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ポット出版
立ち読みコーナー●風俗ゼミナール 上級・女の子編
[2002-06-10]
カーミラvol.6

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風俗ゼミナール 上級・女の子編
[2002.06.10刊行]
著●松沢呉一

定価●1700円+税
ISBN4-939015-43-2 C0095/初版刷り部数 2,500部
四六判/224ページ/並製
印刷・製本●株式会社シナノ
イラスト●おぐらたかし
ブックデザイン●小久保由美+松沢呉一

在庫有


【立ち読みコーナー】※本書所収原稿の一部を紹介

Lecture*19
その気にさせる秘訣・1


流行っている店とそうでない店があります。人気のある子とそうでない子がいます。店の場合は宣伝力すなわち資本力によるところも大きいのですが、同じようなコンセンプトで、同じような宣伝をしているのに、明らかな差がつくのは、経営者やスタッフによる細かなことの積み重ねです。女の子の人気もこれと同じです。

 あまり稼げていない風俗嬢がこんなことを言っていた。
 「いいんです、指名とか。だって、指名を稼いでいる人は本番とかしているって聞くし」
 「あのね、本番して指名を一挙に増やせるほど、この仕事は甘いもんじゃないよ」
 月の指名が十本しかとれない子が、本番をすることで二十本になることはあろう。しかし、同じ子が五十本とか百本の指名を稼げるようになるかというと、まずそうはならない。特にトップクラスの成績を長期間維持している子はそういうことで客を呼んではいない。もちろん、こういう人気風俗嬢でも「するときはする」「する相手とはする」ということはある。しかし、これによって指名をとれているわけじゃなく、それ以外の能力、それ以外の努力があるものだ。
 考えようによっては、フェラするより本番の方が楽ということもあるし、どうせだったら自分も気持ちよくなった方がいいという考えもあって、人それぞれということだが、「本番さえやれば指名をとれる」という考えははっきり間違いと言っていい。目先の効果があるだけに、一部の女の子らはここを誤解している。
 という話をしたのだが、彼女はこの仕事に今ひとつ熱意が入らず、また、それまで自分がやってきた仕事へのプライドも捨てられず、「自分が本指をとれないのは、本番をしないからだ」というところに理由を見いだして安心しようとしているよう。そう信じるのは勝手だが、あたかもこの店の女の子らの誰もが本番で指名を稼いでいるかのようなことを言うのは困ったものだ。
 実際に、この店にだって本番しているのはいるかもしれないが、私も何度か会っているこの店のナンバーワンは、そんなことして稼いでいない。彼女はもって生まれたおおらかで明るい性格の上に、ものすごく努力をしている。それに匹敵する努力をした上で、わかったようなことを言うのはいいとして、何もしないで、こういうことを言ってはいけない。
 これを筆頭に、女の子側も、この仕事のことを誤解していることがよくある。男はヌケればいいんだ、寝ていれば金になるんだ、と思い込んでこの仕事を始めるのがいるのだ。この仕事は技術職であることを雑誌もあまり語らない。「語らない」のでなく「語れない」と言った方がいいのかもしれず、一体どうやったら指名がとれるのかについて考えたこともない取材者がいて、だから、インタビューで、生い立ちや初体験、性感帯、趣味というレベルの話しか聞けなかったりするわけだ。
 実際には、月に十本しか本指をとれなかった子が、ちょっとした気持ちの持ちよう、ちょっとしたアドバイスで、あっという間にその何倍もの本指をとるようになる。なんてことがよくあるように、生来の資質より、努力、工夫がそれ以上に大きく作用し、何歳に初体験をしたか、車が好きかどうか、収入は何に使っているか、オナニーはしているかどうかなんてことは、指名を稼ぐためにはどうでもいい。
 でも、あの子はあのままじゃ、絶対に伸びないし、伸ばそうと考えたときには本番やるしかないんだろうから、この仕事に向いてないのかもしれないな。説教オジサンの努力は実らず、であった。



 あるお店から、「うちの子と話してやってくれないか」と頼まれた。彼女は昨年暮れに入店したのだが、「仕事を辞めたい」とブーたれているとのこと。やる気をなくしている風俗嬢とダベッて悩みを聞き出したり、鬱憤を吐き出させたりして、やる気を引き出すのは得意中の得意で、時折、こういう依頼を受けるのだ。
 個室に入っていったら、すんごくかわいい子でビックリ。このルックスなのに、さほど本指名を稼いでいないというのだから、仕事に向き合う姿勢に問題があるのだろう。
 しかし、話を聞いたら、特に悩みがあるわけでなく、収入に不満があるわけでなく、なんとなく煮詰まっているだけのよう。
 「店もいい人ばっかりだし、いやなお客さんもそんなにいない。苦手なのは、話をしてくれない客かな」
 話があまりうまくない子は、無口な客が苦手だとよく言う。時間がもたず、何をして欲しいのか読めないためだ。また、話もろくにしないままチンコをくわえてもつまらないものである。
 「そういう客は恥ずかしがっているだけかもしれないから、時間をかけてじっくり話してあげることだね」と私。
 この店は完全個室待機で、横のつながりが一切なく、また、この子は同業の友だちもいないため、仕事のことを誰にも話せないと言う。こういう環境にいると煮詰まりやすい。彼女は学生で、単なる効率のいいアルバイトとして働いているだけで、ここに積極的な意義をまだ見いだしていない。
 借金があったり、離婚して一人で子供を育てているといった生活の事情があったり、留学の資金を貯めたいだの車が欲しいだのといったはっきりとした目的があれば別だが、こういう子のやる気を出させるのが一番の難関で、風俗指導員が最も頭を悩ませるケースだ。あれやこれや話を聞き、この仕事の面白さに少しは気づいているようだったので、仕事のやりがい、楽しみをどう見つけ、それを形にするのかについて私は話した。
 彼女はこう言う。
 「うちの店長は、“若いうちしか稼げない仕事だから、一所懸命やれ”としか言ってくれない」
 この店長が特別というわけじゃなくて、風俗店の経営をしている人たちでも、今の風俗嬢たちの意識をよくとらえていないことがあって、実際、この店長はいいヤツではあるのだが、仕事意識をもたせるには、そんな手垢のついたことを言っても効果がないことをよくわかっていない。逆に、風俗嬢という仕事は短期のアルバイトでしかないことを強調し、やる気を削ぎかねないだろう。
 あとで私は店長にこう言った。
 「ダメだよ、ああいうこと言っちゃ。はっきりとした目標があって、本当に短期で辞めようとしている子には有効だけど、そうじゃないと逆効果だよ。僕らだって、学生時代のアルバイトって、いい加減だったじゃないか。遅刻したり、ちょっとしたことで休んで、そのままバックレたり。実際には短期で辞めることになるのだとしても、この仕事は短期で辞めるしかないアルバイトではなくて、立派な職業であることをわからせた方が責任感が出るんだよ。いい加減だった若い頃に、どんなバイトが長続きしたかを考えてみなよ。何かそこに面白みがあったり、やりがいがあったりしたよね。だから、この仕事の面白さややりがいを見つけられるようにもって行く方がいいんだって」
 しかし、彼は「この仕事を好きでやっているのはいない」とやっぱり手垢のついたことを言っていて、そんな古臭い考えから逃れられていないから、女の子らも仕事を好きになれず、前向きになれず、自信を持てないのである。ちょっとしたテクを教えてあげるだけで、「よし、やってみっか」と思えるものなんだが、この店長は、そういう技術も全然わかってない。
 私は彼女に具体的なテクを伝授することにした。
 「気に入った客が本指で戻ってきてくれると嬉しいだろ」
 「うん、嬉しい」
 「そういう蓄積なんだよ。自分でいろんな工夫をすると、それが見事に指名に跳ね返る」
 この子は仕事に限らず、どうも自信がなさげ。客が確実に戻ってくるようになれば自信がつくんだろうが、自信がないから、堂々とした接客ができない。そういう悪循環にあるよう。
 私は切れ者風俗嬢たちがどういうことをしているのか、いくつかの例を教えた。
 「すっごーい。そうなったら楽しいだろうね」
 「そうだろ。もともと持っている才能ももちろんあるけど、ちょっとした工夫の積み重ねでどうにもなるんだよ。これは相手によっても違うし、女の子の個性によっても違ってくるから一言では言えないけど、君は素が十分いいんだから、もっと自信持ちな。あとは努力すれば絶対に伸びる。もう少しやってみなよ。例えば素股ひとつとってもだ……」
 と素股の指導。彼女は着衣のままで私の上に跨がる。スカートをたくしあげたときにパンツが見えたので得した。白だった。
 「へえー、こういうのもあるんだ。今度やってみるね」
 「あとは、接客だ。この仕事は、エッチな仕事と思われていて、事実そうなんだけど、本指の客のほとんどは精神面にこそ引かれているわけだ。ということは、接客部分で如何に癒してあげるか、いかに恋愛気分を盛り立てるか、如何に心を許させるかなんだな」
 「ふーん。そういうもんなの?」
 「そういうもんだ。さっき言っていた無口な客こそ狙い目だよ。一度心を許せる相手を見つけると、新たに知らない女の子を指名して、一から人間関係を作るのが面倒だろ。あっちが心を開いたら、こっちのもん。そう考えると、苦手な客もいいカモに見えてくるだろ」
 ここから恋愛モードに入ってストーカーになるのがいるので要注意なのだが、この店は、営業活動一切禁止で、電話番号も教えてはいけないため、そういったトラブルは起きにくく、恋愛モードで引っ張るテクは相当大胆にやっても大丈夫。「デートしよう」と言われても、「ごめんなさい、店をクビになっちゃうから」と言ってかわせばよろしい。
 「男の乙女心」をわかっていない風俗嬢は伸びないもの。この子も全然わかってない。
 「こう言っちゃなんだけど、お客さんの中には、あまり女の子から関心をもたれたことのない人たちも多いわけだ。そこで、思い切り関心をもってあげる。“どこに住んでいるんですか”“仕事は何やっているんですか”というのは基本中の基本だな。この程度の話は初会のシャワーで済ませておいて、もう少しあちらが心を許してきたら、下から見上げるような目線で、でもちょっと恥じらいながら、“彼女、いるんですよね”ってやると、“こいつ、オレに気があるのか”ってことになるわな」
 「ああ、それは私もよく聞くよ。“結婚しているんですか”って」
 「あっさりと言わずに、オズオズとやるのがここのポイントだ。特にオジサンはこういうのに弱い。しかも、会ってすぐじゃなくて、帰り際とか本指で戻ってきたあたりが有効だ。じゃないと、“よくある質問”ということで終わってしまうからさ。客と会った瞬間も大事だけど、帰り際の五分が実は最も重要な時間だからな。そのときにいい言葉を言えるかどうか、記憶に残る仕草ができるかどうかで、戻るか戻らないかが決定する。フェラをするときは半分寝ててもいいくらいだ。“彼女とかいるんですよね?”“結婚してますよね”“どんな女の子が好きなんですか”と言ったあとも重要だな。相手はドキっとして、無粋なヤツは“なんで?”とかって聞くわけだ。その一瞬にすべてをかけて、“あっ、いや、その、なんとなく”と言って俯いちゃったりする。君は芸風がちょっと違うから、“えー、だって、おにいさん、モテそうだから”と明るくさっぱり言う方がよさそうだな」
 「でも、そんなことを聞いてこないよ。“彼女いるんでしょ”“いないよ。君は?”“いるよ”って言って、私の彼氏の話とかしている」
 「バカ、なんてことを」
 「彼氏の話ってしちゃダメ?」
 「相手によりけりだけど、恋愛感情を利用するなら、ダメに決まってんだろ」
 これには地域性もあって、名古屋以西の客は、風俗嬢に彼氏がいるかどうかはあまり気にしないという説もある(レクチャー04参照)。もともとの気質もあろうが、風俗嬢に対する蔑視が薄らいだ都市部だからこそ、恋愛感情が容易に生ずるという見方もある。いずれにしても、誰にも彼にも彼氏の存在を教えるのは感心せず、ましてノロケたらおしまいだろ。
 「そうなのか。私の彼氏の話であんなに盛り上がっていたのに、どうして戻ってきてくれないかなって思っていたんだよ(笑)」
 男の乙女心はズタズタ。
 この頃の子たちってこれだから、、油断もスキもあったもんじゃない。
 たっぷり説教したあと、私はこうまとめた。
 「今日教えたことを実践すると、客は計算通りにハマってくるようになるから、仕事がだんだん楽しくなってくるよ」
 「はい」
 彼女は、少しやる気になったようであった。
 その三日後、私はその店に行き、彼女を指名してしまった。素直でかわいいんだもの、この子。裸で接客してもらって、さらに欠点がわかった。ここも指導しておいたので、今後は確実によくなるはず。また会いに行かなくちゃ。オレがハマッてどうする。説教オジサン、してやられたりの巻であった。
(二〇〇〇/五「黒子の部屋」)

追記一▼私のアドバイスは全然役に立たず、やられっぱなしみたいに書いてあるが、もちろんそんなことはない。冒頭の子にその後会ったら、ずいぶんやる気になっていた。二番目の子は、短大を卒業して就職し、一度は風俗嬢をやめたが、すぐに退職して風俗に復帰。前よりは自信がついたようで、表情も明るくなった。この二人の場合、どの程度、私のアドバイスが役に立ったかわからないが、池袋「恋愛マットDE同好会」のランちゃんは、「仕事を始めてすぐに教えてもらったことがずいぶん役に立ちました」と言っていた。そんなこと言われちゃったもんだから、今でもこの子のところへはよく遊びに行っている。やっぱり、してやられたり。
追記二▼こういった指導は地域差もあって、都市部では「面白さに気づかせる」のが有効だが、地方都市ではハードルが高すぎ、今も金を前面に出して労働意欲をかきたてる方が有効とも言う(某ヘルス店オーナー談)。

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