2013-12-02
第31回■サマーヌード〜日本縦断テレクラの旅Ⅱ 福岡編
天神
私達の“グレート・ジャーニー”、札幌に続いて訪れた地は福岡である。北海道から一気に南下。日本列島を縦断する。福岡へは飛行機で、2時間30分ほど。数時間前まで札幌にいたとは信じられない。一瞬のことだ。福岡では激しい雨が二人を迎えた。心と身体の滓のようなものを洗い流すかのように。
適当(笑)に現地のスタッフと打ち合わせを終え、夕方に福岡の中心、天神へ。同所にあるテレクラ「ペンギンルーム」は、札幌の「ペンギンクラブ」と名前が似ているが、系列ではない。福岡でも最大の店舗数を誇る大型店。個室や待合室も広く、居住性がいい。ここの店長は「たかがテレクラ、されどテレクラ」をポリシーにテレクラの地位向上を訴えていた。テレクラは風俗ではなく、出会いの場だと断言する。実際、この店で出会い、結婚したカップルもいて、感謝状も届いているという。
「ペンギンルーム」は早取りだが、コールが多く、ボックスもたくさんあるので、たやすく電話が取れる。8時に公衆電話からコールがあり、22歳の女性とアポを取りつける。待ち合わせの場所を指定して、10分後に会うことにする。ところが彼女は来ない。すっぽかしだ。
その数十分後、また、当のすっぽかしの女性から電話があり、偶然、私が取った。彼女は待ち合わせ場所がわからなかったという。今度は場所をちゃんと決めた。また、すっぽかされるかと思ったが、彼女はそこにいた。スレンダーなスタイルと、いまならクールビューティとでもいうのであろうシャープなルックス、そして少し派手目なファッションがまわりから浮くことなくなじんでいる。職業を聞くと病院の経理の仕事をしているという。彼女と博多一の歓楽街・中洲の飲み屋へ行く。親が中州で店を開いているらしく、人目を避けるように歩かなければならない。狭い街だからしかたがない。1時間ほど、飲んで盛り上がる。彼女は明日なら夕方から時間があるので、彼女の運転で海へ行こうと言う。そんな約束を交わし、ひとしきり盛り上がったところで、二人きりになれるところへ行こうということになり、平尾というホテル街へタクシーを走らせた。
いわゆるラブホテルだが、部屋は広々として、バスルームにはサウナまである。近くに住む彼女は家族とカラオケやジェットバスに入るために来るともいう。ところが、そこで突然、彼女はお金の話を切り出した。明日、カードの引き落としがあり、1万円足りないというのだ。私はそんなつもりはないので断ったが、それでも懇願するので、明日の車代ということなら払ってもいいと伝えた。勿論、それで彼女を抱く気にはなれない。それでも妙に様子がおかしく、なんだか信用できないので、今は現金がないので明日、払うと伝えた。すると、すぐに必要だと食い下がる。私は仕事のために宿泊しているホテルへ戻って、お金を取りにいくことにした。実際はホテルに戻り、お金を持ってくるのではなく、逆に現金を1万5千円だけにし、用心のため、カードや名刺など、身許のわかるものをすべて置いていくのだ。
その後、ホテルに戻ると彼女はいた。見ると新しい荷物が増えている。近くの友人に預けていたものを取りに行ったのだという。彼女に1万円を渡すと、今から家へ戻って、明日の仕事の洋服を取りに行くという。これで消えるのかもしれないと思ったが、彼女の言うとおりにさせた。
彼女が出ていくとフロントに電話して、私が外出している間、荷物を取りに行ったかを尋ねた。すると、それは昨晩、そのホテルに泊まった彼女が不足分を払うまで預けていたものだということがわかった。ということは、彼女はここに泊まったのだ。ホテトル嬢かもしれないし、客から金を取り損ねたのかもしれない。もし戻ってくるとしたら、怖いお兄さんと一緒の可能性もある。フロントに理由を話し、もし誰かと一緒であれば、私は帰ったことにしてくれと頼んだ。
それから30数分後、彼女が一人で戻ってきた。一安心ではある。とにかく、二人でベッドに別々に寝ることにする。といいつつも、なかなか寝れないでいた。可愛い女性が横にいるからではない。いろんな疑問が沸いてくるのだ。左の薬指にした指輪のような刺青が気になるし、よく見ないとわからないが、刃物で切られたような腕の傷も気にかかる。それにましても不可解なのは明日の計画を嬉しそうに語ることと、今度、家に招待したいと真顔で話すことだ。結局、翌日のチェックアウトの時間まで一緒にいて、その日の夕方に再会することを約束して別れた。
その頃、相棒は…
相棒は私からの連絡のないことを心配していたが、その間に10時過ぎにアポを取りつけていた。テレクラの近くからかけてきた22歳(後から18歳と白状される)の化粧品会社のOLと、テレクラの側にあるファミリーレストランで会ったという。気の強そうな女性だが、悪くない、とのこと。彼女と親不孝通りのカラオケボックスに入って、深夜3時まで歌いまくった。演歌が上手かったそうだ。その後、待ち合わせしたファミリーレストランに戻り、氷いちごと氷あずきを食べながら話す。彼女から指輪が欲しいというのをボーッと聞いていたという。指のサイズは10号。30分後、翌日(もう今日だ)に会う約束をして別れる。待ち合わせは同じ場所だそうだ。
翌日(というか、明けた5日)。「ペンギンルーム」の店長からは午前中は主婦のコールが多いと聞いていたが、私が昨夜から帰ってなかったので、彼は店には行かず、ホテルで待っていた。合流し、二人はあまり寝る間もなく、仕事をこなす。相棒は昼休みに銀行へ出掛け、その帰りに宝飾店に立ち寄り、ゴールドの指輪を買った。
福岡の赤坂にある「ダイヤルNo.1」は、老舗で、店長は“福岡のテレクラの父”と言われているそうだ。かつてここで知りあったカップルの結婚式に招かれ、祝辞も述べたこともあるという。取り次ぎと早取り、順番回線、テレビ電話など、様々な趣向を凝らしているのがアイデアマンの店長らしい。
夕方から電話を取り出したが、二人とも約束があるのでいまいち会話に身が入らない。電話を取るつもりがなかった相棒だが、運悪く(!?)取り次がれてしまった28歳のOLと何故か、話が合う。話していて、すごく楽しい。彼はこれから約束があって、昨日会った人と会うことを伝えたが、彼女はその女性と会った後でもいいから、会ってくれという。10時に会う約束をする。
その時、私は昨日、一夜を共にした女性と待ち合わせたホテルのロビーにいた。しかし、彼女は現れなかった。いったいなんだったんだろう? ただ、1万円を取られたに過ぎないし、テレクラには“嘘つき女”がつきもの、テレクラなど、男と女の騙し合いでしかないが、それでも彼女を信じたい気もする。ひょっとしたら、何かのアクシデントがあって、これなかったのではないかと、自分勝手な解釈もしてみる。複雑な感情だ。
相棒は8時に、昨日会った女性と、同じファミリーレストランで再会し、指輪を渡す。彼女は大粒の涙を浮かべ、泣き出したという。彼は、このあと仕事で仲間と飲まないといけないと告げ、東京の連絡先を教え、その女性を一人置いてレストランを後にした。
私といえば、釈然としない気持ちを抱えながらも空腹を覚え、親不孝通りの屋台で、少し遅い夕食を取っていた。
食事を終えた私は、冷やかしがてら、相棒が待ち合わせをしているホテルのロビーを覗く。すると、彼がぽつんと一人でソファーに座っていた。話しかけようとすると、慌てて止めるように目配せされる。待ち合わせをしていた28歳のOLがちょうど彼の前に現れ、私の横にいたのだ。長身の女性だが、どこか可憐さと清楚さが同居していた。
あとから聞くと、相棒は彼女の車で親不孝通りへ向かうが、ひどい方向音痴で、目指す店になかなか辿りつかなかったという。恋に遠回りはつきものだ。漸く、お目当ての店で出会いの祝杯を上げ、その後、カラオケボックスへ。延長に次ぐ延長で、午前4時を回った。温かい珈琲を飲みたいというので、ファミリーレストランへ行くが、閉まっている。出来過ぎたドラマのような展開だが、その後二人はホテルへ行ったという。
18歳のバースデー
私といえば、二人のドラマのプロローグに刺激を受け、雪辱戦をしなければならないという思いから、「ダイヤルNo.1」へ戻った。ところが、思うようにアポは取れない。閉店近くの午前3時、天神の公衆電話からコールがあった。聞けば、今日は18歳の誕生日で、友達がカラオケボックスで祝ってくれるはずだったが、段取りが悪く、会えずしまいになってしまったという。それではあまりに可愛そう過ぎるというもの。私は「僕にお祝いさせてくれ」と誘うと、彼女は躊躇うことなく、OKを出す。待ち合わせをしたホテルの前に彼女は自転車でやってきた。小太りであどけない、どこにでもいそうな少女。フリーターだという。親不孝通りのカラオケボックスへ行く。そこで彼女は歌うのだが、なんだか様子がヘンだ。歌うのは中森明菜の「難破船」や中島みゆきの「わかれうた」など、暗い歌ばかり。自暴自棄になっているのか。そればかりでなく、ボックスの照明をわざと暗くしたり、横になって甘えてくる。何かを期待をしていることは明らかだ。けれど、18歳の少女の誕生日を名前も住所もろくに知らない男に抱かれるなんていうものにしてはならない。してはいけないのだ。私はブルーハーツの「トレイン・トレイン」を、声を限りに叫んで歌った。私が彼女へ贈れるのは、こんな歌しかない。
夜が明け、空が白みだした頃、自転車に乗って帰ろうとする彼女へ、私はもう一度、歌った。“栄光に向かって走る あの列車に飛び乗って行こう”と。彼女はきっと列車に飛び乗れるはずだ。
私はホテルへ戻り、相棒の帰りを待ちながら、仮眠をとることにした。運命のドラマの主人公を演じた相棒が漸く帰ると、JR博多駅へ向かう。午後0時発の新大阪行きの新幹線に乗るためだ。そんな二人を駅前に飾られた山笠が見送る。博多の男だけでなく、女も浮き浮きし、そわそわしていたのは、博多祇園山笠のせいかもしれない。