町田市立図書館に設けられた「組織等検討委員会」がまとめた報告書『町田市立図書館における専門職員の在り方』(114頁〜)をもとに、専門職・専門性とは何か、司書の位置付け、そして具体的に挙げられている提案について検討する。
文◎都築正春 自治労町田市職員労働組合中央副執行委員長
つづき・まさはる●1951年、東京・世田谷生まれ。近くに世田谷区の図書館がなかったため、渋谷区立西原図書館を利用していた。
1973年、町田市役所入職。社会教育課・資産税課を経て、現在は市政情報室に勤務。組合では、書記長・委員長を経て、現在は副委員長。
はじめに
町田での動き
図書館六分会協議会では、これまで司書有資格者の異動の制限、司書講習への公費派遣などの取り組みを行い、一定の成果を上げてきた。今回、更に一歩踏み込んで「専門職員」の位置付け、採用・異動・任用・専門職員認定などについて、図書館内に設置された「組織等検討委員会」での検討結果(「町田市立図書館における専門職員の在り方」以下「報告」という)がまとめられた。そこで、第1に「報告」で主張されている専門性について、第2にそれを踏まえながら図書館司書の位置付けについて検討し、最後に「報告」でなされた具体的提案について逐条的にコメントすることとしたい。
専門職と専門性について
専門職(プロフェッション)は「学識(科学または高度の知識)に裏付けられ、一定の基礎理論をもった特殊な技能を、特定の教育・訓練によって習得して資格を得、独立して営業するような職業」(新社会学辞典、有斐閣)とされている。また、M・リーバーマンは次の7項目を専門職の定義として指摘している。(1)範囲が明確で、社会的に不可欠な仕事に独占的に従事する。(2)高度な知的技術を行使する。(3)長期の専門教育を必要とする。(4)施業者は、個人的にも集団的にも広範な自律性が与えられる。(5)自律性の範囲内で行った判断や行為については直接に責任を負う。(6)営利ではなく、サービスを動機とする。(7)適用の仕方が具体化されている倫理綱領をもっている。この他にも、多くの定義があるが、基本的には次の四点に集約される。(1)高度な知識・技能に基づく資格制度と業務の独占、(2)広範な業務の自律性、自己決定権、(3)決定に対する自己責任、(4)職能的団体による自治(独自の倫理綱領)。こうした定義は、いわゆる「古典的プロフェッション」については良く当てはまる。例えば、弁護士が典型的な例となる。かなり高いレベルの国家試験と二年間の修習期間を終えて、はじめて資格を取得できる。そして、弁護士法に基づき広範な自治権を有する職能団体(弁護士連合会)に登録することによってはじめて法律事務を業として行うことができる。また、業務遂行にあたっては広範な自律性・自己決定権を有している。そして、弁護士として不正や非行があった場合には、職能団体により除名などの懲戒処分が行われることにより個人責任が問われる。しかし、こうした「古典的プロフェッション」は、私たちの職場では医師ぐらいであり、むしろ「セミ・プロフェッション」(小・中学校教員、看護婦、司書、ソーシャル・ワーカー、編集・報道など)とか「マージナル・プロフェッション」などと称される職種が多い。そして、同じ「セミ・プロフェッシン」に分類される場合であっても、看護婦や教員のように、資格を持たないものの業務従事が原則として禁じられている場合、司書や社会福祉士のように、(資格)名称独占はあるがその業務が明確化されておらず資格を有しないものの業務従事が禁じられていない場合とがある。また、職能団体の有無やその在り方、業務の自律性・自己決定権の程度などについても職種ごとに違いがある。こうした違いがありつつも、重要な共通性が存在する。「セミ・プロフェッション」は基本的に「被雇用者」であることである。組織の中の専門職は、経営と倫理の緊張関係にあるといわれる。例えば、病院に勤務する医師の場合、基本的には自己決定権を有するにしても勤務する病院の経営方針による圧力と無関係というわけにはいかない。専門職として、「自律性」を追求し、「仕事」への忠誠を優先すればするほど、組織におけるコンフリクトの可能性が高まることになる。こうした、組織におけるコンフリクト・緊張関係の中で「自律性」を追求してなお社会的に認知されるだけの内実が備わっているときはじめて専門職ということができるのではないか。
図書館司書の専門性
次に、「報告」の中の「専門職としての図書館司書」とその内実としての「専門性」についての考え方について検討したい。「報告」では、「図書館業務の本質的な部分が、なかなか見えにくい」ため「図書館の仕事を外から見ていると、カウンターで資料(本)の受け渡しをしているだけに見える」とした上で、見えにくい基本的な仕事として「読書相談(読書案内)」や「レファレンス(参考調査)」こそが重要であると指摘している。また、「地域資料や視聴覚資料、外国語資料、児童サービス、障害者サービス、ヤングアダルトサービスなど、きわめて専門的な知識と技術を要する個別分野」についても触れている。指摘されている事柄が専門性を有していることは、明らかであろう。しかし、問題は専門職として位置付けるに値するだけの「専門性」を有するか否かという点にある。指摘されている事項は、どちらかというとスキルの部分であり、専門性を眼に見える形で強調することにより一定の説得力があるように見える。だが、いわゆる一般事務職がOJTや各種研修などにより習得することが困難なほどに高い専門性が求められている部分がどれであり、量的にどれくらいあるのかは明らかとなっていない。かなり主観的にいうと、自治体図書館に求められている個々のスキルのレベルは、スタート(採用)から別にしなければ到達できないほど高いものとはいえないのではないか。大橋謙策のいう「業務としての限定ももう一つ定かではなく、かつその業務に携わる場合に、資格を有していることが絶対的に必要であるほどに、また他の業務に比しての自律性が要求されるほどに社会的認知が高くない場合」(「社会福祉職員の資格問題と社会福祉教育」『シリーズ福祉教育第6巻』所収、光生館・1990年)に該当するのではないか。むしろ、自治体図書館にとって重要なことは、スキルとしての専門性を発揮する前提として、自治体図書館のあり方についてしっかりした哲学を有し、それぞれの自治体の個性に配慮できる能力、限られた資源をどの様に投入しどの様な成果を得ようとしているのかを明示した図書館運営を行うことのできる能力、要するに経営的センスが専門性の内実として求められているのではないか。やや誇張していえば「図書館業務の本質的な部分が、なかなか見えにくい」のは、対人サービスで駆使される個別の専門的スキルであるよりは、町田市立図書館としてのアイデンティティ(経営方針)が確立されていないことにあるのではないか。もちろん、図書館経営的専門性にしろ対人サービスや補完的サービスでの専門的スキルにしろ、そこに専門性が存在し、より一層そうした能力に対するニーズが高まってきている現状については認識は共通していると思う。しかし、こうした業務の専門性が求められる傾向は図書館に限ったことではない。問題は、繰り返しになるがこうした専門性が専門職として位置付けられなくてはならないものなのか否か、位置付けられるべきだとするとどのような専門職制を考えるべきなのか、という点にある。率直にいって、「対人サービスや補完的サービスでの専門的スキル」という点に限っていえば、通常の組織運営における「専門化」、「分業」、「適材適所」といった「官僚制的手法」でも大部分対応できるのではないかと考えられる。しかし、こうした手法だけでは限界となっているのが「図書館経営的専門性」についてではないか。「報告」では「図書館の運営効率の観点」からも「図書館には常に、専門的な教育と訓練を受けて、なおかつ長い経験を蓄積した職員が、どうしても一定数以上確保されていなければならない」と指摘しているが、こうした点を踏まえたものであれば充分理由があると思われる。この場合には、採用時からの専門職というより、例えば係長級以上のリーダーシップを発揮しなくてはならない層を専任職化する方が実態にあっているのではないか。もちろん、この場合にも「報告」で検討しているような「育成」をどうするのかという問題はでてくる。最後に、蛇足ではあるが「図書館職員の扱う資料の主題は、森羅万象に及ぶ。また、利用者はあらゆる年齢層、階層、生活条件を異にする市民である。そういう市民がそれぞれに独自の課題をもって来館し、それを図書館で解決しようとする。そのすべてに職員は、適切な援助を与えられなければならない」としたり、「図書館の仕事のおおよそを把握するだけでも、最低10年はかかる」などというのは実態と遊離してはいないか。確かに対象・主題は森羅万象に及ぶかもしれないし、ケースによっては解決できるものもあるかもしれない。しかし、図書館が提供するのは「資料」そのものであって「解決」ではない。市民が主体的に判断するための1つのあるいは複数の可能性を資料を通じて提供するにすぎない。むしろ、こうした自己限定・自己抑制を厳しく課することによって、より一層図書館の自由・自立性が担保されるのではないか。また、仕事のおおよその把握だけで10年もかかるとするならば、図書館内部の人材育成システムが問われることにもなるのではないか。「専門閉塞」の弊害に陥らないためにも、もう少し客観的・相対的な視点が必要ではないのか。
町田市立図書館における専門職員の在り方について
本題である「報告」の「町田市立図書館における専門職員の在り方について」は逐条的に検討する。
●基本的な考え方
(1)専門職員……採用段階から専門職とすることには、原則として反対である。むしろ、図書館司書有資格者が一定の経験を経た後に、「選考」の上任用(昇格)とも関連させて「図書館司書」として発令し、「専門職」として位置付ける方が良いのではないか。(採用に関しては該当箇所で後述)
(2)異動……異動のルール化には賛成。「行政の一員としての能力を身に付ける」ことは組織との無用なコンフリクトを回避するためにも有効であると考えられる。同時に、「専門職」あるいは「専任職」とした場合その職の自律性を担保するための位置付け、権限について明確化する必要がある。なお、本来の「専門職」について考えるとき、「マンネリズムの危険性」が異動の理由になるとは考えられないのではないか。
(3)職員構成……「すべての職員を専門職員とする」ことは?の考え方に立つとき不可能となる。「専門職員」を「専門職員と図書館司書有資格者」と読み替えるならばその割合を限りなく100パーセントに近付ける事は可能ではないか。ただし、司書資格を取得する意欲のある職員に対しても、門戸を閉ざすべきではない。
(4)専門職員の確保……「新規採用者」について、有資格者で希望する者を優先的に配属することは、通常の異動ルールの延長上の範囲であれば問題はないのではないか。ただし、?職員構成でも述べたとおり、有資格者でない者であっても、希望により研修で司書資格を取得させ、専門職員となる道は保障されるべきである。
●制度の概要
(1)職員募集……「一般事務職(○○○専攻)」という募集・採用形態は例外的なものである。博物館法に基づく施設への配置を予定していないために「学芸員」として募集しなかっただけであり、これを一般化することはできないのではないか。
(2)採用試験……町田市では、現在いわゆる「専門職」は「有資格者以外の者の業務からの排除」または「必置」が明確である場合に限られている。この場合、採用試験は教養試験とそれぞれの専門に関する試験(択一または論述)となっている。しかし、一般事務職が専門性を必要としないということではなく、むしろ図書館を含め個別行政分野ごとに専門家を育成する必要性は著しく高まっている。一方、現行の採用や異動の在り方では、専門的知識経験を蓄積し業務に反映することが困難であり、改善が求められているとする点については「報告」と共通した認識を持っている。しかし、採用段階から「専門職」とすることには問題も多い。むしろ、採用試験の際の工夫により、図書館専攻を含め多様な専門専攻者を確保し、内部育成により必要に応じた専任職を設置していくことが、「専門閉塞」の弊害を克服した開放的専門職・専任職を確保することにつながるのではないか。
(3)採用……異論はない。
(4)新規採用職員の配属……?により確保した職員を適材適所で配置すべきである。その際、専門(専任)職員育成を考慮したものとすべきである。
(5)職務名……「図書館司書」の発令が補職的なものであれば、特に異論はない。
(6)異動……標準モデル的なものとして考えるならば異論はないが、制度的にブロックすることは、全体の異動の枠組みの中でかなり困難ではないか。
(7)昇任……問題は、「専門職員」の昇任(専門職内部の昇任の制度化)か、昇任による「専門職化」かという点にある。前者であれば、「報告」の指摘するように全庁的な問題ではあるが、病院看護婦や保母のように個別対応することも可能ではないか。この場合には、ポストの数による昇任の時期の前後が顕著に出る可能性がある。後者の場合(私見だが)、「専門職候補」的な位置付けでの「育成」期間後に「専門職」とするかどうか最終判断すべきであるという考え方であり、専門職は最低でも「係長級」として位置付けるべきであると思う。
(8)専門職員認定……特に異論はない。
(9)専門職員から一般職員への変更……特に異論はない。なお、「変更」が必要な場合を想定するならば「特段の理由」について「例示」的なものは提示した方が良い。
(10)〜(14)……省略。
組織の中の専門性(職)について
――最後に
町田市の行政組織の中で資格や専門性(職)を積極的に評価すべき2つの理由がある。第一。図書館司書に限らず、基本的には「資格」よりも「人材」である。有資格者が有能な人材とは限らないし、資格は持っていなくても適材はいる。しかし、職員数が多くなればなるほど「人材」を発掘することが難しくなる。「有視界飛行」の範囲は限られている。町田の現状は、計器飛行すべきところを強引に「有視界飛行」しているようなところがある。そこで計器飛行する際の計器の一つとして「資格」を考慮することが必要となる。自ら資格を取得し、図書館司書の仕事を志そうとする者のうちにこそ「人材」がいる蓋然性が高いからである。第二。町田に限らず、行政の在り方の抜本的な見直しが求められている中で、内部から「官僚制的弊害」を克服する可能性を持った存在として専門職や専任職を位置付ける意義がある。専門職は、組織との緊張関係を維持できない場合その「専門性」を根拠に官僚制を補強・助長する可能性があることも厚生省や動燃の例を見るまでもなく指摘されなくてはならないが、本来その権限の範囲内においては官僚制的秩序に拘束されず、より普遍的な価値基準によって行動することが許されているからである。
具体的な制度の内容をめぐっては、多様な意見がありうる。しかし、これからの行政の在り方として、組織目標の効率的達成を求めるヒエラルヒー組織としての官僚制と普遍性を追求するネットワーク志向の専門職が、一定の緊張関係を保ちながらも相補的関係になることが求められてくることは間違いない。今、ようやく一般論としてではなく町田でどうするかという議論が始まったばかりであり、同じような問題を抱えているはずの福祉分野などを含め、人事・任用制度の議論の枠組みの中に積極的に組み込んでいきたい。
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