ず・ぼん5●[気になるあの話 その弐]本の再販制度についてのアンケート

[気になるあの話 その弐]本の再販制度についてのアンケート

ず・ぼん編集部
[1998-10-24]

著作物再販制度の廃止の是非について検討を行ってきた公正取引委員会は、その結論として「著作物再販制度の取り扱いについて」を発表した(98年3月)。
引き続き再販制度を考えていくために、ず・ぼん編集部では本に関わっている人たちにアンケートを行った。再販制度が図書館に与えている影響についても訊いてみた。

回答

卯木伸男菊地泰博呉智英宍戸立夫篠田博之西尾肇西河内靖泰橋爪大三郎花井満廣瀬克哉三上強二矢野恵二渡辺眞

【質問】
Q1●簡単なプロフィールと、本とのかかわりをお教えください。
お名前・住所・電話・ファックス・メール・URLなどを差し支えない範囲で記入ください。また、掲載してもよい連絡方法やURLがありましたらお教えください。
Q2-1●本の再販制度は、これまであって良かったでしょうか、不要だったでしょうか。
Q2-2●その理由をお教えください。

Q3-1●今後も引き続き本の再販制度は必要とお考えですか、不要とお考えですか。
Q3-2●その理由をお教えください。
Q4-1●本の再販制度は、図書館運営にどのような影響を及ぼしていると思われますか。
Q4-2●その理由をお教えください。
Q5-1-1●図書館界に対する要望などがありましたらお書きください。図書館界の方は、出版界・出版流通界に対する要望をお書きください。

【発信者名】
ず・ぼん編集委員会 
1998年04月01日発

卯木伸男
有限会社随想舎 取締役

一九五八年、宇都宮市生。四十歳。長野大学産業社会学部卒。印刷会社勤務を経て一九八五年随想舎設立。業務内容は、企画出版・編集制作。
連絡先●随想舎=宇都宮市材木町三の三 TEL028-633-0489 FAX028-633-0463
http://www.zuisousha.co.jp/
本との関わり●地方出版が盛んであった長野県で過ごした大学の四年間を通して、将来の仕事として出版、編集を具体的に意識した。本とのかかわりは子どものころから強く、活字にかかわる仕事につきたいと考えていた。特に在学中、出版社などに対しての就職活動は皆無(会社に就職する気がなかったというのが本音)。1980年卒業後、職業安定所を通して宇都宮市内の印刷会社に就職。制作業務を経て、1985年随想舎設立。
Q2-1必要だったか●必要。
Q2-2理由●出版だけが文化で保護される対象であるとは考えないが、経済的に体力がない小出版社(書店も含めて)が、再販制度によって守られてきたことは事実。再販制度によって商業的には期待できないと思われる書籍(良書?)を「志」、あるいは「ライフワーク」として出版、販売してきた版元、書店も多いはず。

Q3-1今後も必要か●部分的に必要。
Q3-2理由●現在、書店の棚にあふれている出版物を見ると果たして「これが文化といわれた出版物」かと首をかしげてしまうものも多い。売らんかなというコンセプトで仕掛けた書籍は時限再販(版元主導で)があっても、読者にとってはいいのかも。幻冬舎の「ダディ」は百万部といわれているが、その書籍生命は一週間から十日程度のもの。読者に関心がなくなり、返本されるのなら値引して販売したほうが「版元」も「書店」も「本」にとってもいい。返本されれば、たぶん「ダディ」の内容的な性格からすれば、断裁され産業廃棄物となる運命をたどるのではないか。再販制度が撤廃されれば、たぶん東京発全国の読者を対象とした出版社の書籍(一般書)、売れるか、売れないのかという尺度によって書店で選別されることは必至。特に専門書は敬遠されるだろう。しかし、地方出版社の場合(当社の場合は栃木県)は、ある意味で販売・営業エリアが限定され、書籍のモチーフも地域色が濃いため「小手先でない出版物」を出していけば、さほど影響がないとも思われる。版元、書店、読者の関係が現在よりも真剣で密になるような気もする。マスプロ的な出版姿勢では再販制度撤廃の流れにはついていけない。再販制度を守るのも、撤廃させるのも版元の出版に対する熱意にかかっているのではないか。
Q4-1図書館への影響●勉強不足でわからない。
Q5-1要望●書店の棚が読者不在のデータ配本で画一化している中(読みたい本、買いたい本が少ない)、広いジャンルでの閲覧が可能な図書館の充実を期待したい。版元、書店の売り上げが落ちている中、図書館の新設、貸し出し数の増加を見れば、読書人口が減っていないことは事実である。図書館を通して書籍に親しむ人口が増加すれば、版元と書店のやる気しだいで読者は戻ってくる。しかし、消費税の5パーセントだけは再販制度撤廃の前に撤廃してほしい。

菊地泰博

株式会社現代書館 代表取締役
連絡先●現代書館=千代田区飯田橋三丁目二番五号 TEL03-3221-1321 FAX03-3262-5906

Q2-1必要だったか●過去・現在・未来とも必要。
Q2-2理由●(1)読者のために。比較的(他の商品と比べ)定価上昇率が小さく、多品種が地域格差なく入手できる。文化の多様性を確保できるこれ以上の制度は現在考えられない。(2)出版社のために。長期にわたり同一価格で販売出来る保証があることは経営戦略上安定性を確保できる。(3)流通のために。一定価格での商品の売買が保証されることは、流通経費が価格変動幅の大きい商品より削減できる。
Q3-1今後も必要か●Q2-1、Q2-2の理由で必要。
Q3-2理由●Q2-2と同じ。

Q4-1図書館への影響●(1)再販制度により、多様な本が出版され、選択が拡がると共に、いわゆる「目利き」が必要とされる。(2)出版社に長期にわたり在庫が確保されているので出版年数の経た本も入手しやすい。(3)一応自由価格ではないので、地域の書店からの購入がしやすく、地域の書店との連携もとりやすい(現実はいろいろあるようだが……)。
Q4-2理由●Q4-1に同じ。
Q5-1要望●いわゆるベストセラーよりも一般に入手しにくい本の購入に現在以上に力を入れて欲しい。「政治的傾向」により本を置かない等は厳に慎んでほしい。

呉智英
評論家。

連絡先●新宿区東五軒町三の二八 双葉社CTR気付 TEL03-5261-4837
Q2-1必要だったか●どちらとも言えない。
Q2-2理由●一口に本と言っても種類はいろいろある。岩波やみすずの基本文献は、安くても高くても必要な人は買うし、必要のない人は買わない。よって、全国同一定価が望ましい(但し、大学生協などの一割引き販売は別に考える)。しかし、エロ本に定価を定めてもしかたがなく、自由競争にまかせてもよい。内容がよくて安いエロ本なら、多くの人が買うかもしれない。地方の人が安くてよいエロ本を買えなくなるという不公平もあるが、それはエロ本に限ったことではないので別論だろう。
Q3-1今後も必要か●何とも言えない。
Q3-2理由●Q2-2と同。
Q4-1図書館への影響●とりたてて影響を与えていない。

Q4-2理由●図書館運営にとって重要な問題は、以下のことだからである。(1)受験生の勉強部屋と化している読書室の改善 (2)浮浪者のたまり場と化しているラウンジの改善 (3)蔵書の頻々たる盗難とそれに対する全くの無策、それどころか助長。この三点こそ、最重要課題である。
Q5-1要望●Q4-2の(3)について付論する。朝日新聞(96・8・29)「論壇」に埼玉県岩槻市立中央図書館元館長渡辺三好の正気とは思えぬ投稿が載った。東京都の某図書館で蔵書の紛失(実態は盗難)が相次ぐ、との記事に対する批判である。この記事をきっかけに、盗難防止装置の導入や閉架書庫の拡大がはかられてはならない。なぜならば、それは「デモクラシーの原理」に反するからだというのだ。書物を一部特権階級のものだけにせよというのなら、批判もありうるだろう。しかし、盗難防止装置や閉架書庫を採用したとしても、従前と同じく、誰もが蔵書は読めるのである。いつでも本を盗めるようなシステムを作らない限りデモクラシーは未成熟だと言うのだろうか。民主主義真理教の魔手は、こんなところにも伸びている。

宍戸立夫
読書歴40数年、新刊書店歴20数年。三月書房。1949年開店。
連絡先●三月書房=京都市中京区寺町二条上 TEL075-231-1924 FAX075-231-0125

Q2-1必要だったか●再販制がなかったらないで、なるようになっただろうとは思うが、どうなっていたかはパラレルワールド物SFの領域だろう。ただし、不要だったとは思わない。最善だったかどうかはともかく、次善程度の役には立っていたのではないだろうか。
Q2-2理由●出版業界は戦後五十数年、再販制と委託制の二本立てでやってきたが、再販制なしには現在の委託制は成り立たなかっただろう。ただし、現在の出版流通の問題は、どちらかといえば再販制よりも、委託制の方に大きな問題があるような気がする。
Q3-1今後も必要か●慣れた制度が変更されるのは億劫だ、という程度の消極的な理由でなら再販制の継続を望んではいますが、実際のところ、書店は再販制について主体的に発言できる立場にはないような気がします。主体的に発言できるのは、消費者と発行者であり、書店と取次はこの件に関しては従属的な立場でしかないと思います。
Q3-2理由●現在、個々の出版物について、再販制を選択するか否かを決定する権限は、あくまでも出版社が持っていて、書店には決定権がない。書店は取次との間で再販契約を結んでいるが、それなしに仕入れ可能な商品はほとんどないから、事実上選択の余地はない。再販制を存続するべきかどうかは、当然のことながら、あくまでも消費者の利益になるか否かで決定されるべきであり、それ抜きに業界の都合をいくら主張しても意味がない。私見によれば出版物における消費者の利益とは、(1)多種多様な出版物が、(2)可能な限り長期間にわたって、(3)全国(全世界)どこででも、(4)なるべく現物を確認してから、(5)けっして高すぎない価格で、(6)あまり待たされずに、手に入れることができることである。これらの内でもとくに重要なのは、いうまでもなく(1)だから、再販制を廃止した場合、多様性が減少する可能性があるならば、廃止すべきではないと思う。それゆえ、再販制を維持したいと考える関係者は、この点についてぜひとも説得力のあるシミュレーションを発表すべきである。
Q4-1図書館への影響●よくわからない。
Q5-1要望●貸出率など気にせずに、めったに利用されそうにない専門書でも、積極的に購入すること。非流通本以外の、普通の流通本のすべてを購入する公共図書館が、各都道府県最低一館あるといいと思う。

篠田博之
月刊「創」編集長兼創出版代表
連絡先●創出版=新宿区荒木町一三 四谷テアールビル三階 TEL03-3225-1413 FAX03-3225-0898

本との関わり●『創』はメディア批評を柱とする雑誌なので私の仕事の対象の一つとして出版の世界があるのですが、再販問題との関わりでいえば、出版社の代表として、そして日本ペンクラブがこの問題に取り組んだ際、声明文の起草などにも関わりました。
Q2-1必要だったか●あって良かった。というよりなくすことの意味がこれといってありません。

Q3-1今後も必要か●必要。
Q3-2理由●規制緩和の観点から、再販制をなくせば出版流通の様々な問題点が解決されるかに言っている人たちの論に全く説得力がありません。むしろ廃止によって、少部数の本が排除されるといったデメリットの方が大きいのではと思えます。
Q4-1図書館への影響●よくわかりません。再販制と図書館の問題を結びつけて考えたことがあまりありませんでした。
Q5-1要望●『創』4月号で『文藝春秋』『新潮45』の閲覧制限について全国の図書館にアンケートをとりました。昨年の『フォーカス』の一件以来、この問題で図書館が取材対象になる機会は多かったと思うのですが、これに限らず今後図書館のありようが議論の対象になるケースはふえていくはずです。言論に関わる議論には図書館界の方々も今後も大いに加わってほしいと思います。

西尾肇

1953年鳥取市生れ。日大芸術学部卒。コピーライター、レコード・プロデューサー、書店員等を経て、1982年より鳥取市民図書館司書。夫婦で書評を中心としたミニコミ誌『紙魚』を発行。元・日本図書館協会出版流通対策委員会委員。
連絡先●鳥取市民図書館=鳥取市吉方温泉三丁目七○一

Q2-1必要だったか●どちらとも言えない。
Q2-2理由●TOHANと日販の2大取次が寡占支配している現状では、中・小出版社の活動や専門書の流通を円滑に行う上で、出版社側の権利を守る最後の砦(メーカーが値段を決められる)として再販制は必要だと思う。しかし、書店(小売店)あるいは一消費者の立場に立ってみると、自由な経済活動を行えないような定価のシバリは規制ともいえる。再販制が必要か不要かは、1度再販制を外してみて取次と書店がどのような対応をとるのか見てみないとなんとも言えないというのが正直な感想。
Q3-1今後も必要か●どちらとも言えない。
Q3-2理由●大書店や大出版社が中心の現在の配本・物流体制では再販制度が中・小出版社の権利を守るといっても有名無実。ならば少しでも安く本が買えた方がいいとも思うが、再販が撤廃された場合、見せかけの価格(カバープライス)が増えて結局版元の”希望小売価格”自体が上昇してしまうとしたら再販制廃止も意味がない気がする。

Q4-1図書館への影響●再販制といっても図書館では値引きがまかり通っているのが常識。本を定価購入しても装備代等々で何らかのサービスを書店に要求している。某市立図書館では市内の全書店に入札させて一冊一冊の本の購入選定をしたという笑えない話も聞いている。再販制問題に対して危機感を抱いている図書館はあまりないのではないか。ただ現在は、それでも再販制度があるので、書店組合などをつくってもらって組合理由で本を納入してもらう、利益も均等に分けあってもらう——という格好をとれるが、再販制が廃止された場合、それこそ入札で本を購入することになり、資料の収集システム自体を見直さなくてはならなくなると思う。一点買いか、年間契約か、TRC(図書館流通センター)を通している場合、その条件はどうなるのか……等々、経理面でもさまざまな混乱が予想される。今でも、熱心な書店からは「市内の全書店から均等に買うのでなく、注文品の取りよせや配達、装備付き納品のスピードなど、サービスの良い書店にはそれなりに配分があってもよいのではないか」という意見も寄せられており、再販制がなくなると「安い、早い、品ぞろえが良い」書店に取りひきが傾くことは考えられる。税金の効率的な使い方や市民サービスのことを考えると、それも止むを得ないとも思う。「地元の書店を守れ」とか「書店は文化を扱う商売」などという擁護論だけでは書店も経営していけなくなるだろう。まさか「値引き率の良い本だけを買う」という図書館はないだろうが、それでも書店の品ぞろえが値引き率の高いものだけになってゆけば、見計らいで買っている図書館の蔵書にも影響が出てくるだろうと思う。
Q5-1要望●2大取次が市場を寡占支配し、大書店中心の配本パターンを組んだり、弱小の出版社に対して厳しい取引条件を課したり、といった現在の状況を変えない限り、再販制度をどんなにいじっても出版・流通は改善されないと思う。(もちろん取次の果たしている役割は認めているが。)出版社が一点一点の本を大切に出版し、書店が長い時間をかけて売ってゆけるような体制、注文品が迅速に届き、どんなに小さな書店でも売りたい本が自由に売れる体制を整えてほしい。すべての本は人と出会うために生まれてくるのだから。

西河内靖泰
1979年荒川区役所に就職。国民年金課、保健所庶務課・予防課を経て、1988年日暮里図書館へ。1997年荒川図書館へ新館開設準備のため異動。1998年、新館(南千住図書館)開館に伴い異動。自治労荒川区職員労働組合図書館分会長。
本との関わり●父親が本好きだったせいで、いつも家にはたくさんの本があった。よく字がわからないうちから読んでいたという。中高生の時はSFや推理小説にハマっていた。文庫本が部屋にあふれていた。東京の大学に進学したのは、神田の古本屋を回りたかったからだ。

Q2-1必要だったか●再販制度のことが、いまだによく理解できないので、何ともいえない。
Q2-2理由●本の再販制度というが建前だけではないのか。実際には、本の値段は読者がおかれた状況により、すでにちがっている。本屋のないところに住んでいれば、本を買うのに出版社に直接注文すれば余計に郵送料がかかる。小さな本屋しかなくて、大きな本屋のあるところはヨソの町、そこまで買いに行けば、交通費がかかる。生協のある大学の学生は本が割引で買えるが、生協のない大学の学生にはこのメリットはない。それでも東京の学生なら、M大生協に行けば、そこの学生ではなくても何故か割引で本を買える。そもそも、図書館が本を購入するのに定価で買っているところは、ほとんどない。役所自体が定価で本を購入しない。こういうのがあって再販制度っていうのは、どうも理解できない。
Q3-1今後も必要か●何ともいえない。
Q3-2理由●いまの再販制度が、どういうものなのかが理解できないのに、現行の再販制を続けろといわれてもよくわからない。必要だというのなら、どういうふうにしていかなればいけないかを理解できるように示してもらわなければ判断できない。
Q4-1図書館への影響●再制度というのは、定価販売のことだと思っていたら、市中で一般に売られる時に、版元から販売価格の指定があるということで、大口の顧客には割引で当然ということなのですね。(再販制度を守れといっている人に、それなら図書館では定価で買うでしょといったらヘンな顔されました。)役所や図書館は割引でしか本を買わない。予算は、本を割引で買うことを前提としている。おかげで役所は図書館の本は割引で買うものと思っている。図書館は、本を定価で買わないのに、定価販売を前提した再販制を守れっていうのは、一般の読者には高く売っていいけれど、自分たちの方には安くよこせということなのでしょうか。それでは、一般の読者をバカにした話ではないですか。図書館向けの本の値段は別なのだったら、はじめからそうすればいいのです。図書館向けを高くするか、安くするかは別にしてね。
Q4-2理由●専門書などの本の定価で、こんな値段でイイのかな、ちょっと安いんじゃないかと思うものが結構ある。(内容に比べてですよ)図書館は割引で買うのなら、もっと定価高くした方がいいじゃないか(たしかに安いほうが、現場としては助かるけれども)と思うこともあるのです。下手に再販制にしばられているせいであまり高くできないのでしょうか。(それとも高くちゃ、まったく売れなくなるせいでしょうか)。図書館向けは、本来、一般読者向けよりは高くしていいのではと思っているのですが。(※Q4の1・2はアンケートの答になっていませんね。だって、いまだに、よくわからない)

Q5-1要望●出版流通のしくみ(いろんなルートがあって)いまだによく理解できない。もっと、わかりやすく整理できないものでしょうか。(無理でしょうね)

橋爪大三郎
社会学者、東京工業大学教授。1948年生れ。
連絡先●東京工業大学=TEL03-5734-2667
http://www2.valdes.titech.ac.jp/~hashizm/

本との関わり●仕事柄、本は読む。
Q2-1必要だったか●要らなかったのではないか。
Q2-2理由●書籍の企画、販売の可能性をせばめた。
Q3-1今後も必要か●どうしても必要とは思わない。
Q3-2理由●書店が価格設定できるように。
Q4-1図書館への影響●図書購入費が安くならない。

Q4-2理由●図書館が予約を一定数まとめ、安く買いとれるようにすれば、販売も安定するのでは。
Q5-1要望●従来型印刷、出版に対応しない電子出版に対応できる態勢をととのえてほしい。

花井満
書店人を中心とする出版業界人育成と、地域の生涯学習に場を提供している本の学校で、事務局長をしております。
連絡先●本の学校郁文塾=米子市新聞二の三の十 TEL0859-31-5001 FAX0859-31-9231

Q2-1必要だったか●あって良かったと思います。
Q2-2理由●再販制度は、中小出版社の経営を保障する役割を果した。“志”ある良質の出版活動を保護した。読者は“定価”に対して、信頼感がもてた。本の値段を、適正な範囲に抑制する効果があった。
Q3-1今後も必要か●必要と思う。
Q3-2理由●自由価格制は、良賃な出版物の出版活動にとってきびしい局面。大量仕入れ、大量販売の結果は中小書店の品揃えが危惧される。
Q4-1図書館への影響●良質な出版活動が停滞する懸念は、“質のたかい図書館”に対する懸念につながる。

Q4-2理由●小部数出版の危機。
Q5-1要望●読書推進のために、図書館と書店が協力できることは何なのか、模索しよう。

廣瀬克哉
honyaプロジェクト 代表編成人
連絡先●http://www.honya.co.jp/

本との関わり●左記プロジェクトは、紙の本と電子の本が、それぞれの特長を生かしながらそれぞれにより広い範囲の選択肢が読者に届くようにできる体制づくりをめざしております。
個人的には大学教師として、紙の本の職業的・非職業的読者であり、著者であり、媒介者(書評者・講義などでの参考文献の紹介者)であります。
Q2-1必要だったか●功罪半ばするのではないでしょうか。
Q2-2理由●長年にわたって出版流通活動の当然の前提条件となっていたわけですから、その前提条件が出版文化の基盤となっていた面があり、それと同時に、今日の書籍流通の問題点の原因ともなっている面があるといえるでしょう。
ただし、仮に再販制度が廃止されたとして、その時に既存のやり方が通用しなくなるということは確かでしょうが、それが出版文化の破壊につながるという結果を必ずもたらすわけではないと思います。それに対して、流通面での弊害については、再販制度というそれ自体流通の構造を決めてしまう仕組みによって決定づけられている面が多いように思われ、その意味では功よりも罪が相対的には重いのではないでしょうか。
Q3-1今後も必要か●不要。

Q3-2理由●再販制度の最大の問題は、読者に直接本を届ける位置にある書店が、価格という点についてまったくの裁量の余地を持たず、競争や工夫の余地を狭められており、事実上大手取り次ぎの下請け化している点にあると考えます。その結果が、出版点数と返品率の並行した伸びであり、大量に本が刊行されているのに、欲しい本は手に入りにくいという状況です。また、本の寿命の短さも限界を超えつつあるように思います。
出版文化の維持という点では、既刊の長期保有に対して懲罰的に機能する税制を改革し、長期保有に対する優遇措置をとる等の方が確実に効果を持つと考えます。
Q4-1図書館への影響●選書には注意が払われるのに対して、購入自体には注意が向けられず、安易な業者依存体制が生じがちなのではないかと危惧します。
Q4-2理由●価格競争がないところでは、調達先の選定の決定的な選択基準がないため。
Q5-1要望●再販制度が廃止された場合、消費者の行動がより直接的に出版活動を左右するようになります。とくに大口消費者である図書館の動向は、これまで以上に重要性を帯びてくると思います。限られた図書館予算の中で、できるだけ幅広く、より多くの点数を購入するために、積極的に出版・流通と直接的な交渉をして蔵書の購入がなされることを期待します。そのことが、出版社が多様な内容の本の出版を継続するベースとして期待することができるような存在感ある本の消費者となっていただきたいと思います。

三上強二
社団法人日本図書館協会 出版流通対策委員会委員長
連絡先●日本図書館協会=世田谷区太子堂一の一の十 TEL03-3410-6411 FAX03-3421-7588

Q2-1必要だったか●良かった。
Q2-2理由●現行の著作物再販制度は、わが国における活発かつ多様な出版活動の制度的保証であり、また出版文化の全国的普及の支柱である。
Q3-1今後も必要か●必要。

Q3-2理由●再販制度の「撤廃」は、(1)小規模・零細出版社の多様な出版活動に困難をもたらし、出版の自由を脅かす。(2)地方における出版流通の過疎現象が進む。
Q4-1図書館への影響●図書館運営の根幹である資料の選択・収集を支え、図書館利用者のニーズに応える要件となっている。
Q4-2理由●中小出版社による学術書、専門書を含む多様な出版活動および地方書店における品揃え等は、図書館の資料選択、収集に不可欠である。
Q5-1要望●現状の流通システム上の諸問題の改善が、関係者の自助努力によって引き続き果たされることを期待する。

矢野恵二

青弓社
連絡先●青弓社=千代田区飯田橋一の五の八 TEL03-3265-8548
本との関わり●青弓社で年間二十五点から三十点の新刊を企画し、刊行している。
Q2-1必要だったか●設問自体の妥当性はおくとして、「これまであって良かった」。
Q2-2理由●小社のような小部数出版社が出版を続けてこられたのは、再販制度によってコストを安定的に回収することができたためであり、経済的な制度として大きな力を発揮している。ただし、ほかの商品にはない「特権的な」制度にあぐらをかき、業界全体としては流通上の弊害をあまりにも長期にわたって放置してきたことが、再販制度廃止の口実を与えた。
Q3-1今後も必要か●必要。

Q3-2理由●少なくとも、かなりの年月をかけて販売し続ける書籍、とくに小部数出版には不可欠である。
Q4-1図書館への影響●大型図書館では、新刊のほとんどが自動的に見計らいで納入され、そのなかから選書する実態があり、新刊の情報に目を光らせて仕入れ能力を高める図書館員の努力を阻害してきている。それでも年間に刊行される六万点の新刊のうち50パーセントも揃えていればいいほうではないのか。これが分館になれば、予算からみて5パーセントから10パーセントくらいしか集書されていないだろう。しかし、いずれの場合も、再販制度が(現に値引きが行なわれているとしても)大幅な値引き販売を押しとどめており、利用者のリクエストが多くて大幅な値引きで大量に仕入れることができるベストセラーものに偏重することを阻んでいる。ただし、出版社・取次と図書館を結ぶ流通会社が寡占化を強めれば、館の主体性がますます削がれてしまうだろう。
Q4-2理由●再販制度がなくなった状態を想定すれば、おのずから「理由」は浮かび上がってくる。——ポスト再販制度下で、たとえば、利用者からのリクエストによってベストセラーを大量に購入する場合や売れ行きのいい商品を購入する場合には、当然ながら大幅な値引きを求めて仕入れ交渉をする。それがますます売れ筋本に傾くことになる。逆に小部数出版の値引き幅のない専門書は敬遠されるだろう。言い換えれば、貸し出し回数の多いものが優遇される傾向に拍車がかかるということである。
Q5-1要望●図書館の開放と貸し出し重視の成果は認めるとして、弊害として、貸し出し=回転中心主義に陥っている。加えて、特定の出版社の新刊をほとんど無条件に集書する傾向があるのは、館の公共性をみずから否定する行為である。
今後、再販制度の改廃に備えて、小部数出版を確保するためにも公共図書館の増設と予算の増額を、館内外ともに協力して要求しなければならない。

渡辺眞
株式会社ワタナベ書店・東京都書店商業組合青年部再販問題担当
連絡先●ワタナベ書店=千代田区丸の内一の二の一東京海上ビル新館B一階 TEL03-3214-1803 FAX03-3212-8525

Q2-1必要だったか●必要だった。
Q2-2理由●日書連の読書アンケートによれば、本の価格に差が生ずることに七割以上の読者が好ましくない、としています。出版物が文化財として広く普及が図られることが必要であるならば、読者の身近に書店があり、読書の機会が提供される施策が必要です。再販制度の廃止は中小書店の淘汰をもたらします。公正取引委員会のアンケートによれば、読者は大型書店以上に最寄りの中小書店を利用しており、又雑誌を始め、児童書、文庫本等については身近な書店で買う傾向があります。従って、地域に根差した身近な書店が消えていけば、読者から読書の機会を奪うことになります。再販制度により全国同一価格で本の普及が図られることが必要です。
Q3-1今後も必要か●必要です。

Q3-2理由●読書は習慣的要素の強いものですが、若年層の活字離れが言われる中、最寄りの中小書店は、大型書店以上に児童書や文庫本の購入に利用されており、また、探している本がその書店に無かった時、若い読者は他の書店で探しますが、高齢な読者はその書店に注文することが多く、60代以上では7割以上がその書店に注文すると答えています(日書連アンケート)。これからの高齢化社会を考えると、読者に身近な書店は読書の機会を提供する大きな役割を果たしており、読書人口を支える基盤になっている、と云えると思います。
Q4-1図書館への影響●直接的ではないかも知れませんが、再販制度があり、価格競争をまぬがれることによって日本の各地に書店が存続し得ています。全国で書店も図書館も無い町村は92.9パーセント、書店はあるが図書館は無い町村は36.3パーセント(JPIC調査)といわれます。役目は自ら異なるとは云え、書店があることにより、本に接する機会が提供されているとともに、特に公営の書店は児童書などを充実し、図書館的機能を持たせることで子供達が感性を育む機会を提供しようとしています。再販制度を廻る議論の中で再販制度の運用が弾力的でないとして、例えばフランスの値巾再販の例が挙げられたりしましたが、フランスの小売マージンは35パーセント位で、5パーセントの値巾再販が認められていますが、日本の小売書店のマージンは22パーセント程度であり、読者にとってどちらがベターかを考えればいうまでもないことのように思えます。しかしながら市場経済の中で再販制度が今後も継続されるためには、制度の弾力的運用や注文品の遅さなどにみられる弊害をなくしていくことにより、読者に支持される再販制度を再構築していくことが必要でしょう。再販制度の根幹が維持されることにより、読者の身近に書店がある状況、図書館が近くにあり利用者に利用される状況がなければ、メディアの多様化の中で、活字文化の維持、普及が危うくなっていくのではないでしょうか。
(掲載は50音順)

公正取引委員会が発表した「著作物再販制度の取扱いについて」を転載します。

著作物再販制度の取扱いについて

平成10年3月31日 公正取引委員会

 公正取引委員会は、独占禁止法適用除外制度の見直しの一環として著作物の再販適用除外制度(以下「著作物再販制度」という。)の廃止の是非について検討を行ってきた。この問題について、「再販問題検討のための政府規制等と競争政策に関する研究会」(座長 鶴田俊正専修大学経済学部教授。以下「研究会」という。)に対し、多様な観点から検討することを依頼したところ、先般、同研究会から、
(1) 競争政策の観点からは、現時点で著作物再販制度を維持すべき理由に乏しく基本的には廃止の方向で検討されるべきものと考えられる
(2) 本来的な対応とはいえないが、間接的ではあれ著作物再販制度によってこれまで著作権者等の保護や著作物の伝播に携わる者を保護する役割が担われてきているという点については、文化・公共的な観点から、配慮する必要があり、したがって著作物再販制度を直ちに廃止することには問題があると考えられる
(3) この際、それぞれの関係業界において、各種の弊害の是正に真剣な取組を開始すべきものと考える
との提言を受けた。

 公正取引委員会は、この提言や行政改革委員会最終意見(平成9年12月)を踏まえ、また、関係者からの意見聴取等を行い検討してきたが、このたび、著作物再販制度について、以下のように取り扱うこととする旨の結論を得た。
 
1 公正取引委員会は、独占禁止法第24条の2第4項に規定する著作物については、現在まで、書籍・雑誌、新聞及びレコード盤・音楽用テープ・音楽用CDをその対象品目として取り扱ってきているところである。
 著作物再販制度については、研究会の提言にあるとおり、競争政策の観点からは、廃止の方向で検討されるべきものであるが、本来的な対応とはいえないものの文化の振興・普及と関係する面もあるとの指摘もあり、これを廃止した場合の影響について配慮と検討を行う必要があると考えられる。したがって、この点も含め著作物再販制度について引き続き検討を行うこととし、一定期間経過後に制度自体の存廃についての結論を得るのが適当であると考えられる。
 公正取引委員会は、上記結論を得るまでの間において、著作物再販制度の対象品目を上記6品目に限定して解釈・運用していくこととする。
(問い合わせ先)

公正取引委員会事務総局 経済取引局取引部 取引企画課
電話 03(3581)3371(直通)
2 一方、著作物再販制度を利用するかどうか、また、どのような態様のものにするかは、個々の発行者の自主的な判断によることが基本であり、発行者が共同して利用するものであってはならない。さらに、その利用に当たっては、消費者の利益を不当に害することとなってはならず、また、発行者の意に反してはならないものである(第24条の2第1項ただし書)。しかし、これまで我が国における著作物再販制度は、関係業界により硬直的・画一的に用いられてきた傾向があり、結果として消費者ニーズへの対応や利便の向上を損なったり、流通取引に悪影響をもたらしている面もみられる。
 研究会によって指摘されているこれらの弊害について、公正取引委員会は、迅速かつ的確にその是正を図ることが重要であるとの観点から、次のような取組を行っていくこととする。
(1) 関係業界に対して、消費者利益確保の観点から、特に次のような点について是正措置を講ずるよう求め、その着実な実現を図っていくこととする。
○ 時限再販・部分再販等再販制度の運用の弾力化

○ 各種の割引制度の導入等価格設定の多様化
○ 再販制度の利用・態様についての発行者の自主性の確保
○ サービス券の提供等小売業者の消費者に対する販売促進手段の確保
○ 通信販売、直販等流通ルートの多様化及びこれに対応した価格設定の多様化
○ 円滑・合理的な流通を図るための取引関係の明確化・透明化その他取引慣行上の弊害の是正
(2) 再販制度の運用が不当に消費者利益を害することのないよう、第24条の2第1項ただし書に基づき厳正に対処するとともに、硬直的・画一的な再販制度の運用の是正を図る。このため、適宜、再販制度の利用状況について実態把握・監視を続けていくこととする。また、景品規制の見直しにより競争手段の多様化を図ることとするほか、価格設定の多様化を阻害することのないよう、新聞業における特殊指定(昭和39年公正取引委員会告示第14号)の見直しを行うこととする。

 さらに、公正かつ自由な競争の確保・促進を図る観点から、関係業界において共同再販行為、不公正な取引方法等が行われた場合には厳正に対処する。