ベルリン映画祭現地レポート スタジオ・ポット

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[2004-02-08(日)]

ベルリナーレ(ベルリン国際映画祭)4日目


text: 青木淑子
aoki@pot.co.jp

映画祭のポツダム広場周辺

今日のコンペは、今までよりもずっと粒ぞろいという感じでした。
もちろん、私は映画の専門ライターではないし、評論家でもないので、難しいことはわかりません。でも、一般の観客と同じ気持ちで見ようといつも思っています。(一般よりは、マイナー映画好きかもしれませんけれども・・・・。)
映画祭3日目くらいにもなると、そろそろ朝一番の映画をパスするジャーナリストが出てきます。客席がちらほら空いている状態になるのです。でも、今日も満杯! 年々ジャーナリストは増え、活気も増している感じがしています。

今日の映画の感想に入る前に、昨日のスターをご紹介。やっぱり来ていました、ジャック・ニコルソン(は、オープニングからずっといるってことですねぇ。先日は旧東ドイツのスターフィギュアスケート選手だった、カタリーナ・ビットとレストランで食事しているところを目撃されております)と、共演者のダイアン・キートン。彼女は、真っ赤なレザーコートに真っ赤な手袋をして、薄い色のサングラスをかけ、かっこよかった〜〜! (新聞で見ただけですが・・・)あんな感じの女性だったら、50代になっても、20や30歳離れている男性と恋に落ちてもサマになるなぁ、と感心して見ておりました。

 

「Beautiful Country」より

さて、1本目は、「Beautiful Country」(Hans Peter Moland監督)。
ノルウェーとアメリカの共同作品なのですが、題材はベトナム→マレーシア→中国人との出会い→アメリカというオデッセイ。両親のことをほとんど知らずにベトナムのある村で貧しく育った(突然消息をたったというテキサスから来たアメリカ人の父とベトナム人の母から生まれた)青年が、ホーチミンに逃げ出し、母との再会、別れ、父親の違う弟との逃亡、中国人娘との出会い、そして3人で目指すアメリカ・・・。様々な困難と悲しみを超えて、彼は父親に会うことができるのか・・・。まず映像がどんより深いダークな色合いで、美しかったのが印象的。内容はかなりハードなのですが、全体的にいやらしさがなく、好感が持てました。2時間は長いと思ったけれども、それなりに興味深く見入ることができた作品です。でも、最後の父親と会えるのかどうか、というところから、本当はクライマックスだから盛り上がるなり、観客をひきつけるなりするべきシーンが、少々魅力に欠けていたのが残念でした。けれども、全体的によく仕上がっているという感じで、ジャーナリストからおしみない拍手がおこりました。

 

 

 

 

「Forbrydelser」より

2本目は、「Forbrydelser」(Annette K. Olesen監督)。65年生まれのデンマークの女性の監督は、ジャーナリストの間ではかなり評判が良く、上映される前からすでに拍手や歓声がありました。へ〜、と思って見ていたら、とても精神的な世界を描いていて、それも切り口がとってもシャープで、なるほどな、と思いました。神学者であるアンナは、犯罪を犯した若い女性の刑務所で、彼女達の精神面をサポートするため、神への祈りを通して彼女達に心を砕いていました。そこに、不思議な能力を持っているという噂のあるケイトが新しく入ってきます。彼女をめぐって、さまざまな人間模様が展開されるのですが、心の問題が深く描かれた力作といえるでしょう。アンナが、プライベートで子供を切望するものの、障害を持った子供が生まれる可能性があることで、激しく悩み、最後にケイトのマジカルなパワーを欲するのですが・・・・。ストーリーを書きすぎるのは無粋なので、これくらいにしておきますけれども、終わってからも、すごい拍手が起こりました。記者会見に行こうかな、と思ったのですけれども・・・、ちょっと疲れたのでパスしました、ごめんなさい〜〜!!

 

 

 

 

 

 

 

「Monster」より

3本目は、桐野夏生(でしたっけ?)の「グロテスク」という小説を何故か思い出してしまった作品。内容は同じではないのですが、どこかに共通点があるようで・・・。「Monster」(Patty Jenkins監督)で、文字通り現代のモンスターのお話。複雑な家庭で育ったリーは、早いうちから売春婦になってハイウェイで客をとる、人生でまだ幸せを味わったことのない孤独な女性。そんな彼女の前に、セルビーという、いたいけ(そう)な女性が現れたのです。お互いに惹かれあい、リーにとっては初めて心を許せ、しかも一緒にいて幸せを感じることのできる女性だったのですが、彼女とずっと一緒にいたい(要するに、レズビアン的感覚)ばかりに、お金を稼ごうと懸命に売春をしている時に、不幸が起こりました。相手の客が、暴力と異常なセックスを要求する変態だったのです・・・。初めは、リーにとっては正当防衛で殺した男性、でも、徐々にセルビーとの生活を優先するがあまり、エスカレートしてゆくリーの殺人・・・。最後はあまりにも悲しく、つらいものなのですが、私には子供がいるせいか、見終わって真っ先に思ったのが、「子供の行動は、親の責任だな」ということです。親が子供にしっかりとした環境と教育、そして心のあり方を示すことができれば、悲しいことは随分減るのではないかしら、と悶々と考えてしまいました。そういう意味で、真のモンスターとは誰なのか、じっくり考えてみるのもよさそうです。この女性の監督は、14歳ですでに働いていたという、どうやら相当な苦労人のようですが、ショートフィルムやCMなどを手がけた後、晴れて長編映画を完成させたのです。彼女にとって、この作品は記念すべき長編デビュー作。観客からの拍手もかなりありました。このような、本当の意味で深く考えさせるアメリカ映画というのは、なかなかありませんので、とても興味深く見ることができました。

・・・と、今日は3本ともかなりシリアスでしたので、すっかり疲れてしまいましたー。
でも、見てよかったな、と思える作品ばかりだったので、コンペも少しは内容が充実してきたかしらん、と思ったりして・・・。いや、まだまだ続きます、そんな甘いものではないでしょう。私の場合、会場での居眠りの度合いで、その映画の良し悪しが決まったりして!? (ひ、ひどいレポートですね!!)

さて、本日ですが、つよ子はお休みです〜。現在ドイツは9日の朝5時過ぎですが、メール原稿は届いておりません。もしかしたら後で届くかもしれないですが、私はいつも朝8時15分には出かけますので、もしも原稿が届いたら、9日分で掲載させていただきます! ごめんなさい!! 8日の夕方、私が3本目の映画を見る頃から、ポツダム広場は激しい雪が降り出しました。つよ子もちょっときつかったのかも・・・。

それでと言っては何ですが、ちょこっとベルリナーレに集まる世界のジャーナリストのお話をさせていただきますね。私は毎回、ジャーナリスト枠でパスを取得していますが、大きく分けて(大きく分けなかったらもっと沢山ですが)4つのパスがあります。私のようなジャーナリスト用、つまり映画を見て媒体に書く人用、そして専門家や研究者用、バイヤーや配給関係者、映画関係者用、それからカメラマン用です。それぞれ見られる映画の時間が異なっていて、なかなか複雑なのです。
カメラマンは、ただ撮るだけで、映画は1本も見ることができません。ですから、例えばフォト・ジャーナリストでしたら、事務局に前もってその身分を証明してパスを入手しなければ、とても両方を取得するのは難しいのです。そんなふうなのですが、私は毎回ジャーナリストしか接する機会があまりないので、他の方はわかりませんが、この、世界中のジャーナリストって、なんだかすごくマナーが悪いのです。アジア人ジャーナリストはとても控えめで、映画を待つ入り口でも静かにしていますし、割り込んだりしませんが、どこの国の人だかわかりませんけれども、ヨーロッパかアメリカのジャーナリストは、全てとはもちろん言いませんが、もうとんでもなく図々しい!! 割り込んでくるのは当たり前、それで謝罪もお礼も何もない。会場に早く入れろとわめいたり、挙句の果てには、会場付きのスタッフが英語とドイツ語で説明している間に野次を飛ばし、「そんな説明はもういい、さっさと入れろ!」などと叫ぶ。そしていざ入る時には、もうギューギュー押すものですから、私などすっ飛ばされたりはじかれたり、あるいはぺしゃこんにされてチケットチェックのスタッフに体当たりしてしまい、大変な目にあうこともしばしば。もう、人気の会場に行って入り口で待つのが怖いくらい。そんな話をかよちゃんにしたら、「そうよねー。私もそれがいやで、ここ数年ずっと研究者用のパスを取っていたの。以前はジャーナリスト枠だったんだけれどもね。でも、今年はドイツ・ニュース・ダイジェストに書かせていただくんで、やっぱりジャーナリストパスの方がいいかな、と思って切り替えたんだけれど・・・。本当に怖いよね、あれ。殺気だっていていやだねー。」と同じように言っておりました。そうなんです!! 私達ライターは、結構命がけで映画を見に行っているんですよ〜〜!!(大げさですね、ごめんなさい!)

さてそれでは映画の話題をもうひとつ。私のところに、あるメールが届きました。
ご紹介したいと思います:

青木様

私は、静岡伊豆民間ボランティアで形成されております「フィルムコミッション伊豆」土屋と申します。
この度私どもがお手伝いいたしました「バーバー吉野」が2004年ベルリン国際映画祭"キンダー・フィルム・フェス"に招待されたとの情報を得ました。

この「バーバー吉野」は、伊豆の下田市松崎町土肥町で撮影されました。
私たちFC伊豆ではロケ地の案内やケイタリング、宿泊場所、子役やエキストラの手配などお手伝いさせていただきました。
完成後、製作者「PFFパートナーズ」さまより、お世話になった伊豆の方々感謝のしるし表したいとのことで異例の「特別上映会」を催していただくことになり、子ども達を含む500名を越える関係者が集まりました。私は上映会実行委員長を仰せつかりまして、上映後荻上監督とも親しくお話しさせていただきました。

さて、この度のベルリン映画祭出品で伊豆の風景やこども達が海外でも紹介されることにつきまして関係者一同大喜びしております。今後のフィルムコミッション活動にも弾みがつくと思います。

この「バーバー吉野」につきまして映画祭開催中何か情報などありましたらレポートいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

伊豆 河津町 土屋光示

・・・・以上です。土屋さん、メールをありがとうございました!
それで、「キンダー・フィルム・フェスティバル」なのですが、なかなかそこまで見ることがいつもできず、残念に思っておりました。実はこのキンダー・フェス、つまり子供映画のカテゴリーですが、かなり優れた作品が多いと評判なのです。しかも、日本の作品が受賞することが非常に多い。それほどに、良質な日本の子供映画(と言っていいのかどうかわかりませんが・・・)が紹介されているのです。今回は、土屋さんからメールをいただいたということもあり、しかもかよちゃんとつよ子とで、先日パーラーに入ってプログラムのチェックをしていた時、みんなで「これは面白そうだよね、余力があったら行ってみたいけれどもねぇ。」などと話していたので、興味はすでにあります。今、モチベーションができましたし、これもご縁かと思いますので、ぜひとも作品を拝見しようと思っております!
チェックしたところ、2月13日の16時と、15日の14時が上映時間になっていますね。私はそうすると、15日ならなんとか見ることができるかな、と思っています。
15日ということは、すでに子供映画の受賞作品が決まっている時ではありますが、それでも構わないので、トライします! 13日だと、私の持っているパスでスルーで入場できますが、15日は会場が別の場所のため、前日に無料配布のチケットを入手しなければなりません。並んでゲットするのですが(これもかなり大変なんですー。毎日ジャーナリストが行列を作って待つのです。枚数に限りがあるため、プレスカウンターに早く行かなければならないのです)、それさえクリアできれば、ぜひ見に行きたいと思います。もちろん、つよ子やかよちゃんも誘ってみます。(できれば大久保さんや森山さんも)荒牧さんは13日にはもうパリに戻ってしまうので、残念ながら無理ですね。

ということで、今日はこの辺で〜〜!

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