.book(ドットブック)版 【電子書籍版】魔淫の迷宮 日本のエロティック・アート作家たち

発行:ポット出版
相馬 俊樹 著
希望小売価格:933円 + 税 (この商品は非再販商品です)
ISBN978-4-7808-5076-5 C0070
電子書籍
[2012年02月刊行]

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内容紹介

快美の陶酔をもたらすエロティック・アーティスト19人を豊富な図版とともに紹介。
絵画、写真、オブジェ、人形——様々な表見手段でエロティシズムを追求する作家たち。
気鋭の美術評論家が誘うエロティック・アートの深い闇。
収録作家●山本タカト/甲 秀樹/中村 趫/空山 基/佳嶋/井桁裕子/桑原弘明/上田風子/谷神健二/龍口経太/村田兼一/たま/長谷川友美/根橋洋一/町野好昭/秋吉巒/林良文/徳野雅仁/小妻容子

目次

はじめに

●第一章 闇のスタイリストたち
メランコリアの悲鳴——山本タカト
少年愛の郷愁とデカダンス——甲秀樹
メランコリアの園——中村趫
官能的機械美の誘惑——空山基
「いびつ」が孕むパルファム——佳嶋
魂を呼ぶ人形の空虚——井桁裕子
スコプトフィリアの純化——桑原弘明

●第二章 異界に遊ぶ少女たち
少女が醸す暗示的エロス——上田風子
郷愁に溶けこむエロスの狂気——谷神健二
舞い狂う少女の黒髪——龍口経太
〈姫〉のヴァギナの呪力——村田兼一
少女的異界創造神話——たま
毒に濁る処女の楽園——長谷川友美
瞳の魔力が誘う甘美の園——根橋洋一
純化された真珠——町野好昭
対談 町野好昭×相馬俊樹

●第三章 ダークサイド・オブ・エロティシズム
悦楽郷の幻影——秋吉巒
フェティシズムの女怪——林良文
欲望の栽培者——徳野雅仁
匂い立つ女肉の迷宮——小妻容子

作家プロフィール一覧
初出一覧

前書きなど

はじめに

ここにとり上げた作家たちは、絵画、写真、オブジェ、人形、イラストレーションと、その表現手段はさまざまである。そして、具体的な美術のグループに属したことも、おそらくはなかったはずである。
また、互いに知己の関係にあったとしても、表現のレベルにおいては、さほどの結びつきは認められない。いずれを見渡しても、影響関係も師弟の関係も指摘できないであろう。
これといって意識したわけではなかろうが、ほとんどの方が、むしろ、孤高に活動を展開してきたのではないか。はるか以前に物故作家となった秋吉巒氏が、その事情を最も象徴的に体現していたといえよう。
ときにインタビューを敢行し、ときにトークショーの相手をつとめ、また、機会があれば、ご本人やご子息から貴重なお話を聞かせてもらい、実際に生身の彼らに触れる機会の多かった、著者であるわたくしの印象も、やはり同様のものであった。孤高に耐えて自らのスタイルを研ぎ澄ますことに心魂を傾ける、「アーティスト」というよりは「アルティザン」(職人)といった印象とでもいおうか。
耽美的・頽廃的エロティシズム、少年少女愛好、スコプトフィリア、フェティシズム、サディズム、多形倒錯……これら深遠なるエロスの領野に各々が没頭しつつも、彼らはそこに留まろうとはしない。
ある者は欲望の速度を極みに至るまで加速させ、ある者はみだらを美とエレガンスの次元にまで洗練させる。また、ある者は快楽を謎めいた未開の領域に解き放ち、ある者は封印された欲望の地層を掘り起こそうとする。さらには、特異な幻想の時空へと羽ばたき、神秘的な異界に踏み込んでいく者さえ見られるだろう。
いずれにせよ、彼らは表現という鏡に映る欲望の形を大きく歪ませる。そして、エロティシズムの彼方へわれわれを導いていこうとするだろう。

本書の第一章では、主に、エロティシズムの深き闇を彷徨いながらも、透徹した眼差しと冷徹さをもって、そこに独自のスタイルを確立しようとするマニエリストのごとき作家たちを論じた。古風なマニエリストもいれば、アーバンなマニエリストもいるが、彼らは自らのスタイルに対する矜恃という共通項をもっているのではないかと思う。
第二章は、女性の性に目覚める以前の少女たちの不可思議な蠱惑と、彼女ら自身の漂わす謎めいた欲望の気配へアプローチしようと試みる作家たちをとり上げた。母のイメージの支配する家庭的な卑俗の領域から解き放たれて、遊戯とエレガンスと幻想に浸り切る未成熟の美にさまざまな角度からスポットが当てられる。少女たちの抗いがたい魅惑は、絶対的な純潔の観念やら、少女的な欲望と幻想の迷宮やら、幼年時代の熱病のごとき恍惚やらへと作家たちを連れ去っていく。
第三章に収められた作家たちの表現においては、エロティックなイメージが魔淫の領域へ展開される様が見られるだろう。それは、ユートピアと地獄が重なり合うがごとき、奇妙な悦楽郷の光景である。淫欲は過熱の極致に達し、快楽は多種多様な畸形化の過程を被り、みだらな女たちは怪物化する。エロティシズムは、未知のダークサイドを開示するだろう。

彼らは、快美の陶酔と幻想の驚異をもたらしてくれた。思考を開放と飛躍へと導いてくれた。そして、今後もそうであろうと信じている。この場を借りて、作家の方々に感謝の意を表したい。
二〇一一年一二月二五日 相馬俊樹

担当から一言

「魔淫の迷宮」……まいん…… 一見?なタイトルですが、本書は美術評論家である相馬俊樹氏による、日本のエロティック・アート作家をピックアップした評論集です。
 空山基氏や山本タカト氏といった、比較的よく知られている作家をはじめ、伝説の幻想画家と呼ばれた秋吉巒(あきよし・らん)氏や、いわゆるSM秘画を描く小妻容子氏など、メジャー、アンダーグラウンドを問わず幅広い観点から、相馬氏が選ぶ19名の作家を豊富な図版とともに紹介しています。
 絵画、写真などさまざまな表現技法で追求される深遠なエロティック・アートの迷宮に、あなたも迷いこんでみませんか?
[編集担当・高橋大輔]

著者プロフィール

相馬 俊樹(ソウマ トシキ)

1965年生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科美学美術史学専攻卒。エロティック・アート研究家、美術ライター、美術評論家。著書に『禁断異系の美術館1 エロスの畸形学』(2009年3月)、『禁断異系の美術館2 魔術的エロスの迷宮』(2009年10月)、『禁断異系の美術館3 エロスのハードコア』(2010年4月)、『エロス・エゾテリック〈新・禁断異形の美術館〉』(2011年12月)など、共著に『異界の論理〜写真とカタストロフィー 禁断異系の美術館EX』(飯沢耕太郎との共著、2011年6月)、編著に『秋吉巒・四条綾 エロスと幻想のユートピア〜風俗資料館 秘蔵画選集1』(2010年6月)、『秘匿の残酷絵巻 臼井静洋・四馬孝・観世一則〜風俗資料館 秘蔵画選集2』(2011年7月)、『種村季弘と美術のラビリントス〜イメージの迷宮へようこそ』(2010年9月)がある(すべて発行・アトリエサード、発売・書苑新社)。