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ゲイという[経験]
[2001.06.15刊行]
著●伏見憲明
定価●2500円+税
ISBN4-939015-41-6 C0095/初版刷り部数 2,000部
A5判/608ページ/並製
印刷・製本●大丸グラフィックス
ブックデザイン●小久保由美
品切れ
(『ゲイという[経験]」増補版』は在庫有り)
[ネット書店を含む全国の書店では現在扱っていない商品ですが、ポット出版ウェブサイト、下記の「謝恩価格本フェア」での販売は行っております]
★この商品は出版社共同企画「期間限定 謝恩価格本フェア」に出品、
50%0FFで販売予定です。(2004/10/15〜12/15まで)
【立ち読みコーナー】※本書所収原稿の一部を紹介
イナバさまの“秘部”を勝手に覗く
B'zのベストアルバム『Pleasure』と『Treasure』が合わせて一千万枚を超えそうな勢いだという。およそ日本人の十人に一人が買っている割合になるんだから、そりゃ国民歌手といってもいい。なのに僕ときたら、彼らについてほとんど何の知識も持ち合わせてはいない。『Pleasure』を流行に乗じてCDショップの店頭で買ったくらいで、それまで曲を耳にしたこともなかった。
もっともまったく興味を持っていなかったというわけではない。ずいぶん前になるが、CDショップに陳列してあった彼らのシングルのジャケット写真に注目したことがあったからだ。ボーカルのイナバさまの股間の膨らみがなんともゴージャスで、目を奪われてしまったのである。えっ、これ、ツメモノじゃないよねって感じで、しばし凝視。よく見りゃ、ご尊顔だって美しいし、乳首露出系のオトコふたり組というのが、どこか妖しげだ。これ、もしかして、お仲間? つまり彼らはゲイのカップルかしらって。
そんでオカマ友達の若いのに、
「ちょいと、B'zってゲイなのかい?」
なーんて聞いてみれば、
「とーんでもなくってよ、フシミおネェさま。歌の内容はバリバリのヘテロ。“そこのねーちゃん、イッパツやろうぜ”ってパターンのオマンコソングですわよ」
たしかに、彼ら、ゲイにありがちな筋肉や体毛に対する過度の自意識はないよね。なーんだガックリってことで、先のアルバムが話題になるまで忘れていたのだった。それで、初めてCDで彼らのヒット曲をじっくり聴いてみて思ったのは…あぁ、やっぱり! 音楽もあのモッコリのようなたたずまい…。
彼らのサウンドで特徴的なのはボーカルのハモリの厚さだと思うが、そののせかたが、すごく構築的で、神経質で、シンメトリーな印象を受ける。イナバさまの股間も、手のひらにのせたらとっても重量感がありそうで、それでいて、ジーンズの中の配置の仕方はとても計算ずくな感じがするのだ。たとえばミック・ジャガーだったら、下腹部に重量感はあっても、その見せ方に繊細な気配りなぞないだろう。躍動の赴くまま、一方に片寄ろうが、亀頭のかたちが浮き出ようがおかまいなしに放置しておくはず。そうしたアバウトさがストーンズの奔放な魅力と通底している。コーラスと多少音程がズレていても、それがかえって味わいになるのがよくわかる。
反対にイナバさまのモノは、たとえ右に若干片寄っていようが、その片寄りの割合に、X:Yというきめ細かい配慮がなされている、そんな風情である。そうした感性は作品にも反映されていて、それが、細部に至るまでカチッと音を作り上げようとする、B'zの創作上の一貫した姿勢と繋がっているように思う。
そうして、ヨーロッパの聖堂のように積み上げられた彼らのサウンドの深い響きは、クラシック音楽のように耳に心地よい。とにかく音として人間のからだに自然に馴染むのだ。だから、逆に、固有名詞の音楽として心にメモリーされるというよりは、その耳から身体へと通り抜けていく心地よさ自体が、B'zという音楽をイメージされることになる。ユーミンや中島みゆき、尾崎豊みたいに個性的な「顔」を持つアーティストとは、このへんが顕著に違うのだと思う。
そして、それゆえに、歌詞の馬鹿ばかしさによって音楽の質が貶めらる危険から、微妙に免れているのだろう。そう、B'zを聴いていて一番やっかいなのは、歌詞を聴いてしまう瞬間だ。音として心地よく流れているときはこれほど快楽をもたらしてくれるサウンドもないと思うのだが、それが、イナバさまのナマの詞が日本語として耳に入った途端、見事に興ざめしてしまうのである。
たとえば、『LOVE PHANTOM』という曲は、スピード感のあるサウンドにイナバさまのシャウトがかっこよく走る名品だが、その歌詞ときたらバックの完成度の高さに反比例して、成熟とはまったく無縁の世界だ。
ふたりでひとつになれちゃうことを
気持ちいいと思ううちに
という表現の「なれちゃう」なんていう言い回しがいかにも偏差値五十割れを感じさせるし、続く、
少しのズレも許せない
せこい人間になってたよ
作詞・稲葉浩志
『LOVE PHANTOM』より
などというオチが、なぜに、あんな大げさなサウンドにのっけられるのか。そう改めて聴いてみると、背後にかぶるギターの荘厳なフレーズに赤面せざるをえなくなるほど。クィーンの『バイシクルレース』の出だしの大袈裟なコーラスよりも恥ずかしいくらいだ。
のように、B'zを聴くポイントは、内容を深追いしないこと。見た目一発やりたくても、中味を知るやこちとらのチンポを萎えさせてくれるノンケ諸氏と同様、表面的にお付き合いするのがなによりだ。
ハードにソフトが追いついていない今日びのオトコたちの現実を、これほど表している楽曲群もない。彼らはそんな時代を象徴しているのである。
別冊宝島
『音楽誌が書かない「Jポップ」批評』
宝島社、一九九八年
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