っていけないものかと常日頃考えてもいる。夢見る中年である。
「クンニするだけで生活できないかなあ」とミリオン出版の編集者に言ったら、「何年か前にも、同じことを言ってましたよ」と指摘された。そんなことを言ったかな。
「一緒に横浜に行った時、帰りに駅のホームで遠くを見て、「本が売れて印税がガッポリ入ってきたら、三十万円くらい手にして、いろんな風俗店を回り、朝から晩まで好きな風俗嬢たちのマンコをなめ続けるのが夢だ」と語ってましたよ」
 うむ、私も思い出した。たしかにそんなことを言った。この男、よくもそこまで細かく覚えているものだ。でも、彼は結論を忘れている。正確に言うと、私は桜木町駅のホームで遠くを見ながらこういったのだ。
「本が売れて印税がガッポリ入ってきたら、三十万円くらい手にして、いろんな風俗店を回り、朝から晩まで好きな風俗嬢たちのマンコをナメ続け、うちに帰って一日の幸せな記憶に浸ってセンズリするのが夢だ」
 それにしても、ここ何年も同じようなことをずっーと考えているんだな、オレは。
 将来の夢はクンニ屋ですからね。
「ちわー、クンニ屋でーす。今日はクンニはいかがですかぁ?」と団地を御用聞きに回る仕事だ。
「あら、クンニ屋さん、しばらくぶりじゃないの。待ちかねていたわよ」
「すいません、しばらくクンニ出張に行っていたもんですから」
「お忙しくてなによりね。主人と一カ月くらいセックスをしてないので、さっさとやってちょうだい」
「えっ、玄関でですか」
「もう我慢できなくて、ヌレヌレなのよ」
 彼女は床に腰を下ろして足を広げる。
「では、さっそく失礼して、と」
 スカートをたくしあげると、ノーパンである。
「だって、たった今まで台所でキュウリを入れていたんですもの。アーン、クンニ屋さん、今日は特にすんごいわあ、ああもうイッちゃうー。オプション料金払うから、今日は三回くらいイカせて〜」
 ダメかなあ。ダメだろうなあ。フェラ屋さんだって成立しないもんな。
「こんにちわ、フェラ屋でーす」とフェラ自慢の女性が突然家を訪問。
「バカ、女房がいる時に来ちゃダメじゃないか」ってなるのがオチだな。
 だから、客が呼ぶまでは行っちゃいけないホテトルとか、デリヘルという形になるんだな。っていまさら悟るような話じゃないか。
 男がサービスする業態としては出張ホストがあるわけだが、なかなか成立しない。ましてクンニ屋のご用聞きは全然ダメだろう。
 そこで私は、この頃、出張ホストごっこをよくやっている。風俗店で私が出張ホスト役になってサービスしてあげるのだ。皆さん、大変喜んでくれ、「前から一度こういうのってしてもらいたかったの」「男の人が風俗に行く気持ちがよくわかる」「ホントに松沢さんが出張ホストになったら絶対指名するね」と言ってくれ、時には「でも、ハマっちゃいそうで怖い」なんてことも言われて、私って才能あるって確信しつつある。
 でも、結局、金を払っているのは私であって、一体何をしているのかと疑問を抱く方もいらっしゃるだろうが、私は相手を気持ちよくさせるのが好きなので、これでいいのである。しかも、風俗嬢たちはいつもと違う気分になるため、通常の接客とは違って、素の状態で感じまくってくれるのが嬉しいのだ。中には我を忘れて、「ねえ、入れて欲しくなっちゃったんだけど、本番のオプションはおいくら?」と聞いてきたのまでいて、おかしいですよ。
 風俗店だけじゃなく、プライベートでもこれをやっていて、この間、彼氏が全然セックスをしてくれないことで悩んでいる知人の女性に頼まれて無料でクンニをした。ホテル代は私が払ったが、風俗店で遊ぶよりずっと安い。昼間のサービスタイムだから、時間を気にせず、クンニ三昧。また、あっちは無料で出張ホストのサービスを受けられるので、互いのメリットが完全一致している。
 この時、私はメンソールのローションを持参した。彼女は素人さんだから、ローションプレイなどしたことがないのだ。
 彼女にとっては久々のエロであり、ローションを初めて体験し、微に入り細を穿つサービスを受けてメロメロで、三回くらいイッておりました。
 帰りにラブホのエレベーターに乗ったら、彼女は「ここがすごい充実感」と股間を指さして微笑んだ。私はフェラさえしてもらわなかったが、この言葉で大変満足である。
 その二日後のこと。池袋に行く予定があって、電車に乗った。本を読もうと思ってバッグの中に手を突っ込んでギョッとした。ヌルヌルしたものがバッグの底にいっぱい溜まっているではないか。ローションである。あの日から、ずっとバックの中に入れたままになっていて、フタが外れて、中身のほとんどが外に漏れ出ていた。
 電車の中で、そんなもん出すわけにいかず、それどころか、ベットリとローションがついた手を外に出すこともできず、私は電車の中からずっと片手をバックの中に入れていて、その格好のまま新宿で降りた。これがアメリカだったら、バッグの中に銃を隠しもっていると疑われ、その場でズドンと撃ち殺されても文句は言えまい。ズドンと撃ち殺されたら、文句を言いたくても死んじゃってますけど。
 小走りで歌舞伎町のヘルス「リッチドール」に駆け込み、「すまん、大変なことになった」と言って、詳しい事情を説明しないまま、トイレを貸してもらった。よくこの店のトイレを借りているので、この日はウンチでも漏らしたと思われたろう。
 トイレの洗面台で中身を全部出した。池袋の風俗店にもっていくはずだった書類はベトベトで、こりゃダメだと捨てて、その日の約束はキャンセルすることにした。タバコやティッシュももちろん全滅。取材ノートやシステム手帳もベトベトだったが、捨てるわけにもいかず、タオルで拭って乾かした。
 中身を全部出して、バッグを斜めにしたら、トロトロトロと青い色のローションが流れ落ちる。中にお湯を流し込んで、バッグを洗った。
 店長に事情を話して、バッグはエアコンの前に吊って乾かしてもらった。
「なんでローションなんて持ち歩いているんですか」と店長。
「いやまあ、風俗ライターをやっていると、いろいろとあるんだよ」
 風俗ライターだからって、ローションは持ち歩くまい。
 池袋に行かないことにしたので時間が空いてしまい、それからしばらく待合室で時間を潰し、歌舞伎町の別の店を取材したあと、「リッチドール」に戻って、まだ少しだけ濡れているバッグを持ってうちに帰ったのだった。
 プロの出張ホストになったら、何か対策を考えなければならんと深く反省。いざお客様のところに行って、ローションを出そうとしたら、ローションが漏れている。これじゃ、ローションプレイをやってあげられないではないか。プロ失格である。よし、念のために今後はローションをふたつ持ち歩こう。
 どこまでも夢見るバカ中年であった。
(二〇〇〇/六 「ナンバーワンギャル情報」)

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