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まずは司書常勤職員の雇用拡大を
大橋直人
(1) 図書館窓口業務の委託は、図書館資料費(図書などの購入予算)などの削減を前提にしており、本来の図書館運営効率化とサービス向上とは無縁のものである。
自治体・図書館業務委託の目的は、政策能力の向上、住民自治形成の発展の阻害にならないことを前提に、独立した業務、臨時的な業務に民の優れた能力を導入することにある。図書館の場合、無料の原則と誰でもが利用できる機関であるため、収益を生まないだけでなく自治体業務の中でも公益性が高い機関でもる。その結果、公共図書館サービスは民では行われてこなかった。そのため図書館運営、経営の経験、能力は民に蓄積されていないため、窓口業務の委託は民の優れた能力を生かすものとなっていない。
窓口業務では資料の受け渡しだけでなく、利用者の貸し出し状況(消費動向)をみて選書(品揃え)に反映すること、配架・配列直しの際に、全体の蔵書構成をみて除籍する資料と保存する資料(基本書等)の判断をすること、利用者要望を業務改善に役立てることなど図書館運営の基礎となる情報を得ている。
今回の委託は、このように窓口以外のサービスを支える業務と窓口業務が分断されることにより、公共図書館発展の循環が保障されないものとなっている。
(2) 図書館窓口委託は、職員の人件費削減を目的にしたものであるとともに、雇用者責任を放棄した政策となっている。
同一労働同一賃金は働く者にとって、最も原則的なものであり、国の報告書の中でも主張されているものである。しかし、自治体・図書館の中では、賃金の高いフルタイム(週四〇時間)常勤職員の代わりに賃金の低い非常勤職員が雇用されてきている。東京二三区立図書館では、司書職制度のない中で、司書資格を持つ専門非常勤職員が採用されてきていた。そのため、専門非常勤職員は、司書資格を前提としない常勤職員よりも総体的に能力が高く、雇用期間も長くなってきており、現在の図書館運営になくてはならない位置と役割を果たしてきていた。
しかし今回の委託では、専門非常勤職員の解雇が行われてきている。このことは、図書館業務を根幹・非根幹業務に分ける理論的装いをとりながら、業務委託により雇用の責任を直接的に負わない形態を選択したといえる。
終身雇用、年功序列型賃金などの日本型雇用政策が崩れてきている中で、公務における常勤職員、非常勤職員、委託労働者のあり方(待遇など)が問われている。公務員制度にかかわるが、必要性と働く者の要求に基づきフルタイムではない正規職員制度も必要となっている。
東京二三区立図書館で必要な当面の人事政策は、人件費の高い正規・常勤職員に司書を採用することなどにより、職員数を適正化することである。
図書館の委託について思うこと
手嶋孝典
(1) 委託についての個人的な思いと人件費比率
図書館の委託問題というと、一〇年前の調布市立図書館の財団委託提案とそれに反対する運動のことを思い出す。そのことについては、本誌の第一号で取り上げているので、関心をお持ちの方は、ぜひ読んでいただきたい。
私事にわたり恐縮であるが、当時私は一二年近く在籍した図書館から、市長部局への出向を命じられ、図書館に早く戻りたいと寝ても覚めても念じていた。しかし、一方では久し振りの異動で、さまざまな刺激を受けることも多々あった。その中で、図書館職員の「専門性」についてじっくり考えることができた。
そのような時期に、調布市立図書館の委託問題と遭遇したので、司書職制度が確立しているはずの図書館における専門職の振る舞い方に、とりわけ強い関心を抱いたのである。あわせて、地方自治の問題としても委託問題を考えていたつもりだ。そして、委託反対運動がきっかけにもなって本誌は誕生したのであるが、少なくとも、私が編集委員に加わったのは、委託反対運動との関わりにおいてであった。調布市立図書館の場合は、利用者・住民、多摩地域を中心とした図書館職員の運動によって、何とか直営を堅持したが、通年開館等働く側にとっては厳しい結果がもたらされた。
それにしても、東京都二三区の場合、あまり表立った反対運動が展開されているとは思えないが、職場が委託に反対するどころか、むしろ賛成するというのが実態かもしれない。利用者・住民も委託によるサービス低下を問題にするより、むしろ委託の方が接客態度もいいということで、歓迎している向きもあるらしい。ましてや職員人件費の比率が高いことも、委託を容認する大きな理由になっていると思う。
例えば、「文の京」と自称している文京区立図書館の場合は、二〇〇二年度予算の図書館費に占める人件費の割合、すなわち人件費比率は、七四・六%にも及ぶそうである。区職員全体の比率は、三一・〇%というから、図書館の比率はかなり高率である。区民一人あたりの図書館の年間コストは、八二七一円とのことである。
ところで、町田市立図書館の二〇〇三年度予算(図書館費)の総額は、一三億四二七〇万七〇〇〇円であるが、その内いわゆる人件費に相当するのが、職員人件費七億七八六七万五〇〇〇円、嘱託員報酬(社会保険料を含む)一億五〇万円、臨時職員賃金(社会保険料を含む)二七六二万八〇〇〇円であり、合計九億六八〇万三〇〇〇円となる。人件費比率は、約六七・五%に達する。町田市の場合は、コンピュータ関連費用を情報システム課というセクションで予算化しているため、その実態はつかみにくいが、その費用を加えると人件費比率は、もっと低くなるはずである。それにしても、図書館費に占める割合は、決して小さくないので、それに値するサービスを提供できているかが問われることになろう。
二〇〇三年四月一日現在の町田市の総人口(住民基本台帳人口+外国人登録人口)三九万六二七八人で除すと、市民一人あたりの負担額は、図書館費が約三三八七円、そのうち人件費が約二二八八円に及ぶことになる。コンピュータ費用を加えれば、負担額は文京区ほどではないとしても、もっと増えることは間違いない。もっとも、人件費についての変動はない。
財政が逼迫しているため、図書購入費などが削減され、図書館のサービスが切り捨てられようとしている現在、人件費を聖域にしておくわけにはいかないと思う。委託に頼らないで、人件費を削減する工夫が求められよう。ちなみに、町田市立図書館の図書購入費については、二〇〇三年度、二〇〇四年度と続けて前年度実績を大きく割り込む事態となった。特に二〇〇四年度は、二〇〇二年度の約四〇パーセントになってしまうことが確実になったため、正職員と臨時職員を減員し、嘱託員(非常勤特別職)を増員する措置をとった。その差額一三四五万九〇〇〇円のうち、一一七六万六〇〇〇円を図書購入費に充当し、二〇〇五年度以降についても、人件費削減分一三四五万九〇〇〇円については、別枠で図書購入費に上乗せすることが認められた。
(2) 多摩地域における職員配置の変遷と委託問題の論点整理
図書館の職員委託が浮上してきた背景は、これまで見てきたように人件費であることは間違いない。その辺については、多摩地域の大規模な中央図書館が開館した際に、どのような職員配置を考えたかを時系列で辿ると興味深い。
・町田市立中央図書館の開館(一九九〇年)=正職員三五名増員その後も利用増に応じて増員
・立川市中央図書館の開館(一九九五年)=八名の増員分は嘱託員(非常勤特別職)
・調布市立中央図書館の開館(一九九五年)=一九九三年三月に財団委託を公表、反対運動により撤回
それから一〇年を経て、東京都二三区で雪崩を打って進行しているのは、貸し出し・返却業務を中心とする民間委託である。中には、レファレンス業務まで非根幹業務として位置付け委託している図書館も現れる始末である。更に昨年、地方自治法が改「正」され、図書館業務をまるごと民間委託することへの道が開かれた。
座談会で触れられた点も含め、委託問題の論点について、整理しておきたい。前述したように、委託の背景は人件費問題であるが、それがいわゆる構造改革の主張(市場原理・民間活力の導入、規制緩和)と連動しているのである。
1●何故委託なのかを根底から考える必要がある。委託しても問題は起きないという程度のサービスしか提供してこなかったのではないか。委託になったら、利用者が納得しないというところまで、図書館サービスの水準を引き上げる必要がある。
2●委託するとサービスが低下するというが、利用者は本当にサービスが低下すると思っているだろうか。例えば、委託されたあとに利用者から元に戻せというようなリアクションはないのか。
3●東京都二三区は、多摩地域と比較しても職員数が多い。人件費が高いというのは事実であり、それに見合うサービスを提供してこなかった図書館側にも責任があると思う。市民レベルでは、民間委託=いいことという図式が定着しており、そこを覆せなければ反対運動が組織できない。
4●委託よりも非常勤職員の方が安くつくという議論は、非常勤だから報酬が安くて当然という議論に繋がっていく危険性がある。
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