第14回セミナー
「カラーマネージメントの謎を解明する」
報告集



はじめに



■柴田 今日のスピーカーの笠井享さんには、実は一昨年の2月に既に第2回のセミナー「DTPにおけるデジタル画像の扱い」を担当いただきました。その時は笠井さんの主張する、というか確信を持っていらっしゃる標準化について、それから一方、会場におられた鈴木一誌さんのほうはマージナルという世界観をもって、かなりシビアな論争が行われました。運営側としては非常にスリリングな思いをして、じつは大変楽しめました。そして今回は「カラーマネージメントの謎」ということで、これから約3時間から4時間、びっしりとお勉強になりますので、多分、暗くなったら眠くなると思いますけれども、ぜひ我慢して聞いてください。

■笠井 (省略)いま私自身がいちばん取り組んでいるのは、今日、お話ししますカラーマネージメント関連ですが、このへんも最初はとにかく自分のモニタの色を合わせるのに非常にマニアックになりましてやってきたというだけでありまして、これを本を書いたりあるいは人に教えたりすることではビジネスにはしておりません。ただ、長いことやってますものですから、いろんな知識が蓄積されたのと、設備もそれ方面の測定器とかいろんな種類のモニタとかをかなり使ってきたということもありまして、今よくこの関係のコンサルタントや相談を受けてそれをお話したり出向いていってやり方を教えるというようなことはやっております。

 そのへんが私と私の会社のイントロでして、今から今日の本論の「カラーマネージメントの謎」ということで、特に最近、急速にバージョンアップされておりますApple Macintosh OSに組み込まれているColorSync、これの仕組みを解き明かしまして、では具体的にどうしていくんだというお話をしたいと思います。

 プレゼンテーションとなりますとよくほかの方はパワーポイントとかディレクターとかを使うんですけども、今、画面に出ておりますようにPhotoshopを使ってのプレゼンテーションをさせていただきます。これはなかなかすぐれたもので、レイヤーにいろんな画面を用意しておりまして、それをいじくりながらやるという点がなかなかのものです。それからもう一つの利点は、その場で書き込みができるというわけで、実際にこうやって書いていくというようなこともやりながらの話をしたいと思います。

(「理論編」として「色を合わせる共通の数値」についての解説→略)
(Photoshop5.0の中でどんなふうにカラーマネージメントが行われているかという実践は、実際にオペレーションをしながら話となる。→略)

ColorSyncとは何なのか

■笠井 ColorSyncそのものをお話ししようとしますと非常に長い時間がかかるので、後ほどもし時間があればColorSyncの実体はどこにあるとか、どんな働きをしているかお話をしますが、まずいちばん最初に覚えておいていただきたいのが、ColorSyncには必ずデバイスプロファイル、通常、単にプロファイルと呼んでいますが、デバイスプロファイルと呼ばれるファイルですね、いわゆる情報が必要になります。プロファイルは別名よくプロフィールとも言いますけれども、色を表現するあらゆる装置、デバイスですね、スキャナとかプリンタとかモニタとか、そういったものがある色、絶対色としてのLabの色をどんなふうに、どんな数字で扱っているかというのを記述しているものです。

 例えばここに原稿があります。スキャナで入力する前に原稿の色を色彩測定器で測定しておきLabの値を求めておきます。それをスキャナで取り込んだ。そしたらスキャナはRGBのデータ、要するにカラーをRGB数量に置き換えたファイルとしてつくってくれるわけです。つまりスキャナのプロファイルは、このスキャナでスキャンしたら、現物を測定したLabの値はスキャン後にRGB値としてはどうなったかということの対応をとっているんですね。例えばあるLab値、たとえばL=60/a=90/b=75、これは真っ赤です。その赤のLab値がスキャン後にはRが250で、G=15、B=35になるのだというようなことがわかっていること、そういう換算表ようなものです。でもほかのスキャナではそうなるとは限らない。同じ原稿のLabの値でもRが250にならずに195になって、Gが20になるというようなこともあるわけですけれども、一個一個のスキャナのそのLabとできあがったRGBの値の対応を記述したものがスキャナのプロファイルです。

 同様に、モニタの場合はこの逆ですね。このモニタでRGBのデータを表示した。R=255、G=0、B=0のデータを表示したら、そのブラウン管、つまりモニタのガラスの面から出てくる色、これを実際の測定器で測ったら、LabもしくはXYZの値でどんな値になって見えているかということを記述しています。

 それからオフセット印刷物の場合もそうです。印刷会社というのを大きなプリンタととらえまして、印刷会社にCMYKのデータを渡した。印刷した。そしたら印刷結果がある。そうすると、CMYKという四つの数字で表した網点%の数字が、結果としてLabでどんな色になったかということを記述しているのがオフセット印刷物のプロファイルです。

 あと、プルーフプリンタといいますかカラープリンタも同じですね。カラープリンタには二種類あって、CMYKのデータを送って出力するPostScriptプリンタと、RGBのデータを送って出力するQuickDraw系のプリンタがあるわけですが、それによって違いますけども、そのプリンタでRGBのデータ、またはCMYKのプリンタをプリントした。その紙の上に出てきた色は、測定したLabはどんな色になったかということを記述したのがプリンタのプロファイルというわけです。
 このように入力と出力の装置のプロファイルが二つあれば、つまり、例えばモニタのプロファイルとプリンタのプロファイルがあれば、色を合わせる、いわゆるカラーマッチングができるじゃないかというわけです。つまり、モニタのプロファイルとプリンタのプロファイルを使えば、モニタから出ている絶対色のLabの値はこんな色で出ている。プルーフプリンタで出したら、Labがこうなった。これだけの差があるから、じゃあ実際のRGBのデータのグリーンだけをちょっと増やそうとか減らそうということはコンピュータは得意です。要するに絶対値を管理さえすればRGBとCMYK、あるいはRGBとR'G'B'の色を、それをちょっと内部的に変えてあげることでカラーマッチングができるじゃないかというのがこのプロファイルの役割です。

 プロファイルにはある呼び方があります。ここがいちばん大切でして、この関係さえしっかり把握していただければ、カラーマネージメントシステムというのはそんなに難しいことではないです。たった二つの呼び方です。一つは「ソースプロファイル」といいます。もう一つは「ターゲットプロファイル」といいます。「ソース」と「ターゲット」、この言葉をしっかりと理解していただきたいと思います。メーカーによっては、この「ソース」と「ターゲット」を、「ソース」のほうが「入力プロファイル」で、「ターゲット」のほうが「出力プロファイル」というような呼び方をしたり、「インプットプロファイル」「アウトプットプロファイル」と呼んだり、あるいは「ソースプロファイル」と「アウトプットプロファイル」というふうに組み合わせた呼び方をしたりいろんな呼び方がありますが、要は「入口」と「出口」の関係、「ソース」と「ターゲット」のプロファイルというこの二つの関係を理解してください。
 この「ソースプロファイル」と「ターゲットプロファイル」の関係、これを確実に把握しておけば、これからお話しするいろんなことが理解できると思います。

(省略)

■笠井 次が、もう一つ理解していてほしいことがあるのですが、現在のコンピュータに搭載されているカラーマネージメントシステム、ここは言葉が適切ではなくて、カラーマネージメントではなくてカラーマネージメント「システム」、CMSと言います。これが、大きく分けまして二つあります。

 一つは、このアプリケーション側のカラーマネージメントシステム、名付けて「アプリケーション側カラーマネージメントシステム」です。この言葉は私が勝手につくったのでそういうふうに呼んでいるメーカーはありません。もう一つは、「プリンタ側カラーマネージメントシステム」、あるいは「RIP側カラーマネージメントシステム」と呼んでもいいと思いますが、この二つがあります。

 要は先ほどのこの一つ前の図、この図式を覚えておいてください。ソースとターゲットのプロファイルが出口と入口にありまして、データがいったんそれを参照してLabに改変されて、もう一回、出口のプロファイルを参照してもう一つの出力用のデータに改変されるというこういう構造、これをどっち側でやるかなんです。

 アプリケーションソフトがありまして、ソースプロファイルがアプリケーションソフト、PhotoshopとかQuarkとかそういう中で呼び込まれてまして、これはもちろん実際はアプリケーション+OSなんですけども、そこの中で元のデータ、Quarkに貼り付けたCMYK TIFFとか、Quarkの中で色指定した文字などの色の値がLabに換算されまして、ターゲットプロファイルを参照してプリンタ専用のまったく別の数値データとして送り出されるという仕組みを持ったものを「アプリケーション側カラーマネージメント」といいます。

 それからもう一つの「プリンタ側のカラーマネージメント」は、アプリケーションソフトは何もしない。単に元データをプリンタに垂れ流すだけです。でもプリンタドライバーもしくはリップの中で、やってきたデータのソースプロファイルを参照してLabに直して、ターゲットプロファイルを参照してプリンタ専用のデータにするというものです。

 こういう二つのカラーマネージメントシステムのやり方がありまして、よく混乱するのが、両方を使って色が合わない、おかしくなっちゃったとか、それからソースプロファイルとターゲットプロファイルの設定を逆にしちゃって色がおかしくなったということがたびたび起こります。ですからこういう二つの仕組みがあるよということを覚えていてください。

カラー
マネージ
メント
実践編

●PhotoShop
 の場合

■笠井 あるCGアーティストさんから、いつもRGBでデータをつくり、それをフィルム出しをしてから入力をするから非常に立派な印刷がされていたのだけど、最近、とみに印刷側からCMYKデータで納品してくれと要求されている。自分でCMYKに変換して出すとどうもうまくいかないというお話を聞きました。これは非常に日常茶飯事に皆さんも体験されていることで、なぜかというと、ここが「デフォルト」のままとか、あるいは印刷会社で何か自分で、Photoshopが与えられたこの選択肢のままだと印刷会社の実際の現実的な印刷の条件に一致していないからうまくかないというのが大半ですね。では、じゃあ具体的にどうしたらいいのかというのを聞かれると非常に困るんですね。オフセット印刷というのは非常に印刷条件に幅がありまして、どれだというのは特定できません。ただ、過去いろいろやってきた中の経験で言いますと、「東洋インキのコート紙」あたりを選んでいただいて、ドットゲインは「20±3」ぐらい、マイナス側にはちょっと多いのですが、15から23ぐらいでだいたいいい値になります。私はちょっとドットゲインを大きい数字、23ぐらいを使ってますけれども、それがいいかと思います。

 それから色分解オプション、このへんもいろんな設定の仕方があって、私はいろんな理由から「GCR」というラジオボタンを「オン」にして「墨版生成」というのを「軟調」を選んで、「墨インキの制限」を「95」にして、「総インキの使用量」を「330」にする。実際は印刷会社さんに応じて多少、変えたりしますけれども、このへんでそんなに失敗のないそこそこの印刷結果になるのが普通の標準的な印刷と呼ばれるものではないかと思っております。
(「カラーマネージメント応用編・特色CMS」→略)
事前質問に
回答する
■笠井 一人目の方質問は、「初歩的な質問ですみません。Photoshop5.0.2で選択範囲の境界線を1ミリの幅にしたい場合、何ピクセルにしたらいいですか。画像解像度が350dpiです」というものです。要はPhotoshop上で1ミリ幅の罫線を引きたいが、何ピクセルにすればいいのかということですね。

 それから二人目の質問というか意見ですが、「現実的にはモニタそのもののハードウエア的な精度が問題になる。私はソニーのGDM2000TCの愛用者ですが、もうこの機種は生産中止になっているとのこと。例えばソニーのCPD20Fクラスのモニタではなかなか色が合わない。今、カラーマネージメントの標準モニタとして使えるものとしてどの機種が挙げられますか」。また2番目の質問は「写真家の早川広行さんの著書の中で、自然画像のRGBからCMYK変換はPhotoshop5.0の内蔵エンジンを使用するのが最もよいと述べられていますが、笠井さんはどのような見解をお持ちか」ということです。

 三人目の質問は「色の問題っていつもつきまとうんですけど、なにかと困っている。印刷物とプリンタの色が違うとかWebページではMacとWindowsで見えが違うとか、ColorSyncはいまいち使えない。本当に実用的な扱い方の事例を見せてほしいと思っています」。このへんは今までのデモで、実用的な使い方を見せたつもりなんですが、いかがでしょうか。

 まず最初の罫線1ミリ幅というのは、要は画像解像度と関連するわけですね。要するに1ピクセルが何ミリにあたるかというのを計算すればいいんですよね。ですから、350dpiというのは1インチの中に何ピクセルあるかを記述しているわけです。25.4ミリの中に350個のピクセルが並んでいるんですから、簡単なわり算、25.4÷350=一個のピクセルの直径が出てきます。0.0726ミリです。そうすると、1ミリをつくるには0.0726ミリのピクセルを何個並べたらいいか、約14個並べればいい。これは逆の計算をしてもいいですね。350÷25.4=13.77ピクセル=14ピクセル、ダイレクトにこれが出てきます。

 逆に、これは1ミリあたりの画像解像度でもいいんですね。単位がピクセル/インチではなくて、ピクセル/ミリ。ヨーロッパではこの数値を実際に使っています。私もこれが便利だと思います。なぜかというと、代表的な画像解像度、72、150、300、350、400dpi、これを頭の中に入れたら、3、6、12、14、16という覚えやすい数字になるんです。3から倍の6になる。その次、またその倍の12になる。あとは2ずつ増える。12、14、16と増える。だから解像度はミリあたりで覚えると結構、覚えやすいし、罫線を指定する時なんかに楽ですよね。

 ああ、わたしは350dpiを使っているけど1ミリは14個かと、そしたら14ピクセルという数値を指定してあげれば1ミリの罫線が引けるということになります。

 それでは次の質問で、まず「カラーマネージメントの標準モニタとして使える機種はどんなのがあるか」ということなんですが、私もちょっと製品知識という意味ではあまり持ちあわせていませんが、池上製の非常に高級なモニタ、100数十万とか200万とか、そういうのでちゃんと標準モニタというのはあるそうです。ただ現実にはそれを我々、生産現場とかデザインのスタジオに置くわけにはまいりませんので、私は思うに最近のフラット管ディスプレイでトリニトロン管を使っているモニタだったら比較的いいんじゃないかなと。多少、色のムラがあります。ソニーのGDM2000TCなんかは非常にムラの少ない安定したモデルで、もう生産中止になりましたが、それは色のムラがなかったんですけど、それ以外のものはちょっと色ムラがあります。しかし、最近のトリニトロン管であれば僕は問題ないかなと思います。

 色のムラを気にするという方は、できれば小さいサイズのモニタですね、20インチディスプレイよりもやはり17インチディスプレイのほうがいいいですね。やはり小さなサイズのディスプレイは白さをかなり輝度を上げられますので、いろんな調整の幅が増えます。標準モニタはどれがいいかということについては、それくらいしかお答えはできません。

 それからもう一つは早川広行さんが著書の中でRGB、CMYK変換はPhotoshop内蔵エンジンを使用するのが最もよいと述べられたが本当か?と言う点ですが、私もそう思います。ただ、「内蔵エンジン」というので「カラー設定」の「CMYK設定」で呼び出した時の、この「内蔵」チェックボックスを「オン」にしたことかという誤解をよく受けるのですが、そういう意味ではないんですね。この内蔵した時のこれももちろん内蔵エンジン、Photoshopのプログラムそのものの中に組み込まれている色を変換するプログラムが働いていますので内蔵エンジンの一部ですけども、もう一つはICCを「オン」にした時に、ここの「変換方式:」ポップアップで選べるんですね。「内蔵」と「Apple ClolorSync」とか「AGFA」とか「HEIDELBERG」とか「Kodac KCMS」とか選べる。これと比べて内蔵がどうだという比較をした時の話です。この場合は「内蔵」が確かにいいです。

 特に、例えばグラデーションでシアン20%ぐらいから60%ぐらい、あまり変化の幅がないグラデーションがあったとします。そういうものをRGBのデータでつくっておいてCMYKに変換した時のトーンバウンディングの出方とか、そういうものがこちらのColorSyncとかOSの機能拡張に組み込まれているほうの色変換エンジンよりもすぐれています。ただしその差は、先ほどもちょっとお話ししましたが非常に少なくて、ディスプレイで子細に見ないとわからない、印刷したらほとんどわからないというような差しか私のほうでは把握していません。

 ただし、Windowsユーザーの方はここは「内蔵」以外は実質、選びようがないというか、私もちょっとWindowsを正しくセットしてPhotoshopを使っていないのでよく知らないのですが、もしWindowsのPhotoshopで変換方式でここに「ICM2.0」というのが出てきている、あるいは「kodac KCMS」というのが出てきているようでしたら、それを使うのはお勧めできません。「内蔵」だけを使ってください。理由はやはりWindows側のOS側に組み込まれているカラーマッチングというのはまだちょっと発展途上といいますか、Windows98でも不可解な動きをする時があるという報告をとある技術系のエンジニアさんから聞いておりまして、私のほうではそこまでちょっと確認できていないのですが、変換方式に「内蔵」を選んでいただくというほうがいいと思います。

 それから、三番目の質問の「実用的な使い方の事例」ということは、今までお話ししたのがそれに相当すると思います。ただしWebのホームページを見ている時にMACとWindowsで見え方が違う、これについてはどっちかをどっちかに合わせるしか今のところないですよね。ですから、MACのモニタをWindowsに合わせたければ、コントロールパネルの「Adobeガンマ」という、Photoshopをインストールした方は必ずこれが入りますし、あるいはColorSyncの、私のこのパワーブックにはインストールしてませんが、「モニタ&サウンド」というのを選びますと、ColorSync2.5以降のプログラムを入れている方の場合は、ここに「カラー」というのが出てまいりまして、それをを選ぶと、本当はここにモニタを調整するボタンが出てきます。そしてこのボタンを操作するとモニタのガンマや色温度などをウイザード形式で設定していくダイアログが現れます。「モニタ&サウンド」を使うか、もしくは「Adobeガンマ」のどちらか一方を使います。片方は必ずシステムホルダーからはずしておいてください。

私はAdobeガンマを使っています。この「Adobeガンマ」では「ガンマ」欄を、Macintoshの初期設定値である1.8にします。そしてよくご存じのスライダー調整で、パターンが見えなくなるように調整しておきます。その他の設定も、「色温度:調整後」の欄は5500Kを選びます。この欄は、9300〜5000Kまでいくつか選択肢がありますが、いくつかの理由から5500Kを選ぶことをお進めしています。もちろんそのためには、実際にモニタに表示される白の色温度を5500Kにしないといけないのですが、もっとも簡単にそれを行うには、モニタハードの設定を工場出荷時にリセットして、まず9300Kの真っ青の白を表示させておき、「色温度:ハードウエア」欄を9300Kにします。すると、Adobeガンマプログラムは「あぁユーザのモニタの本当の色温度は9300Kで、ユーザが欲している値は5500Kなのだな」と解釈して、5500Kになるように調整してくれます。モニタは経時変化で色温度が変化していきますから、長い間使った古いモニタではちょっと問題ですが、1〜2年、大切に使っているモニタならこの方法でそこそこ5500Kが得られます。

RGB「色度座標」のポップアップでは、ソニートリニトロンを選択しましょう。ダイアモンドトロンというブラウン管を使っている方もソニートリニトロンでOKです。この両者は親戚みたいなものです。ナナオのモニタもブラウン管はソニー製か三菱製ですからソニートリニトロンです。

 最近、Webのコンテンツなどの制作で、Macintoshで画像を作るんだけれどもWinで見るとどうも「こってり」しすぎるというような話が聞かれます。その理由は、Macintoshのモニタのガンマが1.8、つまり「あっさり」表示でして、それを見ながらいい状態に画像を作り、Winで表示させるとWin側は「こってり」表示だから、画像がみんな濃すぎるわけです。

このような場合は、Adobeガンマのガンマ欄を2.2にして作業をすればいいわけですね。つまり、Macintosh側がWindowsに合わせたことになります。しかもsRGBというのがWindowsの標準になっていますので、もしそれをやりたければ、RGB色度座標にHDTVというのがありますので、それを選びます。

そして「色温度:調整後」は、これは各Windowsユーザーが白色点をいくらにしているのかわからないので、だいたい6500でしょうか、それにしてみるということでかなり一致します。これは実際に私は幾度かやったことがありますけれども、それでピッタシ一致はしませんが、ぱっと見た目にはかなり近い感じになります。ですから今、ちょうど投影スクリーンで見ているのはWindows的カラーですよね。非常にガンマが高い鮮やか、キンキンキラキラの状態というか、そういう状態で見えるようになります。

 それから、最近の新しいマシンですね、例えばソニーのバイオを私は持っていますが、そのへんですと「コントロールパネル」の「画面」というところでガンマを調整できるようになっていますから、それを「1.8」にすれば逆にWindows側がMAC側に合わせてくれるというようになります。ただ、抜本的にそれでは、じゃあ全世界に何千万人というWindowsユーザー達が同じことをやってくれるかというとそれはできません。どなたかWeb関係に詳しい方がいたら後でフォローをお願いしたいのですが、多分、次のバージョンのネットスケープとか、そういうWebブラウザーではColorSyncとかに対応するようになっているのだと思います。ちょうどさっきIllustratorで説明したように、環境設定かどこかでプロファイルを選ぶ。そうすると制作者、そのWebをつくった人のプロファイルが送られてきて、制作者が見ている色を自分のモニタで見るということができるようになるというふうに聞いています。そこまで行くとようやく世界中でみんな同じWebのカラーを見るという時代が訪れるのかなと、そういうふうに思います。

Q&A
会場との
質疑応答

■吉井宏 イラストレーターの吉井です。今までひっかかっていたことが二つほどあって、それについてお聞きしたいんですけれども。まず、僕がカラーマッチする必要性というのは、Painter上で絵を書いてそれをPhotoshop上に持っていき、CMYK変換をして、それを納めれば僕の仕事はそれで終わりなんですが、どこに合わせるかといえばやはり印刷シミュレーション、これを僕はエプソンPM5000Cとソフトリッパーを使ってやっているわけです。このへんについては笠井さんの著書のほうにも書いてあったのを読みました。

 そこで、僕のような立場でやっている者が、自分のプリンタで一応シミュレーションして印刷して、この色でいいなということを納得した上でCMYK変換したものを編集者なりデザイナーなりに渡しているわけですが、僕としてはこれでもう完結しちゃっていいんでしょうかというのがずっとひっかかっていたことなんですけども、それはいかがでしょうか。(以下略)

■笠井 イラストレーターさん、いわゆるクリエーター、アーティストの方々というのはだいたいRGBをベースにものをつくるという時代になってますよね。本来は、創作者側の筋論から言うと、創作者が手元に持ち得ない印刷装置群によって色が変化するCMYKではなく、手元にある表色装置で色に責任が持てるRGBでデータを納めるべきだと思います。

ただ、今までは自分のモニタの設定を伝える方法というのはなかったわけですよね。「自分のモニタでこの色に見たんだから、そのモニタどおりに色を上げろ」と、かつて「ポジを原稿どおり」にと言ってたように、データの入ったMOにポストイットを貼って「モニタどおり」なんて指定を入れても、絶対にその色には上がってこない。

 でも、その「モニタどおり」という指定をポストイットで貼り付けるのと同じように、画像ファイルの中に自分のモニタのソースプロファイルを組み込むことができるようになっているので、それをうまく利用していただこうよという運動を「日本語の文字と組版を考える会」とかJPC、あるいは「ディジタル・イメージ」、あるいは僕とかがして、そして育てていくということが大事ではないかな、というのが筋論のお話です。

 では現実にクリエイターが意思決定をした時のモニタの表色特性を記述したソースプロファイルを渡して、受け取った印刷会社とか製版会社さんでは、今度は出力側のプロファイル、自分の会社で印刷する印刷インキのプロファイルをターゲットプロファイルとして使って、モニタ表色に合わせてCMYK変換してくれるかというと、こちらもすごく難しい問題があるなというのを、私がこの会で2年前にしゃべったのですが、これには未だに限界を感じています。
 ある印刷会社さんに言わせると、「プロファイルはまったく無意味ですよ」と。なぜ無意味かというと、それは印刷というのはその時々の印刷の周辺の環境ですね、例えば湿度とか温度とか紙の種類とか、それから1枚の大きな四六判とか菊全の判子の上にのっているカラー画像の位置、インキを吸い取っていく面積=版面の面積率というのがあるのですがそういったもの、そういう総合的なものを最終的に印刷会社の印刷機をオペレーションする方が判断して色を調整するから、何月何日何時何分に2,000枚カラーチャートを刷ってそれの1,200枚目を抜き取って測定・演算した結果のプロファイルというのが仮にあっても、常に変化しているものに対応できないというご意見でした。

 僕は、それは現実にはあると思います。けれども、一方でそれを一生懸命、排除して、常にその何月何日に印刷した結果と同じにしようと努力している印刷会社も僕は知っています。努力しているだけではなくて、現実にそれができている印刷会社もあります。

 ただ、それが最高の印刷かというと、そうではないケースが多いです。70点、80点ぐらい。例えば、ある非常に高度な印刷技術を持っている印刷会社さんが刷った印刷結果に比べると、細かくルーペで見ると点のつぶれが悪いとか、ライト側の網点が2%まで飛んでいるとか、残るべき98%の点がベタになっているとか、そういういろんな欠点は見受けられるのですが、でも自分がつくったプロファイルの印刷条件と合わせてコンスタントに印刷することをやっている会社がある。そういう方々に対してクリエーターさんがデータを出す時は、僕はRGBでいいだろうと思います。

 ではその前者の方、「現実には難しいよ」と言われる方々にデータを出す時はやっぱり、「じゃあ、そちらでその時々に合わせたCMYKデータをどうするのかを指導してください」とか、あるいは「ちゃんと本機校正を入れて、校正に私が直しを入れますから直してください」という従来のやり方をとるしか僕は現実にないんじゃないかと思います。

 その点について、2年前もこの場で非常に大きな議論になったんですけど、本来は何らかの標準を定めて、よりどころをつくって、それに向かってみんなが合わせていかなければいけないのに、どういうわけか印刷会社さんのほうでそれが「現実にできない」というひとくくりの言葉で、やっていない。それはもうどうしようもない現実だなと思います。過激なことを言いますと、そういう会社さんにもうデータを出すのはやめようよという運動をしてもいいぐらいじゃないかなと。

 それからもう一つ、製版会社さんの立場はちょっと微妙ですね。というのは、製版会社さんは複数の印刷会社さんとお付き合いしているわけです。対応する本機印刷機もものすごくたくさんある。じゃあ、平台のインキ校正に合わせてプロファイルをつくっていいかというと、これはもう絶対にやってほしくない。なぜかというと、平台のインキ校正ほど不安定な印刷装置というのはないと思うんです。私はもと平台のインキ校正を売っているメーカーにいたわけで、だからよけい知ってますけれども、5枚刷ったら5枚とも違う。これで当たり前だという世界です。一生懸命、合わせても、つくったプロファイルとまったく同じ状態を保つというために多大な努力をはらわなければならない。そういう平台のインキ校正のプロファイルをつくるのはおよしになっていただいて、むしろ欧米では非常に進んでいるやり方ですが、3Mのマッチプリント、あるいは富士のカラーアートというああいうケミカルプルーフですね、あちらのほうがはるかに安定しています。そういうものに合わせたプロファイルをつくって、そのプロファイルをターゲットプロファイルにして変換する。

 じゃあ、実際に印刷できるのかというと、僕はできると思います。多少のパラメーターとか印刷手法の変更はあるのですが、そのマッチプリントの結果を見ながら、あるいはデータを参照しながら本機を調整して印刷をするということはできると思います。

 それから、ある大手印刷会社で色彩を勉強している方々のご意見では、さらに安定しているのは高級なDDCPだということです。
DDCPをとにかく最後のターゲットのよりどころとして、それでターゲットプロファイルをつくる。本機の印刷をやっている方々は、そのDDCPの結果に合うように本機の印刷機を調整する。そういうやり方をやるべきだと言う方もおられました。非常に抽象的な回答なんですけども、結局はそのいちばん最後の印刷会社という大きなプリンタですね、巨大なプリンタの中身をいかに安定させてくれるかということが、きちんと業界全体の運動としてやるか、何か強いリーダーシップを持った方が引っ張るかしない限り、いま吉井さんがおっしゃった現実というのは避けられないのではないかなと思います。

■柴田 吉井さんのように、大日本印刷でやるから自分なりの設定が可能という恵まれた方はまた珍しいと思うんですよね。ほとんどのイラストレーターさんはどこの印刷会社を選ぶということはまずできないわけです、出版社が選ぶわけですから。
 私も実は『デジタルイメージギャラリー』という、作家150人、作品300点ぐらいの作品集をつくったのですが、毎回、印刷結果に必ず不満が起きるわけです。「自分の希望した色と違う」と言われます。となると、作家さん達はどこで印刷するかもわからないわけですから、いちばん安全な入稿の方法というものを、また自分の希望する色を出したいという場合はどうしたらいいのでしょう。

■笠井 本当に難しいね(笑)。もし正しく調整されているモニタを使ってやっているんだったら、先ほどちょっとお見せしましたけれども、この設定でうまくいくはずですという話をしましたね。標準的な印刷会社さんの場合は、だいたいこれでいくんですよね。自分のRGBモニタで「よし」と判断した色をCMYKに変える時、Photoshop5.0ですよ、Photoshop4.0は違います。ドットゲインを15から23、明るめにしたい方はドットゲインの値を大きい値にするという逆の考えを持ってください。23にしたら印刷結果は明るく上がります。15にしたら印刷結果はちょっと濃くなります。ドットゲインを15から23、よくわからなかったら20からスタートする。それでGCRのラジオボタンを「オン」にして、墨版生成を「軟調」にして、墨インキの制限を「95」、インキの総使用量を「330」、このへんでコート紙に印刷してうまくいくのが標準です。標準ですと言うと、こう言うと「おまえは標準と何と考えとるか!」と言われそうですが、「私の標準」です。いろいろ経験したらこのへんで皆さん、だいたい落ち着くというものです。これから大幅に離れている場合も幾度もありますけど、そういう印刷会社さんの場合、やっぱり印刷会社さんがCMYK変換をしてくれるか、プロファイルをくれないとどうしようもないというのが一つです。
 それから、よくクリエーターが自分が思っている色と違うという色は、こういう色のことがあるんです。RGBで色をつくる時に、印刷では絶対に出ない色があります。要するに印刷インキが出せる鮮やさ(=彩度)の限界を超えた鮮やかな色、そういう色を使いながら、もしRGBデータをつくっている方がいらしたら、もうお手上げですね。
 その場合は、データをつくっていらっしゃる方はぜひともビューメニューに「色域警告」というのがありますので、これで確かめてみてください。例えば、スキャナーで取り込んだRGB画像にはRGB値がR=10/G=248/B=251などという鮮やかなシアン色がありますね。このへんのシアンとかは多分、オフセット印刷では出ない色なんですが、ビューメニューの「色域警告」というのを選ぶと、出ない色のところが、こういうふうに変化してくれます。もしくはこれをやめて、RGBで創作する時に常に「ビュー」メニューの「プレビュー」で「CMYK」というのを選んでいただくんですね。これは今、RGB画像を見ているんですけれども、「プレビュー」で「CMYK」が「オン」になっているから、CMYKに変換した状態が見えているんですよね。この状態でRGBで仕事をしていただく。そうすると、出ない色は最初からもう出る色に無理やりに納めこめられていますから、そのデータを送って、自分で確認していたモニタの色とだいたい近いなという納得はしていただけるのではないかと思います。とにかく出ない色を使うというのは、ない袖は振れないという物理的な悩みであるわけです。
 それから逆変換をする方もいらっしゃると思います。CMYKをRGBに変換する。この時に、やっぱりロスしていく色があります。例えば金赤の色というのはRGBのほうがちょっと金赤の度合い、鮮やかさの度合い(=彩度)が低いとか、そういうことがあります。
 その時は、最近、Photoshop5.02になってから変わってますけれども、「ファイル」メニューの「RGB設定」の一番上のポップアップメニュー、通常ここは今までは「Apple RGB」を推奨とか「sRGB」を推奨ということになっていましたが、Photoshop5.0.2から「AdobeRGB」というのになりました。
CMYKをAdobeRGBに変換しますと、CMYKで出せていた色でRGBに変換した時にロスしてしまう色がロスしなくなりました(モニタ表示では今までと変化はないのですが、数値としてはロスが抑制されます)。そのへんがこのAdobeRGBのよさですね。私はこのままだとあまり好きではないので、ガンマを「1.8」に変えて、白色点を「5500」に変えて、それを別名「Kasai_Wide_Gamut_RGB」と呼んでいますけど、それを全部、自分のRGBソースプロファイルとして定義して人に渡したりしています。いずれにしてもここでAdobeRGBを選ぶと、逆変換の時にカラーロスが少なくなっています。いかがでしょうか。

■柴田 そうしますと、作家としては、先ほどの数値をもって自分でCMYKに変換して入稿せよということですか。

■笠井 そうです。今、言ったように、さっきの画面でお見せしたこの数値というのはかなり平均的なので頼りにしてもらっていいと思いますので、これで変換して印刷をしてもらってうまくいかないようであれば、それは印刷会社さんにもう一回、調整をし直してもらう。だいたいこのへんに標準があります。それしか言いようがないです。

■柴田 なるほど。今度は編集者の立場からして、300点もある作品集をつくった場合、何をもって色校正をするか。原稿がないわけですから、実はほとんど見ていないというか、ええ加減なんですけど、どうしたらいいんでしょう。文字原稿のような対照するものがないわけですから、本当にこれが正しい色かどうかというのはわからないんです。

■笠井 例えば、これは提案ですけど、ディジタル・イメージのグループの皆さんがみんな同じソースプロファイルを使ったらいかがでしょうか。例えば今のAdobeRGB、みんなそこはそれにセットしておこうよと、それからモニタの調整はみんな同じ仕方でしようよと。メーカーが違っても調整の仕方さえ揃えておけば、そんなさほそ大きくはずれませんから、そういう申し合わせをグループの中でしておけば、うまくいくと思いますよ。
(この後の質疑応答→省略)

 
(14回セミナーまとめ●太田温乃)


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