そして僕はからっぽな自分に気がついた [下関マグロ 第35回(最終回)]
事務所から外に出ると冷たい風が吹いていた。あたりはすっかり暗い。陽が落ちるのが早くなったなぁ、そんなことを思いながら、荻窪駅の改札に向かった。ファンキー・タルホ氏と待ち合わせをしているからだ。駅に着いて、しばらくするとタ [...]
下血報道とフリーペーパー [下関マグロ 第34回]
その何年か、僕には月に一度のお楽しみがあった。それは大宅文庫へ行くことだ。大宅文庫は、京王線八幡山駅から少し歩いたところにある。有料で過去の膨大な雑誌を閲覧することができ、記事のコピーもできる。以前は会員になれば無制限に [...]
消費者金融とNTT伝言ダイヤル [下関マグロ 第33回]
「スタジオ代、ちょっと立て替えといてよ。厳しいんだよ」
いつもなら金がないなんてことは口が裂けても言わない伊藤ちゃんが珍しく弱音を吐いていた。
バンドというのは、金もかかれば時間もかかる。ライブをやっても黒字になることは [...]
ドント・トラスト・オーバー・サーティー [下関マグロ 第32回]
「どっかで晩飯にしようか」
ホンダシビックの運転席から伊藤ちゃんが同乗している僕とおかもっちゃんに言った。僕らはミスティという音楽スタジオで練習を終えたところだった。ライブハウスで演奏しようとするなら、やはりきちんとアン [...]
新連載「プータローネットワーク」と事務所の居候 [下関マグロ 第31回]
新橋にあるリクルートの『とらばーゆ』編集部に打ち合わせに行き、帰ろうとしたときに声をかけられた。
「増田くんじゃない、元気?」
村上麻里子さんだった。村上さんはかつて『ポンプ』という雑誌の事務局にいた人である。この『ポン [...]
ついにライブの日程が決まった! [下関マグロ 第30回]
また夏が近づいていた。およそ一年前、荻窪のマンションに引っ越したのは夏真っ盛りの頃。
2DK風呂付きで家賃は6万5千円と格安だったが、なにしろクーラーがついていないのは辛かった。ぼくは暑さには弱いのだ。
それまで住んでい [...]
30歳までにライブをやるぜぃ! [下関マグロ 第29回]
僕らは、バンドを組んで、30歳になるまでライブをやるという目標ができた。とはいえ、時間はあまりなかった。なにせ伊藤ちゃんは半年後の1月23日で30歳になってしまう。急がなければ……。
そんなわけで、岡本くんを伊藤ちゃんが [...]
バンドやろうぜ! [下関マグロ 第28回]
1987(昭和62)年、4月1日に国鉄が民営化され、JRグループとなった。<スキー田舎紀行>の取材をした3月はまだ国鉄だったが、原稿を書くときには「JR」と表記したのを覚えている。
ひとりで国鉄に乗って取材に行く<スキー [...]
スキー田舎紀行 [下関マグロ 第27回]
1986年の2月のことだった。
「ちょっといいかな?」
いつもの学研「ボブ・スキー」編集部で、ライターの細島くんに呼び止められた。
同年代の細島くんは、いつもスポーツタイプの自転車で編集部へやって来る、細マッチョで色黒な [...]
パインの事務所にお別れ [下関マグロ 第26回]
久しぶりにパインの事務所に顔を出すと、事務所のレイアウトがすっかり変わっていた。
右手の壁際中央にパインのデスクがあるのは変わらないが、以前は全てくっつけて置かれていた他のデスクが、それぞれ離れて部屋の隅に配置されていた [...]
クリスマスイブの出来事 [下関マグロ 第25回]
荻窪の田辺ビルは、夏は暑く、冬は寒かった。夏の暑さは単に部屋にクーラーがなかっただけだが、冬はガスストーブやコタツがあっても底冷えがした。
だから冬は一日中コタツから出られなかった。仕事もコタツ、食事もコタツ、テレビを見 [...]
ライターの三種の神器がそろう![下関マグロ 第24回]
西暦で1986年、昭和でいえば61年、僕の仕事は前年より確実に忙しくなっていた。レギュラーの仕事が『とらばーゆ』『BIG tomorrow』に加え『ボブ・スキー』で三つになったからだ。いずれも伊藤ちゃんに紹介してもらった [...]
「北尾トロ」が誕生した瞬間! [下関マグロ 第23回]
スキー雑誌の取材に出かける前日、神保町にあるスキーショップで、ウエアの上下とバッグを買った。全部で2万円弱だったろうか。プライベートでスキーに行くことは有り得なかったので、なるべくスキー以外でも使えるものを選んだ記憶があ [...]
タダほど高いものはない。スキー合宿顛末記 [下関マグロ 第22回]
前回、北尾トロが書いたスキー合宿の顛末を、僕は全く忘れていたのだが、読んでいたらいろいろ思い出した。
この合宿だけれど、伊藤ちゃんこと北尾トロから誘われたのは、仕事というよりは遊びであったと思う。
といってもスキーなんて [...]
デカい明日になりそうな『BIG tomorrow』の仕事 [下関マグロ 第21回]
「それじゃ、ちょっと行こうか」
引っ越したばかりの「オールウェイ」の事務所で、伊藤ちゃんがそう言った。
行き先は、青春出版社の月刊誌『BIG tomorrow』の編集部だ。伊藤ちゃんが歩いて行くというので、僕も一緒に歩き [...]
会社の役員になってくれと頼まれた [下関マグロ 第20回]
パインが間借りしていた事務所には、パインの他に、伊藤ちゃん、伏木くん、坂やんなどなどのライターがいた。更にそこに三角さんという元編集者が加わって、なぜか経理のようなことをやっていた。
パイン以外の人間は、ずっとそこにいる [...]
金はないが、時間だけはたっぷりあった [下関マグロ 第19回]
久しぶりに伊藤ちゃんから電話がかかってきた。その頃の伊藤ちゃんは単行本を執筆しているとかで、ほとんど顔を合わせていなかった。
「まっさん、どうしてんの?」
どうしてんのと言われても、どうもしておらず、その日も暇にしていた [...]
決意というより成り行きでライターに [下関マグロ 第18回]
最近はそうでもないのかもしれないが、昔はエロ業界について勘違いしている男が多かった。
僕がアダルトビデオの助監督やエロ本の仕事をしていると言うと、「撮影現場に連れてってくれ」というようなことをよく言われた。
そんな物見遊 [...]
アダルトビデオの助監督という仕事 [下関マグロ 第17回]
「もしもし、増田くん、またお願いできるかな」
芳友舎の土屋監督から電話がくるとうれしかった。アダルトビデオ助監督の仕事依頼であるが、うれしい理由はギャラが取っ払いだからだ。
ライターが原稿料を受け取るのは、早い場合で仕事 [...]
読者チャレンジ企画とAVの助監督 [下関マグロ 第16回]
新橋の駅ビルの地下に、ウエイトレスの制服がミニスカートの喫茶店があった。といってもいかがわしいお店ではなく、ごく普通の喫茶店だった。
僕はその喫茶店で雑誌『とらばーゆ』の原稿を書いた。『とらばーゆ』は週刊だったから、最初 [...]