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ポット出版
立ち読みコーナー●風俗ゼミナール 女の子編
[2001-04-20]
風俗ゼミナール 女の子編

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風俗ゼミナール 女の子編
[2001.04.20刊行]
著●松沢呉一

定価●1700円+税
ISBN4-939015-31-9 C0095/初版2500部
四六判/224ページ/並製
印刷・製本●株式会社シナノ
イラスト●おぐらたかし
ブックデザイン●小久保由美+松沢呉一

在庫有


【立ち読みコーナー】※本書所収原稿の一部を紹介

Lecture11
褒め言葉の神髄

人気風俗嬢になるには、会話のテクが非常に重要であります。極端な話、ベッドテクがなくても、スタイルが悪くても、顔が悪くても、褒め言葉だけで本指名は稼げるものです。事実、トップクラスの人気風俗嬢は、案外見た目が地味なのが多いものです。ほとんどの店では、ここまで細かなテクは教えてくれませんので、自分のキャラを考え、相手を見極めつつ、褒めテクを駆使しましょう。

 一時期、すごく気に入っていた子に大塚の性感ヘルス「愛に恋!」のななちゃんがいる。痩せていて、オッパイも小さいんだけど、むちゃくちゃ性格のいい子で、一緒にいると落ち着けるんですよ。恋人気分というやつですね。
 そのくせエロ度も高く、チンコが入ってしまわないかと思えるくらいのきわどい騎乗位素股が大変お上手。手を使わずに腰を激しく動かすため、チンコが横にズレてしまったりもするのだが、すかさずチンコを自分の股間に当てて、腰を振り続ける様が抜群にいやらしい。
 しかも、彼女は褒め上手。風俗嬢の三原則は「ナメとホメとマメ」である。なめたり、くわえたりするベッドテクと、褒め言葉に象徴される接客テクと、マメつまり真面目なことである。ソープであってさえ、ハメ(挿入行為)はさほど重要ではない。ちゅうか、誰もがハメるのだから、そこから抜きん出るには、それ以外の要素で差をつけなければならないってことだ。
 ななちゃんは営業っぽさ、プロっぽさを感じさせない子だけに、褒められると素直に嬉しい。でも、この子、もとは水商売をやっていただけあって、実は相当しっかり考えて接客をやっていることがわかる。
 最初に会った時、彼女はシャワーを浴びながら、私の肌を褒めてくれた。
「きれいな肌ですね」
 これはよく言われる。事実、たいていの風俗嬢より私の肌はキメが細かいのである。
 さらに若く見えることを褒めてくれた。
「おいくつなんですか」
「四十歳だよ」
「えー、若く見えますよね」
 いつも小僧みたいな格好をしているので、少なくとも四、五歳は若く見られる。苦労もしておらず、悩みもなく、いつも若い娘さんのエキスをいただいてますしね。って言うことは思い切りオヤジ。
 プレイのあとは私のテクを褒めてくれた。
「すごく上手ですね。本気で感じてしまいました」
 これですっかり私は気に入った(これだけじゃないですけど)。
 最初は取材で会ったのだが、そのあとまた遊びに行ったら、満面の笑顔を浮かべてこう言ってくれた。
「ウレシー。この間は取材だったから、本当にお客さんで来てくれると思いませんでした」
「だって、来るって言ったじゃないか」
「そう言っても来ない人が多いから。それに、仕事でいろんな女の人に会うんでしょ」
「会うけど、客で来たいと思うほどの女の子は何人かに一人だけだよ。特にななちゃんは、何十人に一人の女の子だよ」
 私もホメが上手。でも、これは本心である。
 ほとんどの風俗嬢は、数カ月内に会いに行けば、前に来たかどうかくらいは覚えているものだが、ななちゃんは、何から何まで覚えていて驚かされた。
「覚えてますよ。忘れるわけがないじゃないですか」
 いいでしょ、この言い方。事実、彼女は、私が最初に来た時に大きな荷物を抱えていたことまで覚えていた。私はこんなこと、すっかり忘れていたのにだ。
「ここに置きましたよね」とベッドの脇を目で示した。そういえばそうだった。
 そして、シャワーでは体を褒めてくれた。
「何かスポーツやっていたんですか。胸とか腕の筋肉がすごいですね」
 この辺りも、よく風俗嬢に指摘していただくところだ。
「うん、ちょっとクンニをたしなんでいるからね。いろんな体位でやるから、腕や首回りの筋肉を意外と使うんだな」
と私はいつものベタな応対。
 続いて彼女は今まで誰も褒めてくれないところに着目した。
「鎖骨がきれいですね」
 そんなもん、褒めないわな、普通。それから数カ月後、シャワーで背中を洗いながら、「肩甲骨がきれいですね」と褒めてくれた風俗嬢もいて、「他に褒めるところがないんか」という話でもあるのだが、褒め言葉というのはこれでいい。
 どんな些細なことであっても、人間、褒められて悪い気持ちはしない。人にもよるが、ウソの領域にまで入るとどうしても心が痛み、顔に出てしまうものなので、相手のいいところを無理矢理探して褒めるといい。本人も薄々気づいているところだと、まずオベンチャラだとは気づかない。まして私の場合は、一所懸命、前向きに仕事に取り組んでいる子に惚れるところがあるため、それがサービスの一環でしかないことがわかったとしても、プラスに働くだけである。
 キャラクターに合わないセリフを口にして、「何言ってんだ、おめえ」と言われることもあろうが、相当露骨なオベンチャラを言ったところで、客はだいたい受け入れてくれる。特に異性の言葉には恋愛感情がからみやすく、異性に対する幻想があるだけに男も女も騙されやすい。
 同性であれば、「何見え透いたことを言ってんだ、こいつ」と思うようなセリフでも異性には通用する。男の前に出ると、露骨にブリッ子をしてみせる女がいて、同性には嫌われがちだが、男にはやっぱり受けがいい。逆に、歯の浮くようなセリフを言って、男には「カッコつけの薄っぺら男」としか見えない男が女にはモテる。うーん、羽賀研二。悔しいが、そういうもんなのである。
   *
 三度目にななちゃんに会ったら、部屋に入ってすぐに、私の服装を褒めてくれた。
「こういう格好も似合いますね」
 この日は暑くて、この年初めて、短いパンツにTシャツだったのだ。褒めるようなもんじゃないが、本人が薄々気づいているところを褒める方が褒め言葉は有効であり、本人が「似合わねえな」と思いながらその服を選ぶことはまずないため、どんな格好をしていても褒めてよろしい。ありふれた背広を着たサラリーマンならネクタイを褒めればよい。汚れた作業服を着てきた人まで褒めなくていいけど。
「このネクタイ、センスいいですね」
「あっ、そう?」
「彼女の見立てですか?」
「いや、女房だよ」
「結婚しているんですか。ステキな人なんでしょ」
「いやあ、そんなことないよ」
「奥さんを泣かせちゃダメですよ」
 なんて会話ができれば完璧だ。たぶん、ななちゃんなら、ネクタイ族にはこういう会話をしているだろう。
 ななちゃんは、私が肩にしょっていたリュックを降ろしてくれ、これも褒めた。
「これ、どうしたんですか」
「買ったんだよ。あまりリュックを盗んだり、拾ったりはしないよね」
「いいなあ、これ」
 特に考えもせず、新宿の露店で買ったものだ。そんなに気に入ったなら、今度買ってきてあげようという気にもなる。
続いて、こう言った。
「この間のチョコレート、すごくおいしかったです」
 二度目に行った時に、彼女のために神戸で買ったチョコを渡していたのだ。土産のことも忘れないようにするのが風俗仕事では大事である。記憶力のよさ、あるいは覚える努力は指名を増やす。ここまで書いてきたように、ななちゃんは前回褒めなかった部分に着目して褒めている。毎度同じことを言われるよりも、毎度違うことを言われた方が先につながるってもんで、これは前回何を言ったか覚えていなければできないことだ。
 シャワーではいまさらながらのところを褒めてくれた。
「大きいですよね」
 チンチンである。この日は早くも勃起していたのだ。いつも私が攻めてばかりだし、これまで毎回フィニッシュは素股なので、ロクにフェラをしてもらったこともないため、改めて、そう思ったらしい。
「しげしげと見るのは、これが初めてかもしれないね」
「フフフ、そうかもしれない。プレイルームでは、電気を暗くしているし」
 彼女、恥ずかしがり屋で、いつも電気は暗めなのだ。恥ずかしがってウブなところを見せるのも、相手によっては受けがいい。
 プレイのあとのシャワーでは、こんなことを言った。
「彼女、いないんですか。もったいないなあ。ずっと若い頃はモテたでしょ」
褒め言葉としては、「若い頃」というのが余計だな。しかも、「ずっと」。
でも、いいでしょ、褒め上手で。こうなると、次回はどこを褒めてくれるのか、楽しみでしょうがない。
 しばらくして店に電話したのだが、本来、出勤しているはずの日なのに彼女は出ていない。さらにそのあと二度ほど電話したのだが、いずれも出勤していなかった。こういうことがあると気が削がれてしまうものだ。しかも大塚に用事などありはしないので、フラリと立ち寄ることもない。最後に会ってから三カ月ほどがあっという間に経ってしまった。
 八月上旬、大塚の別の店を取材することとなって、その前に「愛に恋!」に寄ったら、店長が私の顔を見るなり、「ななちゃんは辞めてしまったんですよ」という。ガーン。
 店を移ったのか、風俗仕事そのものを辞めてしまったのかもわからないという。なんとなくの勘では、いつか復帰することがあるにしても、今はもう風俗業界にいないんじゃないだろうか。悲しいなあ。
鎖骨でもバッグでもいいので、もっともっと褒めて欲しかったなあ。
   *
 では、私が覚えているうまい褒め言葉、うまい言葉のテクを紹介していこう。風俗嬢、必見である。
「私は?また来てね?って言わないことにしているんです。だって、仕事っぽいじゃないですか。でも、松沢さんには本当にまた来て欲しいんです」
グッフッフッフッフッ。みんなにこう言っているのだとしても、また来てしまいますぜ。「また来て欲しい」だけじゃ、「どうせ営業のセリフだろう」と思ってしまうが、これだと、自分だけが特別扱いされたような気分になって、そのセリフは営業用ではないかのように受け取れる。
 同類のものだが、こういうのもあった。
「本当に気に入った人にだけ言う決めゼリフって何かある?」と私は聞いた。
「?また来てください?かな。こういうことを言うと営業っぽく聞こえてしまうから、普段は言わないようにしているんですけど、本当に来て欲しいと思う人には、つい言ってしまいますね」
 こんなことをひとしきりダベッたあと、時間が来て私は出口に向かった。彼女は私の手を握り締めてこう言って微笑んだ。
「ゼッタイまた来てください」
伏線があっただけに、この時のこのセリフは効いた。もちろん私はまた会いに行った。
『風俗就職読本』に書いたように、客に「自分が特別扱いされている」と思わせるのが商売の基本テクだ。バーや食い物屋で、「いつものやつ」の一言で店が了解することでいい気持ちになる。店側はこのように、いい気持ちにさせることでまた来させるよう誘導するのである。キャバクラ嬢も風俗嬢も基本は一緒。
 ウソ臭くない程度に、「あなただけよ」「あなたは特別」というのをうまく出せると強い。
「最初に来た時から、他のお客さんとはどこか違うなって思ってました」
「もう普通のお客さんという感じじゃないですよね」
こういうことをサラリと言えるようになりたい。
 こういうセリフを言う時には、思い切り馴れ馴れしくした方がいい。切れ者の子は、初会は適度に馴れ馴れしくして、その距離をちょっとずつ縮める。
最近気に入っている某店のナンバーワンに会いに行く時は事前に本人に電話して出勤を確認しているのだが、明らかに言葉が馴れ馴れしさを増している。最初の何回かは「この間は、ありがとうございました」だったのが、この頃は「ありがとうね」となっている。タメ口で話していいかどうかは相手によりけりだが、こういう変化を出すのも「特別扱い」のひとつの変形として有効な場合が多い。この子は馴れ馴れしくなりながらも声に緊張があるからいいのだが、店の外での電話は、ついダレた話し方をしてしまうことがあるので気をつけた方がいい。
「特別扱い」の決定打として、私自身がそうであるように、「こんなの初めて」といったセリフに客は弱い。
「お店でこんなに感じたのは初めて」
「お店でイッたのは初めて」
「彼氏とのセックスでも連続でイッたことなんてないのに」
「この仕事を二年やってきて、自分がこんなに感じるなんて知らなかった」
「こんなに楽しい人は初めて」
「今までと違う」
 こういうセリフを言われることで自信満々になって、またまた指名したりするが、その実、相手の掌で踊らされているわけだ。
 池袋のヘルス「メルモ倶楽部」のYちゃんに初めて会った時にこう言われた。
「何年もこの仕事をやってますけど、お店でイッたのは初めてです。もちろん演技はしてます。イカないようにしているわけじゃなくて、いつもは痛かったり、くすぐったかったりするので、イケないんですよ。こんなに一生懸命にしてくれる人もいないし」
 デヘヘヘヘ。今まで何度か口にしているリップサービスだろうと思っても、こう言って見つめられると、生きていてよかったと思う。
同じく「メルモ倶楽部」のKちゃんに初めて会った時にはこう言われた。
「いつもはなかなかイケなくて、すごく時間がかかるのに。二度連続イッたこともない。今日から女になったってカンジです」
この日、彼女は三度もイッたのである。
「たまに店でもイクことはありますよ、うまい人が相手だと。あなたみたいに」
 デヘヘヘヘ。今書いてて思ったんだけど、この店って、みんなにこう言うように教育してんのかな。やられたか。
「電話番号を教えたのは初めて」などと恩を売るようなことを言うのも効果的だ。
「このことは誰にも言ったことがないんだけど」
「店の人にも教えてないんだけど」
 客が「どこに住んでいるの?」「前に別の店にいたことがあるの?」「どうしてこの仕事を始めたの?」といった質問をしてきた時に、いちいちこういう枕詞をつける。本当はホストに入れ込んでいるためだとしても、あるいは買い物しすぎてローンの支払いが溜まったためだとしても、「このことは誰にも言ってないので、他のお客さんに絶対内緒にしてくださいね。私、大きな夢があるんです。こういうことって、皆が知っちゃうと実現しないような気がするんです」なんてウソ八百言っても、まずバレない。だいたい、客同士の交流なんて普通はないのだから、他の客に言いたくても言えない。ただし、同じ相手に違うことを言うと混乱するので、ウソはウソで統一しておくのが好ましい。
   *
 高円寺のピンサロ「東京物語」の愛ちゃんは、クンニされてイッたあと、こう言った。
「こんなハズじゃなかったのに……」
 店ではイカないようにしていたらしい。褒め言葉というのとはちょっと違うが、この言葉もいいですね。何がいいかというと、私にではなく、自分に向けている点だ。こうやって言葉を迂回させると、急にリアルになる。これを私は「迂回話法」と呼んでいる。
 例えば、正面向いて「好きですよ」なんて言われるより、後ろを向いて、「この人のこと好きになってしまったかもしれない」とポツリと言う姿を見てしまう方がリアルですね。独り言の多いオツムのいかれた女かもしれんですけど。
 これのペアで、「迂回接触」というのがある。シャワーの段階で、しゃがみこんで股間を洗ってくれる子がいる。この時、チンコをパクッとくわえるテクがある。「特急接触」とでも言いますか。これもいいんだが、たいてい店が統一してやらせているため、遊び慣れていると、「よし、マニュアルクリア」というだけのことになって、あまり感激はない。しかし、チンコが彼女の肩にちょっと触れたり、髪の毛に触れたりすると、ドキドキするんである。
また、背中を洗うのも、「後ろを向いてください」とやるのでなく、向かい合ったまま、抱き着くような形で背中に手を伸ばして洗う子がいる。シャワーの段階で抱きついてキスをする「準急接触」もいいが、迂回接触ではあちこちが微妙に接触して、期待感が高まるんですね。歯医者で美人歯科衛生士の乳が肩に当たるようなもんだ。
 全身リップの時に、髪の毛が垂れて、肌に触れるのも迂回接触の一技術。こういう時に髪の毛を束ねるのもいるのだが、わざわざそのままにして、うまく乳首の上を髪の毛が撫でるようにするのもいい。プレイのあとで、「わかっててやっている?」と聞いたら、彼女はニコっと笑って、「もちろん」と答えていた。すでに辞めたが、ナンバーワンヘルス嬢である。
 入り口から個室、個室からシャワーの移動でも、手をつなぐように統一している店が多いが、手をつなぐのって、陽気で子供っぽくなってしまうため、軽く腰に手をやる方がいいと思ったりもする。特に熟女系では。
 普段は行為も言葉もストレートな方が好きで、まどろっこしいとイライラして、「はっきり言ったらどうだ」と怒ってしまうこともある私でも、男と女の関係ではもうちょっと琴線をくすぐるようなものに味わい深さを感じ、特に風俗店においては、よく考えられていればいるほど感心してしまう。
 迂回話法の実例としては、「松沢さんみたいなお客さんばっかりだと、この仕事がもっと楽しくなるのに」というのがある。このセリフは、池袋の人妻専門ヘルス「奥さまおねだり倶楽部」のなみこさんなど、今まで三人くらいに言われたことがあり、知り合いの風俗嬢たちに聞いたら、かなりの割合で使用したことがあると言っていて、使用頻度が高く、効果も抜群の名作だろう。
「また来て欲しい」はありきたりだが、これだとあくまで一般論のようで、しかし、実質は「あなたにまた来て欲しい」ということであって、いい具合に迂回効果が出ている。これを、プレイのあとで抱き合いながら、上目使いに見つめながら、さりげなくポツリと言えれば完璧だ。
   *
「取材で来ただけだから、またお店に来てくれたりしないですよね。でも、もしそんな気になったら、ぜひ来てください」と名刺を渡してくれた子がいた。これも、控えめな雰囲気が醸し出される絶妙のセリフだ。ななちゃんもそうだったが、控えめな印象や恥じらいをうまく出せる風俗嬢は強い。
「今日は本気で感じてしまったので、目が見られません」
「目を見られると恥ずかしくなります」
「そんなに見つめないでください。なんか本気になっちゃいそうで」
 グッと来ますね。今こうして書いただけでグッと来ました。
 極上の言葉としては「女に生まれてよかった」というのもあった。感じまくって動けない状態で、これを言われた時はたまりませんでした。単に「こんなに感じたのは初めて」というより、独り言めいている方がやっぱり迂回効果が出て、よりリアルである。
 彼女はこうも言っていた。
「今度からラストに来てください。じゃないと、仕事にならなくなっちゃう。ラストだったら、私も思い切り感じられるから」
言いつけどおり、これ以降はラストで行くようにした。この「仕事にならない」というのも、言い方次第で大変有効で、「もう困った人なんだから。仕事にならなくなっちゃうでしょ」なんてヴァリエーョンが可能だ。内心は「あんた、しつこいんだよ。あとのことを少しは考えてくんない」ということだったりしても(そうだったのか!)、言い方を変えればこんなに有効。
「松沢さんはNGにしてもらおうかな」
「なんでだよ」
「だって仕事にならないんだもん」
 そう言いながら、抱き着いてキスをしてきたら、かわいさ百倍。
 新大久保のイメクラ「ミーハー」で客として入った時に相手をしてくれたリコちゃんはキャリアが長いのだが、「こんなに気持ちがいいのは初めて」「ああ、気持ちがいい。もう仕事にならない」なんて言いながらイキまくっていた。それでも仕事をしなくちゃとばかりに、「私もフェラしてあげる」と言いつつも体が思うようにならず、「ねえねえ、もう一回イッていい?」と言い出し、お望み通りにクンニをしてあげたところ、ここでタイマーが鳴った。
「お客さんが、タイマーの音がすると悔しくなる気持ちがよくわかる」と言って、タイマーのスイッチを押していた。
ここで「お願い、もっとして」とストレートに言うのもいいのだが、彼女の言い方は気が利いている。結局このあと彼女はもう一回イって、私は出さずに帰ってきた。
 もうひとつ極上のセリフ。札幌「マットDEいってミルク」の朱里ちゃんに再会した時、入り口のカーテンの向こうで顔を見るなり、彼女は「うわー」と、従業員に聞こえるくらいの大声を出して抱きついて大喜びしてくれ、個室に入ってすぐにこう言った。
「この仕事をやっていてよかったと思うのは、本当に会いたいと思っていた人がまた来てくれることです」
 胸がキュンキュンしますね。
 このように、二度目、三度目に会った時のセリフも重要。「会いたかった」だけでも嬉しいが、毎度同じじゃ飽きられるので、「もっと早く会いたかったの」と装飾を増やし、さらに「もう来てくれないのかと思って寂しかったの」といったように迂回させることで変化をつける。渋谷のヘルス「チキンランチ」のカリンちゃんに、久々に会いに行ったら「もう会えないかと思ってた」と言われて、グッときた。こうなれば、次はもっと早く行きますです、はい。
高松のハッスル(おさわりパブのことを西日本ではこう呼ぶ)「パラパラ」でダントツのナンバーワンである麻里ちゃんを四度目に指名した時、彼女はこう言った。
「なんかヘンな気持ちです。単身赴任していた夫が久しぶりに帰ってきたみたい」
 彼女は本当に仕事熱心な子で、相手に合わせて、いろんなセリフを大量に用意しているはずなんで、一度全部教えてもらいたいもんだ。
   *
 同じことを言うのでも、仕事であることを少しも感じさせないように言うのが大事。
「一緒にいると楽しくて、すぐに時間になっちゃうね」
「私たちって、普通の恋人同士みたいじゃない?」
たまらんですね、こういうセリフも。
 タイマーが鳴って、こちらが「シャワーに行こう」と立ち上がったら、「そんなに慌てなくて大丈夫だから」「もっと話を聞かせてください」といった、ちょっとした一言も有効。その気になって、そこでくつろがれても困るので、あくまで相手を見てだが、切れ者の子はよくこのセリフを言う。
 シャワーを浴びて服を着たあとに、「もっと一緒にいたいね」などと引き留める素振りをするのも客の心に残る。この場合は時間になったらしっかりコールをするようにフロントに頼んでおくといい。
「もう、せっかくいい気分なのに、うちのフロントはうるさいんだから。ごめんね、次の予約が入っているんだって」とフロントと次の客のせいにして送り出せばよいのである。タイマーが鳴って、「もう時間だから」とせかされるのは色気がないが、こう言われて悪い気持ちになる人はいない。まさに物は言いようである。
 このように他人をダシにするのも、「特別扱い」感を醸し出す。「いつもは演技なのに、松沢さんだと本気の声を出しちゃう」と言って、やっぱり演技しておけばいいのだ(って書けば書くほど、「ああ、そうだったのか」って自分でガックリするな)。
 最近の風俗妻である高田馬場のヘルス「ル・モンド」の京子ちゃんは前の店から指名していて、この子は「気持ちよくて涙が出ちゃう」と言って、ホントに涙を拭っている。涙を拭くふりをしているだけかもしれないが、この子は素の性格がよくて、仕事であることを微塵も感じさせない(感じさせないように努力もしているんだろう)。別段、変わったセリフじゃないけれど、「また来てくれて本当にありがとう」「こんな雨の日に来てくれるなんてすごく嬉しい」と笑顔で言ってくれるだけで、この子は十分。その子が涙ですよ。
 京子ちゃんに比べると、天と地というのもいる。ある地方都市に行った時、体験取材の相手が私のチンコを見てこんなことを言った。
「グロテスクやなあ」
 確かに私のチンコは、淫水焼けと言いますか、センズリしすぎと言いますか、相当黒いのは事実なんだが、初めて会った客のチンコを見て、グロテスクって言うか? 
「女を泣かせてるんでしょ。私も泣かされないようにしなくちゃ」って言ってくれた子がいて、彼女も内心は「うわあ、グロテスク」と思っているかもしれないわけだが、言い方を工夫することで、これほど印象は違ってくる。グロテスクと言われて傷ついたわけじゃなく、この言葉を含め、この女は接客態度がなっていなかったために、この取材はボツにした。だって、彼女を雑誌で紹介して、客が「小さいチンポやなあ」「汚いチンポやなあ」「皮かぶっているんやなあ」なんて言われた日にはクレームもんだろ。
 知り合いに、風俗嬢にチンコを「気持ち悪い」と言われた人もいて、これ一発で勃たなかったそうだ。そりゃそうだ。
 言葉ひとつで勃たなくなるのもいれば、言葉ひとつで気分が和らぐこともあるのだから、本当に言葉は大事で、これがわかっている子とわかっていない子では、指名本数はまったく違う。
 本番をしたがる客に対しても、「入れたら店に怒られちゃうからゴメンね」といったように、うまくかわすテクを身につけていた方がよろしい。
 前の客が長引いたり、自分が遅刻したり、腹が減って合間にメシを食っていたりして、客が待たされることがあるが、この時に気の利いたセリフのひとつもあれば、イライラがすっ飛ぶというものである。
「ごめんなさい。次は松沢さんの予約が入っているとわかっていたから、きれいにしておきたくて、化粧や髪の毛を直すのに時間がかかっちゃった」
パチパチパチ。十分待たされるだけで済んだのに、化粧のせいで二十分待たされることになっても、この一言があればマイナスがプラスに転化する。仮に、ご飯粒が口の横についていたとしても、私は許す。我が「風俗妻」のまりあちゃんは、いくら仲良くなっても、こういうセリフをしっかり言うし、事実、彼女は常連をすごく大事にするので、こういうセリフが生きる。
 中野のピンサロで、さんざん待たせておきながら、口をモゴモゴさせて慌てて来たのがいた。
「何食ってんだよ」
「ごめん、ごめん。ご飯を食べてなくて、急いでパンを食ってた」
こういう正直な子も憎めなくて好きですけどね。
   *
 最近気に入ったのではこんなのがあった。歌舞伎町の「東京顔射倶楽部」のナンバーワン、サラちゃんに最初に会った時のセリフだ。
「こういう仕事をしていると、どうしても濡れにくくなるんですよね。だから、いつもは?濡れにくい体質なんです?って言っているのに」
彼女はかれこれ一年くらいこの仕事をやっているのだが、この時はものすごい感じ方で、グチョグチョに濡れていた。
「男の人って、自分では自信があっても、下手くそな人が多いんですよ。そういう人でも、奥さんがいたりして、?奥さんにもこんな乱暴にしているのかな、かわいそうに?って思っちゃう。あの人の奥さんが浮気してもしょうがないと思いますよ」なんてことも言っていた。これも、他人をダシにして、さりげなく私を褒めてくれているところがいいでしょ。
 その次の受け身の客には「この前のお客さんみたいな攻め好きだと、奥さんとか彼女がかわいそう」と言っておけばよい。クッソー。
客のテクを褒めるいいセリフでは「AV男優になればいいのに」っていうのがあって、これも何度か言われたことがある。こういう仕事をバカにしている人に言ったら怒られるだろうが、私のような人間には有効だ。
 どうしても後を引くセリフにこんなのがある。
「松沢さんに会うたびに体が感じやすくなっていくの」
 こんなことを言われると、「もっと感じさせてやろう」「だったら、次回はどれくらい感じるんだろう」なんて思ってしまいますよね。
「松沢さんのせいで、私、すごくいやらしくなったみたい」
「こんなに淫乱な体になっちゃった。どうしてくれるの?」
 そうか、そうか、もっといやらしい体にしてやろう。
 自分が客に惚れているかのような素振りをすることで相手をいい気持ちにするというテクもある。ただし、直接的なことを言うと、あとから「あんなことを言ったじゃないか」などとストーカーめいた行動に出るのがいるので、あくまで匂わす程度にした方がいい。風俗嬢がよく「自分のことをいろいろ聞いてくる客はまた来てくれる」と言う。それだけ関心があるということだからだ。これをうまく逆手にとって、客のことを根掘り葉掘り聞く。
「どんな女性が好きなんですか?」なんて聞かれて、「こいつ、オレに惚れているな」と思った瞬間に、惚れさせられているわけだ。
因みにこういう時は「君みたいな子だよ」とストレートに答えるのもいいが、相手の特徴を並べるとよりいい。
「そうだな、髪の毛はショートで、目が一重で、オッパイはこのくらい」と乳を揉む。
「えー、それって私のこと?」
「どうしてわかった?」
なんて、客のくせに迂回話法を駆使する私。洒落っ気もあるから、和めるわけですよ。
「結婚しているんですか」と聞いて、「してないよ」と答えると、「えー、もったいない」とか「えー、どうしてですか」とすかさず突っ込む。この時に、「こんなこと、お客さんにはあまり聞かないんですけど、ちょっと質問していいですか」なんてことまで言うと、効果抜群。
こういうことを聞いた場合には、次に会った時に忘れていてはいけない。それを引き受けるだけの覚悟か、メモをしておくなどの工夫が必要だ。
「うちの女房が最近ヒステリー気味でさ」
「あれ? 結婚しているんでしたっけ」
「しているよ。この間、聞かれて答えたじゃないか」
「はあはあ、そうでしたね。子供もいるんですもんね」
「いねえよ、それもこの間言ったよ」
「お客さんみたいなステキな人の子供だったら、きっとかわいいから、早く作ればいいのに」
「だから、うちの女房は不妊症だって、この間言ったじゃないか」
なんてことになるとマズいですからね。
 ところで、関西の風俗嬢は「結婚していないんですか?」と聞く率が非常に高い印象があるのだが、あれって、どっかの系列店がそういう指導をしていて、そこから広がったといった事情があるのかな。
   *
 覚える覚悟がある場合、記憶力がいい場合に限るが、名前を聞かれるだけでも、客は「ん? こいつ、もしかすると、オレのことを……」なんて心が揺れる。何度も繰り返し通っているうちに名前を自然と覚えてくれるくらいのことはままあるが、初会に名前を聞かれ、二カ月くらい経って行っても、「松沢さんですよね。もう来てくれないかと思っていた」なんて言ってくれるのもたまにいる。取材で会った場合は印象に残りやすいだろうが、そうでもないのに、こういう子ってホントにいるんですよ。
「よく名前まで覚えていたね」
「だってすごく楽しかったから」
 完璧であります。でもね、この仕組みは案外簡単でありまして、事前に予約をした客の名前をフロントが女の子に教えるようにしているだけのことである。いくら記憶がよくても、いくら印象深い客だとしても、毎日何人もの客を相手にしている彼女らが、二カ月空いて、初対面の客の名前まで記憶しているなんてことはまずあり得ないんである。
 中には、こういう客の心理をよくわかっていて、名前を聞くように指導している店もある。しかし、フロントでは偽名を使い、女の子には本名を教える人もいるので、そこにズレがないかどうかを事前にフロントと照合しておく必要まであるし、女の子のやる気や能力がバラバラな中、ここまで徹底指導をするのは難しいため、やる気のある子には店が協力するようにしている程度の店がほとんど。
 私なんざ、その店がどういうシステムで客管理をしているのかまでをフロントに聞いたり、客で入った時も観察したりしているので、だいたい仕組みは見抜けるんだが、それだけに客の名前を予約の前に教えていないことがわかっている店で、名前まで覚えてくれている子がいるとイチコロでさあ。
 予約者の名前を教えていないことがわかっている店の子を初対面で気に入って延長をしたのだが、帰り際、「ねえねえ、これからなんて呼んだらいいですか」と聞かれて、「松沢でも、松ちゃんでも、呉さんでも、太郎でも花子でもなんでもいいよ」と答えた。「これから」って言われたら、また行かないわけにはいかないじゃないですか。そうじゃなくても、ホントにいい子だったので、私は半月ほどあとに会いに行った。
「嬉しい、ホントに来てくれたんですね、呉さん」と言われた。イチコロでした。
   *
 相手を見て使った方がいいセリフだが、私には感動的だったセリフにこんなのがある。
「私はまだまだ勉強中です。もっとうまくなった私に会いに来てください」
これは博多のデリヘル「凸撃ど・ピューン」のつぐみちゃん。この子は本当にすごかった。ルックス抜群、感度も抜群、テクも抜群で、何十万かかるかわからないけど、博多から東京までデリバリーして欲しいくらい。
 帰り際にこのセリフを言われ、あんまりかわいくて抱き締めて、「気に入っちゃったよ」と言ったら、彼女は「私も気に入っちゃった」と股間を触ってきた。これだけ露骨なセリフと態度だと、引く人もいそうだが、切れ者の彼女のことだから、私のようなタイプだからこそやったんだろう。
 やはりプロ意識が非常に強く、風俗嬢数百人に一人の逸材、渋谷のイメクラ「カリペロ」のえりなちゃんも、最初に体験取材で会った時の帰り際に、「私のこと忘れちゃだめだよ」とズボンの上から股間にキスした。これでは忘れようにも忘れられない。
 もうひとつ忘れられないセリフ。池袋「フリー」の永嶋あやちゃんが素股をしている時の言葉。
「ぶっかけて〜」
 こりゃ、褒め言葉じゃなくて、掛け声みたいなもんですけど。あとで彼女に確かめたら、「相手を見てのセリフですよ」と言っていた。
 相手を見極めて、大量保存してあるストックの中から瞬時に、かつ慎重に言葉を選び出すことができれば、どんな業種のどんな店に行ってもトップクラスの人気を得られる。
 最後に「こんなことを言うのは日本中でもこいつだけ」という極めつけの褒め言葉(?)を紹介しよう。
彼女とはもともとの知り合いだが、肌を合わせたのはごく最近のことだ。「店ではなかなかイケない」と言っていた彼女が連続でイッてしまった時のセリフである。
「アア〜ン、スッゴイ気持ちイイ〜! 体が溶けちゃうぅ。もうダメ、またイキそう。どんどん体が感じてきちゃうよ〜、ああ、そこ、ダメ、気持ちよすぎるぅ〜、おかしくなっちゃいそう。指も舌もスッゴイ、どうしてそんなに女の体がわかっているのぉ? さすがオマンコ博士」
オマンコ博士には思わず吹き出してしまいました。
               『PING』二〇〇〇/四月記

追記1▼この原稿は二年ほど前に原型を書いてあって、それからずっと書き加えて、ほぼ完成を見たのが二○○○年の四月。それ以降も加筆し続けているため、極最近のものも入っている。
追記2▼素人さんなのだが、私を「開発部長」と呼んでいる女子大生もいる。
追記3▼この原稿に出てくる女性らのうち、札幌「マットDEイッてミルク」の朱里ちゃん、高松「パラパラ」の麻里ちゃん、新宿「東京顔射倶楽部」のサラちゃん、渋谷「チキンランチ」のカリンちゃん、渋谷「カリペロ」のえりなちゃん、高田馬場「ル・モンド」の京子ちゃんは、今も同じ店で働いている。高円寺「東京物語」の愛ちゃんは店を移り、池袋「フリー」の永嶋あやちゃんは、店はリニューアルしたが、今も現役。すでに書いたように、新宿「ロミオとジュリエット」のまりあちゃんは行方知れず。それ以外はつき合いないのでわからん。名前を書いていないのやイニシャルになっているのは、どこの誰か覚えていないためか、他の客が知ると嫌がるだろうと配慮したため。名前を書いた女の子についている客で、「オレはこんなことを言われたことがない」とムッとするケースもありましょうが、心配することはありません。どーせ、私に言っているのは全部ライター向けのおべんちゃらですから(そうだったのか!)。

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