セクシュアル・マイノリティ

レズビアン&ゲイブックガイド2002


セクシュアル・マイノリティ

 91年、『プライベート・ゲイ・ライフ』(学陽書房)を発表した私のもとには読者からたくさんの手紙が寄せられた。そうした反響の中には、レズビアンや、トランスジェンダーの人たちのものも少なからず含まれていた。さらにゲイライターとして活動していく中で、実際に私の周りに同性愛者以外の性的少数者の人たちが現われるようになっていった。それまで自分のセクシュアリティの問題に精一杯だった私も、「同性愛」という言葉に反応して集まってきた、より周辺の「性」を生きる人々に関心を持たざるを得なくなり、『クィア・パラダイス』(翔泳社、1996)という対談集を企画した。トランスセクシュアル、トランスジェンダー、インターセックスなどのことをもっと深く知りたかったのだ。
 その後、そこに登場してくださったトランスセクシュアルの虎井まさ衛も、自著『女から男になったワタシ』(青弓社、1996)で自らの半生を語り、またインターセックスとして自らの居場所を求める橋本秀雄も、『インターセクシュアルの叫び』(かもがわ出版、 1997)で性別二元制のありようを世に問うた。そうしたマイノリティの動きによって、性的少数者という枠の中で同性愛者は相対化され、「性」の多様性はより明確なものとしてイメージされるようになったと振り返る。とくに、埼玉医大で実施された「性転換手術」のインパクトは、男女の境界自体が連続的だという認識を静かに広めていったと思う。
 当初私は、「変態」として同性愛同様、社会から排除されてきたトランスジェンダーなどに対して、同士的な感覚を持って接していた。が、多くの出会いと真摯なコミュニケーションを通じ、共有する問題以上に、それぞれに異なる背景と、存在論理があることを痛感するに至った。それは否定的に言っているのではなく、より深く理解できるようになったということだ。
 違いを知ることもお互いが付き合っていく上で大切なことだろう。ろくに相手を知らないくせに、すぐに「被差別者どうし共闘すべき」とか「弱者である彼らを助けましょう」といったスタンスに立てる人の方を、私は逆に信じられない。今の私は、性的少数者どうしの関係は、必要なときに助け合えばいいが、そうでなければあえていっしょに行動する必要はない、と考えている。
 また、私自身の仕事の功罪に関るのかもしれないが、「クィア」「セクシュアル・マイノリティ」という括りを打ち出したことで、同性愛者と他の性的少数者がいっしょに行動することが「正しく」て、例えば、レズビアン&ゲイだけでパレードをするのは他の性的少数者を「排除している」と言うような主張がネットワークの中で出てきたことも問題だった。あるいは、常に少数者は正しくて、多数者は間違っているといったスタンスで批判するような議論にも疑問を感じた。
 それぞれの主体を立てる自由を認めないような「セクシュアル・マイノリティ」という共同性の問題、少数派の立場にのみ正統性の根拠を置くような批判の仕方に対しては、伏見憲明編『クィア・ジャパンvol.4 友達いますか?』(勁草書房、2001)、伏見憲明・野口勝三ほか『「オカマ」は差別か』(ポット出版、2002)で反論を展開しているので、参照してほしい(「ゲイ」「レズビアン」という共同性が問題とされるのならば、「セクシュアル・マイノリティ」という共同性だって、同じロジックで立てられなくなってしまう!)。
 ともあれ、相手の現実を知らないでは何かで組むことも、批判することもできないわけだから、私たちには自分たちにとっての他者を理解する努力も必要だろう。もちろん、すべてに共感したり受け入れることもないのだが。
 トランスジェンダーに関しては、当事者の立場からのものでは宮崎留美子『私はトランスジェンダー』(ねおらいふ、2000)がわかりやすい解説書となっている。自分を弱者の位置に置くばかりでなく、自身が矛盾した結婚生活を送っていることなどを誠実に内省している著者に、私は人間としての奥行きを感じた。ルポルタージュとしては、松尾寿子『トランスジェンダリズム』(世織書房、1997)が深い洞察を記していて、推薦できる。


セクシュアル・マイノリティ●ブックリスト

イヴ・内なる女性を求めて
アン・ボリン/1990年/現代書館/2700円
ISBN4-7684-5577-8
ヒジュラ インド第三の性
石川武志/1995年/青弓社/2000円
ISBN4-7872-7056-7
性同一性障害と法律  論説・資料・Q&A
石原明編著/2001年/晃洋書房/3200円
ISBN4-7710-1228-8
OKAMAでっせONABEだっせ
内田羊皇/2001年/東洋出版/1400円
ISBN4-8096-7378-2
性同一性障害と法
大島俊之/2002年/日本評論社/6000円
ISBN4-535-05812-1
彷徨えるジェンダー 性別不快症候群のエスノグラフィー
黒柳俊恭/1987年/現代書館/2500円
ISBN4-7684-5552-2
セクシュアリティをめぐって
河野貴代美編/1998年/新水社/1800円
ISBN4-915165-93-0
ニューハーフが決めた「私」らしい生き方
「なりたい自分」になるヒント
小松杏里/2000年/ロングセラーズ /1400円
ISBN4-8454-1199-7
性同一性障害はオモシロイ  性別って変えられるんだョ
佐倉智美/1999年/現代書館/2000円
ISBN4-7684-6757-1
図解・性転換マニュアル
カウンセリング、ホルモン療法から各種手術、戸籍の変更まで
性の問題研究会/2000年/同文書院/1300円
ISBN4-8103-7692-3
ヒジュラ 男でも女でもなく
セレナ・ナンダ/1999年/青土社/2800円
ISBN4-7917-5778-5
わたしが最後にドレスを着たとき
性同一性障害と診断されたある「少女」の回想
ダフネ・ショリンスキー ジェーン・メレディス・アダムス/1999年/大和書房/2400円
ISBN4-479-57011-X
男でもなく女でもなく 本当の私らしさを求めて
蔦森樹/2001年/朝日新聞社/680円/文庫
ISBN4-02-261323-8
女から男になったワタシ
虎井まさ衛/1996年/青弓社/1800円
ISBN4-7872-3123-5
ある性転換者の記録
虎井まさ衛 宇佐美恵子/1997年/青弓社/1600円
ISBN4-7872-3146-4
トランスジェンダーの仲間たち
虎井まさ衛/2000年/青弓社/1600円
ISBN4-7872-3169-3
トランスジェンダーの時代
性同一性障害の現在
虎井まさ衛/2000年/十月舎/1300円
ISBN4-434-00612-6
ある性転換者の幸福論
虎井まさ衛/2001年/十月舎/1400円
ISBN4-434-0098ISBN4-2
ニューハーフという生き方
猫目ユウ/1998年/ひらく /1200円
ISBN4-341-19036-9
性のグラデーション  半陰陽児を語る
橋本秀雄 /2000年/青弓社/1600円
ISBN4-7872-3175-8
男でも女でもない性  インターセックス(半陰陽)を生きる
橋本秀雄 /1998年/青弓社/1600円
ISBN4-7872-3155-3
・インターセクシュアル(半陰陽者)の叫び
性のボーダーレス時代に生きる
橋本秀雄 小田切明徳 /1997年/かもがわ出版/品切れ
ISBN4-8769-9332-7
Search~きみがいた  GID(性同一性障害)ふたりの結婚
平安名祐生 平安名恵/2000年/徳間書店/
1600円
ISBN4-19-861249-8
・クィア・パラダイス 「性」の迷宮へようこそ 伏見憲明対談集
伏見憲明/1996年/翔泳社/1456円
ISBN4-88135-341-1
バイセクシュアルという生き方
フリッツ・クライン/1997年/現代書館/2500円
ISBN4-7684-6716-4
トランスジェンダリズム  性別の彼岸 性を越境する人びと
松尾寿子/1997年/世織書房 /3400円
ISBN4-906388-53-1
私はトランスジェンダー
二つの性の狭間で…ある現役高校教師の生き方
宮崎留美子/2000年/ねおらいふ/1500円
ISBN4-434-00637-1
性転換手術は許されるのか
性同一性障害と性のあり方
山内 俊雄/1999年/明石書店/2000円
ISBN4-7503-1210-X
性の境界 からだの性とこころの性
山内俊雄/2000年/岩波書店/1000円
ISBN4-00-006574-2
性同一性障害の基礎と臨床
山内俊雄編著 /2001年/新興医学出版社/4300円
ISBN4-88002-431-7
性同一性障害
吉永みち子/2000年/集英社/680円/新書
ISBN4-08-720020-5
トランス・ジェンダーの文化  異世界へ越境する知
渡辺恒夫/1989年/勁草書房 /1903円
ISBN4-326-15221-4
・脱男性の時代 アンドロジナスをめざす文明学
渡辺恒夫/1986年/勁草書房/2400円
ISBN4-326-15167-6