|
練馬区に図書館協力員制度が導入されてから、今年で11年目になる。
その3月4日、練馬区立図書館協力員労働組合が結成された。
協力員が抱える問題は、協力員自身で交渉に当たるべきだという考えから生まれた組合は、どのような要求をしているのか。
文◎橋本匡子●練馬区立図書館協力員労働組合書記長
はしもと・まさこ●都内私立高校の図書室に司書として勤務後、結婚退職。
地域ボランティアの親子読書会などに参加の後、平成5年4月より、練馬区立南大泉図書館に協力員として勤務。
現在、練馬区立協力員労働組合書記長。
組合結成までのおおまかな経緯
練馬区では昨年から、学童クラブの非常勤職員化に絡み、区全体の非常勤体制の、抜本的な見直しが始まった。多種多様な勤務態様の非常勤職を、一律にするらしいとの情報も伝わってくるに及んで、図書館協力員の間に雇用止めの不安が再び強まってきた。
しかし、正規の職員でない協力員には労働条件に係わる情報が中々伝わり難く、又交渉権も持っていない為に、これまで区側の通達は、事前の説明も無しに、一方的に申し渡され、協力員側はそれを受け入れるしか無かった。見かねた区職労図書館分会が、代わりに窓口となって、区側からの情報を提供してくれたり、又協力員たちの要望を纏めて、分会の交渉内容に盛り込んだりしてくれることに甘んじていた訳である。この分会の全面的な援助のお陰で、産休(但し無給)の取得や、半日休が可能になり、又休日数の見直しがされるなど、処遇の改善が小出しとはいえ、なされたのである。協力員の中には「こうして多分徐々に良くなってゆくのだろう。」という、日和見的な雰囲気が生じていたと思う。
今回の雇用止めの不安は協力員たちのそうした他力本願の甘えた気持ちを吹っ飛ばし、自分たちの問題は自分たちで考え、直接交渉に当たるべきだという基本を思い出させてくれた。又、分会からも当事者以外の擁護には限度があるので、別に独自の組合を結成するべきであるとの勧告があった。
こうして昨年11月末に、協力員全員参加の話し合いの結果として、組合の結成を決定し、同時に結成準備委員会が発足したのである。
今年に入ってからも準備は着々と進められ3月4日には、結成大会を迎えるに至った。加盟申込者数は、協力員47名中の42名、実に98パーセントを上回り、事態が如何に深刻且つ差し迫った問題と捉えられているかが分かる。
今回の組織化に当たって、協力員たちに戸惑いや躊躇が全く無かった訳では無い。特に上部組織への加入については、話し合う必要があった。しかし、単独の組織として交渉に当たる為には、誕生したばかりの小さな素人集団では、余りに非力である。これから始まる交渉に必要な知識や情報を得るためにも、また精神的な支えとしても、全国的な組織と仲間のバックアップが必要と判断し自治労への加盟を決めた訳である。執行委員は委員長以下10名、それに特別執行委員として区職労より1名が参加している。
次に、組合は何を要求するのかを、具体的に述べてみたい。
協力員が力を発揮して働き続けるために
第一の要求は、雇用に関して「再任に限度を設けないこと。」である。毎年の更新時の不安を無くし、安心して生活が出来るように又、仕事にも励むことが出来るようにして欲しい。こんな時代に職を失うような事は絶対困る。一番良いのは雇用に年限が無くなることである。
第二の要求は、報酬および労働条件に関してである。(1)「慶弔休暇の有給による取得を認めて欲しい。」(2)「年休の時間単位の取得を認めて欲しい。」以上二件は、同じ非常勤職員の再雇用員には、既に認められており論拠の無い不平等と言える。また、慶弔休は社会の常識である。(3)「報酬額に、変則勤務の要素を反映させること。」協力員にも、変則勤務の付加給がついてはいるが、正規職員に較べると余りにも少ない。変則勤務の負担は、正職員も非常勤も同じである。
これらの要求は、以前、図書館分会の要求に繰り込んで頂いた中で、区側から「検討すべき課題と考える。」との返答があったものである。当面の交渉は、先ずは手堅く実現の可能性が高いと思われるところから取り組んで行きたい。
それぞれの事情は多様でも、自ら希望した図書館勤務を精一杯続けてゆきたい。そこで得たものを、利用者へのサービスに還元したい。単純にそう願って図書館協力員になったものの、法律や規則による規制や、行革による粛正など、予期せぬ壁に直面することとなった。図書館の仕事は、知識と経験を必要とする包括的な業務である。行政側にもその辺を十分理解して頂き、利用者に対する本当に良い図書館サービスとは何かを、考えて頂きたいと思う。そして協力員たちが、より良い環境で十分な力を発揮して、働き続けることが出来るようにして頂きたいと願っている。練馬区立図書館協力員組合は、そのために結成され、今活動を始めたばかりである。
練馬区における協力員の労働条件
最後に、練馬区の図書館協力員の労働条件について、述べることにしたい。南大泉図書館が開館した頃は、まだ協力員のための明確な、文書による就業規則は無かったと思う。
今は「練馬区非常勤職員(図書館協力員)とは」という文書が配付されるようになり、漸く協力員たちも、自分たちの身分や任用規則について知ることが出来るようになった。
この文書の内容は、
(1)根拠規定
(2)身分
(3)任用
(4)任期
(5)勤務日数および勤務日
(6)年次有給休暇
(7)報酬
(8)交通費
(9)旅費
(10)服務規程
の10項目で、その他の事項及び詳細は「非常勤職員取扱要綱」を参照するようにと付記されている。(但し、この要綱が協力員に配付された館は1館のみである。)
この中から、いくつかの項目について述べてみたいと思う。
先ず、図書館協力員の年次有給休暇についてであるが、再任の年数に従って、年休の支給日数が増えていくシステムになっている。初年度は10日、以後1年毎に11年目まで1日づつ増えてゆくが、11年目に年休日数20日になるのを上限としてそれ以上の増加はない。また、平成7年度より、残り日数の翌年繰越が可能(但し、前年度分のみ)となった。
また年次有給休暇とは別に、有給による夏期厚生休暇(平成9年度は3日)も支給されている。
次に報酬であるが、平成10年4月現在、図書館協力員の報酬月額は、一律で19万1000円である。例年10月に、区議会において条例の改正があり、それに伴って報奨額も改定されるため、差額分(前回は2千円/月)が、その年度の4月に遡って支給される。しかし、何年勤めても昇給は無く、経験給や資格給などが付加されることも無い。また、一時金や退職金の支給も皆無であることは、前述のとおりである。
交通費は、規定の要綱に基づいて支給される。
旅費は、公務のため出張した場合は支給される。つまり、区内の他図書館での分科会や研修会・講習会、および東公図(=東京都公立図書館長協議会)の研修などに加え、健康診断のための出張も認められている。
上記の項目には含まれていないが、協力員の雇用に関する規則には、他に以下のようなものがある。
(1)社会保険(健康保険、厚生年金、雇用保険)等への加入・適用。
(2)定期健康診断は正規職員に準じて実施する。
(3)職員証の交付(但し、初年度に交付されたのみ)。
この原稿を書いている間に、光が丘図書館の新館長との交渉が始まり、要求の1つである「年休の時間単位による取得」が認められる見通しがついた。しかし、慶弔休や、変則勤務手当についての要求は認められず、再任についても現行の「再任することが出来る。」という文言は変えられないという返答であった。
また、組合員の1人(他館)が秋に出産予定であることが判明し、急遽追加の要求を提出することになった。内容は「産前・産後に関する事項」として、(1)産前・産後休暇を有給化すること (2)産前・産後休暇の取得にあたっては臨時代替職員を配置することの2件。および「その他、正職員と同等の妊産婦への権利を保障すること。」である。
現在、図書館協力員組合では、職場の実態調査アンケートを実施するため、準備をすすめている。協力員の本音をきめ細かく吸い上げて大きな声に纏め、各館間の処遇の差を無くすためや、各館の協力員が共通した意識を持てるようにするため、また今後の交渉の資料としても、アンケートの結果を大いに役立てていきたいと思っている。
|