2010-07-12

第2回 ギクシャクしないようにと思って──遠藤学さん(21歳・男性・勤務歴1年)

遠藤くんは、1989年生まれ。生まれてからずっと、横浜、黄金町付近で生きてきた浜っ子。現在21歳。好きなプロ野球チームは「もちろんベイスターズ!」。
地元の工業高校卒業後、ガソリンスタンドのアルバイトを経て、現在は親の経営する居酒屋を手伝っている。現在、父(55歳)と母(56歳)と同居している。父は千葉県出身。黄金町付近で居酒屋、スナックなど三店舗の飲食店を経営している。母は韓国出身。父の店を手伝うのではなく家事をやっている。弟(18歳)が一人いて同居していたが現在少年院に入っている。
遠藤くんは、「いろいろな人と話し慣れている青年」という印象。こちらの問いかけに、ぽんぽん小気味よく答えが返ってくる。話す内容は具体的で、自分はこういう体験をしてきたんだからこうでしょう、とスパッと答えるところがある。
ちなみに、こちらは黄金町のいかついヤンチャなあんちゃんが来ると思っていたら、シャツにベストにハンチングという小ざっぱりした出で立ちの礼儀正しい青年だった。それに、いつも笑顔なのが印象的。
*2010年3月18日(木)18時〜インタビュー実施

「五段階評価で1がメインで、2と3がちょこらちょこらと(笑)」

遠藤くんは、高校生のときからアルバイトをはじめる。最初はスーパーの鮮魚コーナーで6ヶ月、つぎがレストランの厨房で1年アルバイトをした。そのあとは、ガソリンスタンドのアルバイトをこの20102009年の年末までつづける。ガソリンスタンドのバイトは、週3、4日入って、学校が終わってから五時間仕事をして家に帰って寝て、また学校に行く、という毎日だった。週末は、友人たちと遊び、朝までカラオケ、遠藤くん曰く、「こんなこと言っちゃいけないんだろうけど、お酒を飲んでいました」。高校時代は月に4万円から5万円を稼いでいた。

石川 勉強はどうだった?

遠藤 バカです。(きっぱりと)

石川 バカですって(笑)。成績はどれくらいだったの?

遠藤 相当できなかった子で、小学校ではクラスの下から数えて3位ぐらいでした。

沢辺 じゃあ、オールC?

遠藤 そうですね。CのあいだにBがちょこちょこ、といった感じですね(笑)。

石川 体育はAじゃなかったの?

遠藤 Bですね。特別運動神経がいいというわけでもなかったです。

石川 じゃあ、中学の成績は?

遠藤 中学でもそのまんまで、五段階評価で1がメインで、2と3がちょこらちょこらと(笑)。

石川 勉強に対しては、「やらなくちゃ」という気持ちはなかった?

遠藤 できなくていいや、という感じです。

石川 なんでそうだったんだろう?

遠藤 興味がなかったんです。興味があれば学ぶんですけど。

石川 いままで学んだことは、たとえばどんなこと?

遠藤 車のことは、自分から進んで勉強しました。

沢辺 それは免許の試験の勉強?

遠藤 そうですね。このあいだ普通自動二輪の免許をとったんですけど、一発試験で受かりました。

石川 それまでにも免許を取ってたの?

遠藤 16で原付、18で車の免許を取りました。でもつい最近、車をつぶしてなくなっちゃって。原チャリだと、スピード出すとすぐつかまるし、二段階右折とかも面倒くさいので、普通自動二輪の免許を取りました。

沢辺 つぶれた車ってなんだったの?

遠藤 ホンダのインスパイアです。友だちみんなと流星群を見に行ったんですけど、帰り道、血が騒いじゃって、バーっと走ってたら電柱にぶつかっちゃって。

沢辺 よく下に落っこちなかったね。

遠藤 事故ったときの写メがあるんですよ(携帯の待ち受け画面、車のボンネット部分がぐちゃぐちゃになった写真)。

沢辺 おー。

石川 おー。よくケガしなかったね。

「おやじには、『別になにやるのもお前の勝手だけど他人に迷惑はかけるな』とよく言われました」

遠藤くんの父親は黄金町付近で飲食店を三店舗展開する経営者。母親は韓国出身(父との結婚で日本国籍を取得)。母親は日本語があまり達者ではない。弟は現在少年院に入っている。兄の遠藤くんも悪い連中とのつきあいがあったけれど、弟はさらに深くその世界に入っていってしまった。

石川 親には「勉強やれ」って言われなかった?

遠藤 少しは言われましたけど、そんなにしつこく言われませんでした。

石川 両親はどんなひと?

遠藤 やさしいです。ぼくは甘えて育ちました(笑)。

石川 お父さんは高卒?

遠藤 はい。自営業で、黄金町の駅の近くで焼き鳥屋をやってます。自分が生れたときぐらいから店をはじめて、朝帰ってきて昼間まで寝て、といった生活なので、あんまし顔を合わせませんでした。でも、休みの日は家族サービスで遊園地とかに連れて行ってくれました。

沢辺 お母さんはお店を手伝ってる?

遠藤 いえ。

沢辺 じゃあ、おやじさん一人で店をやってるの? それとも人を使ってる?

遠藤 10人行くか行かないかですけど、人を使ってます。いちおう三店舗あるんで。

沢辺 財閥だね〜。

遠藤 いやいや。

石川 お母さんはなにをしてるの?

遠藤 家でごろごろしてます。

石川 ごろごろって、なんにもやってないわけじゃないよね?

遠藤 めしとか洗濯やってくれてます。

石川 兄弟は?

遠藤 弟がいます。いま18かな。

石川 弟はいまなにをしているの?

遠藤 少年院に行ってます。

沢辺 それはなに系で? 暴力とか?

遠藤 児童ポルノ禁止法(児童買春法)です。先輩からカンパがまわってきたので後輩を売ってお金をかせごうとして、捕まっちゃった。今度のが二回目なんで、一発で少年院で、高校も中退になって。

沢辺 遠藤くんは、そっちの道には行かなかったの?

遠藤 お世話になった先輩から「すじ通せ、親に迷惑かけるな」と言われてたんで、そっちには行きませんでした。

石川 高校は弟も同じだったの?

遠藤 弟が定時制で自分は全日制です。

石川 やはり、弟のほうは悪い先輩たちとつきあいがあったの?

遠藤 自分も悪いやつとつるんだりしたから、それで弟もいっしょになってはじめたかもしれません。でも自分はまっすぐになって。

石川 「悪い」って、どんなことをやってたの?

遠藤 かわいいもんですよ。バイク乗ったりとか。

沢辺 盗み系は?

遠藤 盗みはなかったです。

沢辺 ケンカ系は?

遠藤 ケンカ系もしないです。基本温厚なんで。

沢辺 女の子系は?

遠藤 それもなかったです。

沢辺 じゃあ、そんなに悪くはないよね?

遠藤 悪くはないですね(笑)。弟はどんどん悪いほうに行っちゃって。はじめて捕まったのは傷害ですね。そのときは警察に一晩お世話になって、その次が鑑別所で、今度は少年院ですね。だんだんと上がってっちゃって。具体的になにをやっていたか、あんま覚えてないですけど。

石川 ご両親はやさしいということだけど、お小遣いをたくさんくれるひとだった?

遠藤 ほしいものを言うと、「勉強したらお小遣いをあげる」と言われたりという感じでした。

石川 お母さんもやさしいんだと思うけど、どんなことを言って育ててくれた?

遠藤 べつになんもないです。会話もしません。

石川 小さいころからあんまり話をしなかったの?

遠藤 そうですね。

石川 お父さんは?

遠藤 おやじもなんも言わなかったですけど、「なにやるのもお前の勝手だけど他人に迷惑はかけるな」とよく言われました。それはまちがいないな、と思っています。

沢辺 おやじは悪かったのかな?

遠藤 悪くはなかったですね。プロをめざして野球やってたみたいですけど、ひじ壊しちゃって。高校は千葉の高校に行ってました。

石川 お父さん千葉のひと?

遠藤 はい。

石川 じゃあ、お母さんは?

遠藤 おふくろは韓国です。韓国で生れて韓国で育って、結婚するときに日本に国籍を移して。

石川 お母さん、日本語は?

遠藤 片言です。いまも片言で。なんでいつまでたっても上達しないのかなって(笑)。

沢辺 いつ結婚したの?

遠藤 そういうのは聞いてなくてわかりません。

沢辺 遠藤くんが生れたのが35ぐらいのときだから、子どもを産んだ年としてはわりと遅いよな。

遠藤 そうですね。

石川 出会いは?

遠藤 知らないですね。聞きたくもないというか(笑)。

石川 なんで聞きたくないの?

遠藤 親が恋したところとかは想像したくもないです(笑)。気持ちわるいって(笑)。

沢辺 うちの子もそう言うよ。どっかで知りたい気持ちはないことはないんだけど、じっさい「知りたいか?」と聞かれると、「そんなこと知りたくない」と答える。

遠藤 そうですね。自分から知ろうとは思いません。親に「知りたい?」と聞かれたら、「いやだ」と言いますね。

「車だったらけっこういじれるし、バイクもそこそこ。マフラー変えたりタイヤをはずして交換したり」

遠藤くんはバイクや車をいじるのが好き。部品や改造の方法までディテールを話す遠藤くんがとてもいきいきしていて、ほんとに好きなことがよくわかる。

沢辺 ところで、バイクや車が好きだというけど、乗るのが好きなの?

遠藤 乗るのもいじるのも好きですね。

沢辺 けっこういじれるんだ。

遠藤 車だったらけっこういじれるし、バイクもそこそこ。マフラー変えたりタイヤをはずして交換したり。だって工賃高いじゃないですか。自分でやっちゃいます。

沢辺 それってある程度頭なくっちゃできないじゃん。勉強したの?

遠藤 勉強はしてないです。ガソリンスタンドで教えてもらいました。

沢辺 改造してどんなことやってるの?

遠藤 走り屋をやってて。

沢辺 でも、原チャリでは走り屋はできないんじゃない?

遠藤 普通の原チャリは60キロしかでないけど、コンピューターをいじって90キロまで出るように改造して。

沢辺 ボアアップ(シリンダーの容積のアップ)は?

遠藤 お金がなくてできませんでした。でも、先輩に譲ってもらった80ccを100にボアアップしたエンジンをくっつけて遊んでたことがありました。

石川 どこで走ってるの?

遠藤 磯子の海沿いにL字のカーブがあって、そこで夜中に、膝すりながらバーッと何回も往復して走ってました。

沢辺 峠派ではなかったの?

遠藤 峠は50ccでは厳しいし、ちょっと遠いので、近場の磯子で走ってました。

沢辺 ベースはなんだったの?

遠藤 ホンダのNS-1というやつです。

沢辺 レーシングみたいにフルカウルのやつ?

遠藤 はい。カウルがついていて、マニュアルで。

石川 お金はけっこうかかった?

遠藤 マフラーでも3万ぐらいかかるんで。それに、バイクやってると消耗品にお金がかかるんですよ。普通の50ccのバイクをいじって、無理をかけてるんで。たとえばサスペンションがすぐにへたっちゃったり。

石川 改造するより、でかいバイクを買ったほうがいいと思っちゃうけど、どう?

遠藤 いや、自分は50ccで最速をめざそうと思ってて。そのころ、悪い先輩から譲ってもらったチームを自分が引っ張ってたんですけど、ある日チームの仲間と房総に行ったら、ちょうどその先輩に会ったんですよ。そのとき自分、盗まれてバイク無くしちゃって、友達のバイクのケツに乗っかってたんです。そしたら「お前なんだ。カンパまわせ」って言われちゃって。そこで「自分はお金ないし、カンパできない」と言ったら、破門されちゃって。リーダーが破門っていう(笑)。それでバイクやめちゃって、それからは車をいじるようになりました。走りじゃなくて、見せる車なんですけど。

石川 見せる車って?

遠藤 たとえば、サンバイザーにテレビつけたり、「わあ、すげー」と言われるような車です。

沢辺 バンパーの下にスカートつけたりとか?

遠藤 そうです。バンパーの下にLEDつけて、下をピカピカ照らすとか。

石川 スピーカーとかは工夫しなかった?

遠藤 やりましたね。直径30センチのウーファーをトランクに入れてぼんぼこぼんぼこと(笑)。

石川 どんな曲流してるの?

遠藤 洋楽ですね。ヒップホップとかR&B。

石川 曲にもこだわるの?

遠藤 ヒップホップに求めるのはガンガンくるのだし、R&Bに求めるのはまったりしたやつ。英語わからないくせに英語のバラード聴いたりとか(笑)。

石川 女の子を乗っけたりはしないの?

遠藤 しましたけど、彼女できないんですよ。「車はかっこいいんだけど、乗ってる人がだめだ」と言われます(笑)。

石川 車をいじるのはモテたいから?

遠藤 車そのものが好きで、アメリカのテイストにしたくて。

石川 遠藤くんの言うアメリカのテイストってどういう感じ?

遠藤 黒人のギャングが乗ってる感じですね。「これ、いかついだろ」と。

「だいたいヤンキーかおたくのどちらで分かれるんですけど、自分はどちらかというとヤンキーの手前という感じでしたね」

遠藤くんが通っていた工業高校のクラスのグループ構成は、ヤンキーとおたくが半々。そのなかで、遠藤くんはどちらかと言えばヤンキー寄り。そして、いじられキャラだった。

石川 話が戻るけど、遠藤くんの高校は、大学に進学にするひとはいた?

遠藤 工業高校だったんで、みんな工場に就職してました。

石川 工場はどこのどういう工場?

遠藤 有名なところだったらIHI(石川島播磨重工)。場所は横浜近辺です。

石川 IHIって大手だと思うけど、そういう大手に就職するひとばかりではないのでは?

遠藤 ほかにも京浜急行とか、いろいろ就職先があって。求人はけっこうありました。

石川 じゃあ、就職がいい学校だったんだ?

遠藤 就職はバリバリいいですね。不良が多くて、いいイメージのない学校だったので、なんでうちの学校から採るのか不思議だったんですけど。

沢辺 生徒は男ばっかり?

遠藤 男ばっかりでしたけど、一応共学で、女は自分のクラスはいなかったけど、学年にはいました。かわいくなかったですけど(笑)。

石川 不良の学校って言ってたけど、学校での遠藤くんの位置づけは?

遠藤 だいたいヤンキーかおたくのどちらかに分かれるんですけど、自分はどちらかというとヤンキーでしたね。

石川 遠藤くんの言う「おたく」って、どういう感じ?

遠藤 ゲームばかりやってるとか、アキバ系ですね。服装はすごくまじめな感じ。ヤンキー系は長ラン、短ランで。

石川 で、遠藤くんの学ランはどうだったの?

遠藤 普通の長さで普通のかっこうですね(笑)

沢辺 へえ、そうだったの。頭は?

遠藤 長かったですね。普通に無造作ヘアとか。

石川 じゃあ、おしゃれだったわけだね?

遠藤 まあそうですね。

沢辺 眉毛は?

遠藤 剃ってましたね。ヤンキーみたいな細さではなかったですけど。

石川 クラスはヤンキー系とおたく系と半々だという話だったけど、その二つのグループはお互い無関心だった?

遠藤 殴ったりまではしないけど、ヤンキー軍団がおたくをいじってました。自分はどちらかというとやられる側で、みんなに両手両足をつかまれて草むらに投げられたりとかしてました。でも、「これおいしくね? これで笑いをとれるならいいや」って(笑)。

石川 いじめられていたわけではない?

遠藤 いじめとかではなくて、「これで笑いをとれるならいいや」って。

石川 その連中とはいまでもつきあいがある?

遠藤 あります。いまはもう、そういうことはやられてないですけど。

石川 いまいっしょに遊んでいるのもその連中?

遠藤 そうですね。

「やりたいことで金儲けしたいです」

遠藤くんは高校卒業後、調理師の専門学校に行こうと思うが、それをあきらめることに。しばらく高校時代から続けていたガソリンスタンドのアルバイトを続けるが、この春から本格的に父親の仕事を手伝うことに決める。先輩の飲食店を訪れて感動したのがきっかけで、いまの遠藤くんのめざすこと、やりたいことは、父親の店を大きくしてお金を儲けること。ばんばん儲けて、キャバクラでばんばんお金が使えるようになりたい、そんな夢をかなえた自分のイメージも遠藤くんのなかにはある。

石川 就職がいい高校だったということだけど、遠藤くんが就職しなかったのはなぜ?

遠藤 高校のころは調理師の専門学校へ行こうと思っていて、親も学費を半分出すと言ってくれてたので。でも、専門学校の試験に受かって、「入学するのにお金がいくらかかる」という話をしたら、急に「お前が全部出せ」と言い出して。お金が払えなくなったから専門学校にも行けず、そのままガソリンスタンドのバイトをやることになりました。

沢辺 そのときは腹を立てなかった?

遠藤 めちゃめちゃ腹立てましたよ。いまでは笑って話せますけど。そんときは、「言ったことは責任もてよ」って。

石川 お父さんはお店を三軒持ってるのに、なんでお金を出してくれなかったんだろう?

遠藤 けっこうケチなんです。

沢辺 なぜお父さんは豹変したんだろう?

遠藤 なぜっていうのはちょっとわかんなくて。聞こうとも思わないです。

沢辺 けっこう気まぐれなのかな?

遠藤 そういうところもあると思います。調理用の服の寸法も測って、いよいよ買うというときに「出せない」という話になっちゃって。でも、気まぐれだけど、やさしいことをやってくれます。

石川 やさしいことってどういうこと?

遠藤 甘いです。

沢辺 弟は怒られた?

遠藤 めちゃめちゃ怒られてました。

沢辺 遠藤くんは怒られたことはない?

遠藤 中学校のとき、ほしいゲームがあって、親の留守のときに親の財布からお金をとったのがバレたときは、めちゃめちゃ怒られました。

石川 話は戻っちゃうけど、なんで調理師学校のお金を出してくれなかったんだろう?

遠藤 わからないですけど、自立させたかったのかもしれないです。

沢辺 そんなことがあったけど、今は父親の店を手伝ってるんだよね?

遠藤 それにはきっかけがあって、先輩がお店をはじめたんですけど、そこの料理を食べたら、めちゃめちゃうまかったんです。「料理食って、こんな感動あるんだ」と。そのとき、「会社起こして金儲けしてえな」って思ってたときだったので、「会社やるんだったら、料理関係の仕事やりてえな」と思ったんです。で、よく考えたら、ちょうどいいとこが近くにあるじゃん、と。それで、おやじのところにしばらくいて、それからほかのところに修行に行って、自分の味出していこうかなって思ったんです。

石川 ずっとガソリンスタンドのバイトをやってたって話だったけど、「正社員にならないか?」とは言われなかった?

遠藤 「危険物の資格とったら正社員にしてくれる」っていう話もあったんですけど、結局「ダメだ」って言われて。いまはガソリンスタンドは不況でもうからないから。

石川 資格はほかにももってる?

遠藤 車と普通自動二輪。それから、お店をやるために衛生責任者の免許をもってます。

沢辺 いままでのバイトで一番時給が高いときはいくらだった?

遠藤 ガソリンスタンドで920円です。所長が上司にびびってる人で、それ以上は上がらなかったんですけど。

石川 お父さんのお店の手伝いでは、いくらもらってるの?

遠藤 おやじの店では時給でなく月給でもらっていて、月10万円です。

沢辺 おやじの会社でなかったら10万でやる? 

遠藤 やると思います。修行になると思うし、いまは飲食店で働くのが面白くて。

沢辺 いま、どれくらい仕事に入ってる?

遠藤 夕方5時から夜12時まで入っています。この春でやめるけど、まだ昼までガソリンスタンドのバイトもやってます。

沢辺 お店は何時までやってるの?

遠藤 朝5時までです。

沢辺 何人でやってるの?

遠藤 お店には常に三人入っていて、夜12時をすぎると二人になります。

沢辺 仕込みはやってる?

遠藤 まだ見習いなので、いまは仕込みには入っていなくて、仕事としては接客だけです。4月からは仕込みにも入ります。

石川 お父さんのお店は三店舗あるってことだけど、どんなお店?

遠藤 ぼくが入っている本店が焼き鳥屋で、あと、カラオケスナックと串揚げ屋です。おやじは本店にいます。

石川 お父さんは一緒に働いていて、息子扱いはしない?

遠藤 おやじは仕事に対しては厳しいです。

沢辺 まわりのひとはどう?

遠藤 常連さんが多いので、「店長の息子」っていう感じです。

石川 お客さんはどういう人が多い?

遠藤 地元のおっちゃん、おばちゃんです。もう20年やってて、顔なじみばかりで。会社帰りに寄るスーツのひとも多いです。

石川 若い人は来る?

遠藤 キャバクラのお姉ちゃんやホストも来ます。朝までやってるので。

沢辺 かわいい子も来る?

遠藤 かわいい子も来ますね。

沢辺 店でお客をナンパするのは禁止?

遠藤 そういうわけでもないです。女の子と遊びに行ったことはないですけど、26歳ぐらいの男のお客さんに、「飲み行こう」と声をかけられて、キャバクラに連れて行ってもらったこともあります。

石川 キャバクラは好き? ぼくは話の聞き役になっちゃってけっこう疲れるんだけど。

遠藤 友だち感覚で接してくれるお店が、疲れないので好きです。

沢辺 将来不安になったりする?

遠藤 やりたいことがなくて、「なにしよう」という時期はありました。高校卒業してガソリンスタンドをやっていたころです。これだというのができたのは、やっぱり、先輩が店を始めたのが大きくて。いまは、「なにやりたい、これやりたい」というのがありますね。

沢辺 その、「やりたいこと」というのは?

遠藤 やっぱ、おやじの店をでかくしたいです。でも、いまはまだ料理ができないから、まずはできること、店をきれいにすることからやろう、と思ってます。

石川 遠藤くんは「やりたいことをやりなさい」と言われて育てられた? 

遠藤 「やりたいことはやっていいけど、ひとに迷惑をかけるな」と言われてました。

石川 やりたいことをやってお金を儲けたいという気持ちがある?

遠藤 そうですね。やりたいことで、金儲けしたいです。

石川 やりたいことで食っていける自信はある?

遠藤 まだ、「どうやって稼いでいこうかな」と考えているところです。将来は、キャバクラ行って「いいよ、飲め飲め」と言える感じにはなりたいです(笑)。

「こっちも、なんでそんなふうに言われなきゃならないんだ、とキレて。それでもう、大学生はいやになりましたね」

遠藤くんは主に、高校時代のちょっとやんちゃな友人や先輩、ガソリンスタンドのバイト関係、居酒屋で働く人やお客さんの世界を生きている。ある日、たまたま大学生の合コンに誘われることになる。そこで自分の世界の流儀でふるまったらまったくうまくいかず、大学生がいやになる。これは、遠藤くんが自分の歩んできた人生とは異なる人生を歩んでいる人たちと出会った場面。

沢辺 高校の同級生は仕事つづいてる?

遠藤 そういう話はあんまりしないですけど、いまでもつきあいのある小・中・高の同級生は、けっこう根性あるヤツが多いです。だからたぶん、みんな仕事はつづいているとは思います。

石川 ところで、大学生ってどう思う?

遠藤 あんま好きじゃないです。小、中まで同じ学校で高校から進学校に行った頭のいい友だちで、都内の有名私立大学に行ってるやつがいるんですけど、あるときそいつが集めた大学生と合コンをやったら、すごくつまらなかったんです。最初にボーリングをやってるときはみんなでわいわいやってたんですけど、その後カラオケ行ったら、女の子がぜんぜん歌わないんです。女の子が歌わないって、ぜんぜんつまんないじゃないですか。それでイライラして、自分が女の子の歌をドンドン入れたんです。それでも女の子が歌わないから、もう自分で歌ったんですよ。自分で歌って、一発芸もやって。でもぜんぜんウケなかった。合コンはそのまま終わっちゃって、自分だけ車で来てたから、みんなを車で送ってやったんです。で、すこししてから反省会があったんですけど、そこで「お前、なんで女の曲ばっか入れたり、変な芸やったりするんだよ。ありえない」と言われたから、こっちも「なんでそんなふうに言われなきゃならないんだ」とキレて。それでもう、大学生はイヤになりましたね。

沢辺 その合コンのメンバーは、遠藤くん以外はみんな大学生だった?

遠藤 そうです。そういうことがあったから、学生やって遊んでて、なにがいいのかと思うようになったんです。

石川 親からお金もらって大学行ってるのって、どう思う?

遠藤 自分も調理師の学校行くとき親にお金を出してもらおうと考えていたんで、こんなこといえませんけど、正直、あんま好きじゃないです。

沢辺 「大学行ってないのが、ちょっと恥ずかしい」という気持ちはなかったの?

遠藤 それはなかったです。俺はこういう人生だし、恥ずかしいということはなかったです。

沢辺 遠藤くんの言っていることは本当なんだと思うんだけど、ちょっと意地悪をいえば、「ほんとは気にしているけど、そんなこと関係ねえってことにしよう」という無理があるんじゃないかな? 俺は40代のころまでは無理して、「関係ないと思うべきだ」と思ってたんだけど。

遠藤 うーん。でもやっぱり、恥ずかしくはないですね。自分は「べきだ」という感じはなくて、「うそつけない」って感じです。

沢辺 もちろん、うそという感じではなくって、そのときは一生懸命で、「気にしてないです」と言っていた気がする。どう思う? 哲学者?

石川 遠藤くんは素直に言っている感じがありますよね。つきあっているひとに大学生はすくないし、大学に行ってなくてもしっかり働いているひととのつきあいが多いから、あまり大学に行ってる、行ってないが気にならないんじゃないかと。

遠藤 気づいたらヤンキーグループにいたけど、大学行ったやつともつきあいは続いてます。友だち、切れないんですよ。

「自分もギクシャクしないようにと思って、いろいろやって」

大学生との合コンは失敗だった。いきなり地元風の盛り上げ方をもちこんでしまった。けれども、それは遠藤くんなりの関係を円滑に進める方法だった。そこには、「お互いあまり知らないけれど、この場はたのしくやろうよ」という努力、関係の上での仁義があった。確かに、あの大学生との合コンではうまくいかなったけれど、遠藤くんは関係づくり自体には幻滅していない。自分の仁義を大切に、遠藤くんは笑顔で積極的に人とかかわっていく。

沢辺 小、中からの友だちは学歴とか気にならないね。俺の同級生の女の子なんか、大学出て就職したけど結婚して仕事辞めて主婦になった、絵に描いたような専業主婦もいれば、水商売の子もいる。でも、学歴や職業で見ることはない。

遠藤 「水商売ばかにするな! ばかにするなら、てめえやってみろよ」という気持ちはありますね。

沢辺 正義漢だね。

遠藤 親に言われた、「人に迷惑をかけるな」というのは大きかったですね。

石川 いま、「水商売をばかにするな」という言葉があったけど、遠藤くんの場合は説得力があっていいね。「人はみんな平等だから職業に貴賎なし」みたいに、上から言ってない感じがいい。なんでかというと、ぼくなんか親の金で大学行って、大学院まで出てることからくる「申しわけない」という気持ちがあるんだよね。けれども、遠藤くんの言ってることはそうじゃなくて、自分の身のまわりに水商売をやっているひとがいて、その大変さを見ているということだけを根拠に、「ばかにするな」と言っている感じがいいと思う。

沢辺 俺は、石川くんはイヤなヤツだったと思う(笑)。いい年こいてバイトやってて、だけど「自分は学問をやってます、いまは仮の姿です」みたいな言い訳を用意してたんだよね。遠藤くんは、そういうお高くとまっているヤツとは違うと、俺や石川くんは思ってるんだけど。遠藤くん自身としてはどうかな?

遠藤 小さい頃は母親が韓国人だったこともあっていじめみたいなことはあったんだけど、高校生になっていじられキャラになって、「自分のマイナス面を出してみんなが笑ってくれれば楽しい」と思うようになったのかも。

沢辺 だれにもコンプレックスがあるから、それにうまく対処する方法が大事だと思う。ほんとのところでどう思っているかとは別に、「いじられキャラ」のような「方法」を見つけておくことが大切なんじゃないかな。

遠藤 いじられキャラは、そういう「方法」だったかもしれません。

沢辺 自分から積極的にバカやったりしていたわけ?

遠藤 そうですね。みんなが楽しんでくれればそれでいい、って。

石川 さっきカラオケでバカやったと言ってたけど、「これはウケないな」という予想はなかった?

遠藤 なかったですね。とりあえずバイト先でウケた芸をやれば、笑ってくれて仲良くなれると思ったんですけど(笑)。

沢辺 そのことについては、遠藤くんだけが悪いわけではないんだけど、たぶん、バイト先で芸をやって盛り上がったのは、「仕事を一緒にやってる仲間だし、ここは盛り上がろう」という関係性があったからだと思う。でも合コンのカラオケの場面は、気分を一緒につくれる関係性はなかった。そういう意味では、場を見誤ったという要素はあるよね。

遠藤 それはあります。

沢辺 もちろん、積極的に楽しい場にしようとしてやったことは受け入れてほしい、それは仁義だろ、とは思うけどね。

遠藤 自分も、「ギクシャクしないように」と思って、いろいろやったんですよ。

沢辺 こうやって話していても、笑顔が多いしね。「ひとと話すときは笑顔」というのも仁義だからさ。

石川 ひとってノリの合う者同士でかたまっちゃう傾向があると思うんだけど、いま話に出た「仁義」は、ノリはちがってもお互いをつなげるものだと思う。遠藤くんはどう思う?

遠藤 ひとって、やっぱ、助け合うものじゃないですか。だから知り合いが多いと強いし、ぼくは知り合いをすげえ増やしたい。今日みたいに、知らないひとに話を聞かれるのは、いやがる人はいるじゃないですか。でも、変な話になるけれど、ガソリンスタンドで働いているとき、やくざの組長さんとも仲良くなって、いまでもいっしょに飲みに行ったりするんです。相手がやくざだろうが、おたくだろうが、そのひとが困ったら助けてあげるし、自分が困ったら助けてもらう。そういうのがあってこそ自分の生活がある。それが知恵なのかな。だから、知らないひとと話す機会があると積極的に参加します。

「もしかしたら、信愛塾かもしれません。韓国人だけじゃなく、中国人とか、フィリピン人とか、いろんな人がいました」

遠藤くんは関係づくりに積極的。その根っこには、あの人は大卒だとか、おたくだとか、やくざだとか、フィリピン人だとか、そういう抽象的な枠組みで人を見ず、一人の具体的な人間として見て、直接向かい合ってかかわって、自分でコミュニティーをつくっていく姿勢がある。この姿勢を身につけるきっかけは、横浜にある信愛塾(在日の子どもたちの学習を支援する塾)での体験が大きかったようだ(今回の遠藤くんにインタヴューできたのも信愛塾に通っていたポット出版スタッフの尹(ユン)さんつながり)。

石川 遠藤くんはいつごろから積極的な人になったの?

遠藤 高校生のときかな。

石川 なにかきっかけはあったの?

遠藤 自然にそうなった感じがしますけど、もしかしたら、信愛塾かもしれません。韓国人だけじゃなく、中国人とか、フィリピン人とか、いろんな人がいました。

沢辺 けっこう思い出深いんだ?

遠藤 年に一回はキャンプやったりして。

石川 そこで、ちがうひとと付き合うのは楽しいと思った?

遠藤 うーん。

沢辺 俺の言葉で言うと、楽しいというより「実存」なんだよな(笑)。眼の前のフィリピン人とつきあうときに、フィリピン人だからという色眼鏡で見るんじゃなくて、日本人と同じように、イヤなやつもいればいいやつもいる、◯◯くんだったら◯◯くんという一人の人間としてつきあう、ということができたんじゃないかな。

遠藤 そんな感じですね。

石川 じゃあ、逆に言うと、遠藤くんはそういう類型でひとを見たことはない?

遠藤 ないですね(きっぱり)。小学校のころ、自分がそういう目で見られてイヤだったんで。

沢辺 ただ、自分が類型で見られてイヤだったヤツが、他人をそう見ないとはかぎらなくて、他人のことは平気で類型で見ることもあるよ。みんな遠藤くんのようだとはかぎらない。悲しいけど、それが人間なんじゃないかな、という気もするよ。

遠藤 たしかに、そうですね。自分も、乞食を見たらイヤだなと思うし。ただ、じっさいその乞食のひとと仲良くなったら、そういうふうには見ないと思う。

石川 眼の前にフィリピン人の○○くんがいる。○○くんをフィリピン人だからどうのこうのとは言ってられない。そういう世界を遠藤くんは生きてきたのかな。「抽象」と「具体」という言葉を使えば、遠藤くんは「具体的な世界だけに生きている」という感じがあるね。

沢辺 そうなんだよ。「フィリピン人や韓国人がいる」ではなくて、「◯◯くんがいる」というところにいきなり飛び込んじゃう。

遠藤 あー。たしかにそうかもしれない。

沢辺 結局、そういうふうに生きていたほうが楽しいじゃん。

遠藤 まあ、楽しいですね。

石川 ぼくは抽象的な世界に生きているから、「このひとはあのタイプ、このタイプ」とすぐ考えてしまう。だから遠藤くんの話を聞いていると、「石川さんちがうよ。あんた二階から一階見てるでしょ」と言われているような気がするんだな。「石川さんだって一階に生きているでしょ」と。

沢辺 本人の眼の前で言うのもなんだけど、遠藤くんは、極端に言えば「いざというときはやくざの親分も使ってやるぜ」ということも含めて、つながりを大切にしているよね。ある特定のコミュニティー、言ってみれば「遠藤コミュニティー」に対する意識が大きい。

遠藤 ヤンキー軍団も含めて、俺のまわりにはいろんなやつがいますね。ヤンキー軍団は軍団の中でつるんでるけど、自分は他にもいろんなひととつきあいがあって。

沢辺 出入りしてるよね。普通だったら、イギリスの大学院まで出てる石川くんとわざわざ話しに来ないよ。

遠藤 自分の友だちだったら、たぶん来ないと思います。でも自分はやっぱ、縁を大切にしたいし、(尹)良浩の顔もある。恩を売るんじゃないですけど、こういうときに協力していたら、いざというときに助けてもらえると思うし。おやじの焼き鳥屋が20年やっていけてるのも常連さんがいるからだし、おやじもそういうつながりを大切にしてるんですよね。いま思うと、小さいころからおやじを見てたから、そういう考え方になっちゃったのかな。

石川 「縁を大切に、恩を売り売られ」じゃなくて、「もっとドライにビジネスライクにやろうよ」と言う人間が出てきたらどう思う?

遠藤 とことん嫌いになりますね。「俺はこいつと考え方がちがう」と思う。俺は自分だけ成長するのはイヤで、みんなで成長したいです。ひとりでたくらんでるヤツはイヤです。

石川 みんなでがんばってるときに、そういうイヤなヤツがいたらどうする?

遠藤 ほんとに嫌いになると思います。「せっかくみんなでやろうとしてるのに、なんなのお前?」って。

沢辺 人間同士、どうつきあえるかは重要だと思う。それは、学歴だったり、初任給いくらというような数字で見えるものじゃないんだけど、大切なことだよ。コミュニティーと言うのかな。

石川 この場合のコミュニティーは、もともとある「黄金町コミュニティー」ではなくて、それぞれの個人がそういう関係をどう作れるか、というコミュニティーですね。

沢辺 そうそう。むかしは黄金町コミュニティーが最初にあって、「お前は黄金町に生れたんだから、黄金町の仲間だ」となったんだけど、いまはそれがうまくいかなくなっている。でも、いまはいまなりに、やっぱりコミュニティーの作り方は変わっていなくて、ひととひととのつながりなんだよね。そのつながりも、「ひとに何かやってあげる」というような偉そうなものではなくて、自分のためにつくるもので。遠藤くんのなかには他人への信頼感があって、俺は聞いててうれしい。
そしてそれは、信愛塾での、属性のちがうひととの付き合いが大きかったんじゃないかな。多くの人はある属性の中、ヤンキー系ならヤンキー系、おたく系ならおたく系の常識のなかでつきあいは閉じてしまいがちだけど、遠藤くんは属性ではなく、現実に存在するひととつきあうことを経験している。ちょっときれいすぎるまとめかもしれないけれど。

「メディアがピーチクパーチク言ってる、って感じですね」

遠藤くんは本は読まない。携帯を使ってメールするのも苦手。メールを打つより、電話で話したほうが早いだろ、というタイプ。テレビもほとんど見ない。仕事が終わって深夜のニュース番組を見るくらい。そんなテレビから世の中について「メディアがピーチクパーチク言ってる」のが聞こえてくる。ピーチクパーチク言っているより、みんながお金を使うように、景気をよくするように行動しろよ、と遠藤くんは訴える。

石川 ぜんぜん話は変わるけど、遠藤くんは本は読まない?

遠藤 全然読みません。字読むのがめんどくさいんで(笑)。

石川 メールは?

遠藤 メールもだいっ嫌いです(笑)

沢辺 携帯のメールも?

遠藤 だいっ嫌いで、超時間かかります。

石川 テレビは見る?

遠藤 ニュースが多いですね。帰るのが12時すぎで、スポーツニュースくらいしかやってなくて。

石川 スポーツニュースは見るんだ。

遠藤 ベイスターズが心配で。でも正直、もうどうでもいいんすよ(笑)。今年も最下位だって(笑)。

石川 社会のニュースも見る?

遠藤 見ますね。

石川 気になったニュースは?

遠藤 やっぱプリウス。

沢辺 プリウスのあの事件、どう思う?

遠藤 トヨタがかわいそうだと思います。詳しいことはわかりませんけど、車って、モデルチェンジすればシステムが変わるんですよ。いま問題になってるのは一つ型の古いプリウスだから発売してから結構経つのに、いまさら「止まらなくなった」なんて、金を巻き上げようとしてクレームつけているんじゃないかと。そういう意味で、トヨタがかわいそうです。いまのモデルがリコールの対象になったブレーキシステムの問題では、事故をしたひとがかわいそうだと思います。まあでも、深くは考えていません。

石川 たとえば、ニュースを見ると、いろんなひとが「景気悪い、悪い」と言っているけど、そういうのを見てどう思う?

遠藤 ニュースではそう言ってるけど、自分は、そんなに景気が悪いとは思わないです。

石川 自分の身のまわりにいるひとは、どう?

遠藤 おやじの羽振りは悪いですね。でも、お店はお客さんがいっぱいいるんで、大丈夫だと思います。

石川 遠藤くんにとって、社会ってどう思う?

遠藤 メディアがピーチクパーチク言ってる、って感じですね。

石川 その、ピーチクパーチク言ってる連中に言いたいことはない?

遠藤 「そんなこと言ってるより、お前がやれよ!」って言いたいですね。みんながお金を使わなくちゃ景気よくならないし。エコカー減税だって一生懸命考えてお金使わせようとしているのに、それに対する評価も低いし。鳩山首相(当時)の金の問題も、なにに使ったかはわからないけど、おふくろからもらったんならいいじゃねえか、って。悪いことって、ある意味で知恵だと思うんです。悪いことでも人に迷惑をかけなけりゃいい。鳩山首相の問題も、俺には別に迷惑かかってないし。そういうことにピーチクパーチク言ってるのはイヤだな、って。

石川 遠藤くんは「自分は社会人だ」と言うけれど、社会人って、どういうひと?

遠藤 仕事してるひと。でも、社会人ってなんですかね?

石川 学生と社会人はなにがちがうと思う?

遠藤 勉強しているか、勉強してないか。お金もってないか、お金もってるか。そして、遊んでるか、遊んでないか。遊んでるのは学生ですね。だったら俺も、けっこう遊んでるから学生みたいなものかな。遊びは寝る時間減らしてやってますね。

沢辺 遊びは飽きるんだよ。

遠藤 高校生のころ、先輩に初めてキャバクラ連れて行ってもらったときは、すごく楽しかったですね。でもいまは最初の感動はあんまりないから、自分一人では行きません。走り屋も飽きたからやめて。

沢辺 俺もむかし、オイル交換とか自分でやってたりして、そのこと自体が面白かったけど、だんだん飽きてきちゃった。

ところで、「店をきれいにしたい」と言ってたけど、どの程度掃除やってるの?

遠藤 まだまだまったくです。店はきれいじゃないですね。店を開けている時間はやることがいっぱいあって、なかなかトイレ掃除とかに手がまわらなくて……。

石川 では最後に、いまのいちばんの悩みは?

遠藤 「なんで彼女ができないんだろうな」って。ちょっと付き合っても、むこうから「別れよう」と言われちゃって。

石川 なにが悪かったんだろう?

遠藤 自分がいろんなひとと遊んじゃうんで。

沢辺 「もっと私を見てよ」という定番だな。

石川 「最後だけ私のところに帰ってくればいいよ」というひとがいいかもね(笑)

遠藤 いいですね(笑)。

沢辺 なかなかそうもいかないよ(冷ややかに)。

石川 今日は楽しい話をありがとうございました。

◎石川メモ

金を稼ぐこと使うこと

 遠藤くんはやりたいことのあるタイプ。夢のある若者。「おやじの店をでっかくして、ばんばん稼いでばんばん使いたい」という夢を実現したときの自分のイメージもある。「おいおい、貯金もしなくてそれで生活設計大丈夫かよ」と心配や小言を言うことはできる。けれども、このイメージ、遠藤くんのなかではけっこう地に足のついたものかもしれない。遠藤くんは商売人。ばんばんお店でお金を使うお客さんを見てきている。そういうお客さんは店を潤してくれる。お金を使うことは誰かを潤すことになる。自分もばんばん稼いだなら、ばんばん使って人に喜ばれたい。そういう思いが遠藤くんのおやじの店を大きくして成功したいという夢とまっすぐつながっているはず。
 こういう発想、じつは大事なんじゃなかろうか。じつはぼく自身、この発想をむかしは受け入れられなかった。むしろ軽蔑していたところがある。「ボロは着てても心は錦」、「武士は食わねど高楊枝」なんて言葉もあるけれど、「稼げなくてもやりたいことができれば」、「お金はなくても夢さえあれば」といった自己実現、やりたいこと、夢の受けとめもある。いわゆる「清貧」の思想。恥ずかしいけれど、ぼくもだいたいこういう考え方だった。けれども、心や精神だけ立派でも、お金がなければ人間は生きていけないし、いくら清貧の夢を語ってたって、正直なところ、やりたいことできちんと稼ぎたいと思っているもの。もっと言えば、「稼げなくてもやりたいことができれば」、「お金はなくても夢さえあれば」という言い方には、自分が現実社会でうまく稼げないことを棚に上げて、「それでも、自分にはやりたいことありますんで……、夢ありますんで……」という言い訳がある。それでもって、お金を稼ぐことを、「迎合」とか言っていてばかにするようになったら、これはもうぜんぜん素直じゃない。そういう意味では遠藤くんの語る夢はストレート。やりたいことがあったら、それでちゃんと稼ごうよ。ばんばん稼いだらばんばん使おうよ。それのどこが悪い? 遠藤くんならそう言うと思うし、これを認めないことにはうじうじした清貧根性からは抜け出せないはずだ。

自分のコミュニティーをもつこと

 遠藤くんの話はほんとうのところどうなのかわからないところもある。高校時代のいじられキャラはいじめに近いものだったのかもしれないし、大学生に対してもどこかコンプレックスがあったのかもしれない。店はきれいでなくてはいけない、と言うわりに、自分のお店の掃除をしていないようで、どれだけ必死になって自分の夢にむかってがんばっているのか、わからないと言えばわからない。けれども、つぎの点は確かなはずだ。
 遠藤くんは自分のコミュニティーをもっている。それは、あの人は韓国人、あの人は大卒、あの人はおたく、といったレッテルや枠組みを通して人を見ずに、その人自身と相対して接することで得られた人間関係だ。遠藤くんはこの関係が自分を助けるものだとよく知っていて、人を信頼している。沢辺さんはそんな遠藤くんに「ほんとは不安なのかもしれないけれど、そんなに不安感をもってない」と言っていた。不安でないのは、遠藤くんに自分のつくってきた関係に自信があるからだ。これは遠藤くんの強みだ。だからどんどん新しい関係もつくっていける。
「人をレッテルや枠組みで見てはいけない」とちょっと上から偉そうに言うことはできる。けれど、遠藤くんの場合、現場からの「人をレッテルや枠組みで見たってしょうがないよ」という声になっている。遠藤くんはそういう見方をしたら人間関係はどうにも先に進めないような現場に放り込まれた。もちろん、沢辺さんが言ったように、レッテルを貼られて見られた人間が、今度はまた、他人にレッテルを貼って見返し差別したり攻撃する、という構造もある。けれども、遠藤くんはその道は進まなかった。遠藤くんは、「人をレッテルや枠組みで見てはいけない」とお説教する良識の人ではなくて、「そういうことしてたってしょうがないじゃん、一人ひとりとして接していこうよ、そうしたらいいこときっとあるはず」と言う、いわば実存の人だ。
 遠藤くんはレッテルで人を見たら人間関係は先に進まないような環境で育ち、自分のコミュニティーをつくる知恵を身につけたわけだけれども、このことは別に特別な環境で有効な知恵ではないはず。人をレッテルや枠組みで見ることは、私たちが相手をよく知らないからそうしている。知らないから少し怖い。そこでまず、レッテルを貼って少し安心する。けれども、私たちが社会に出れば、かならず見知らぬ人とじかにつき合わなくてはならなくなる。当然のことだけれど、仲間、地元、同じような学歴、同じような趣味の人たちだけと付き合うわけにはいかなくなる。だれでもそういう現場に放り込まれる。いままで、自分が知らない人たちだからといって、レッテルだけ貼って遠ざけていた人たちとも面と向かわなくてはならなくなる。もうレッテルだけで見るのではどうしても関係が先に進まない。そのときやはり、相手を「その人」個人として見ることが必要になるだろう。これはめんどくさいことかもしれない。けれども遠藤くんはそういうふうに人と接すると、自分にとっても「いいことあるよ」と教えてくれている。
 それでもって、じゃあ、レッテルをはずして相手と接する第一歩はなにかといえば、たぶん、遠藤くんの答えは「笑顔」ということになるだろう。最初、インタヴューをするとき、どんなイカツイあんちゃんが来るだろう、とぼくのほうもレッテルや枠組みでもって身構えていた。けれど、遠藤くんは笑顔で登場。それで自然に、知らない人へのレッテルと不安が解けた。こちらも笑顔。すごく単純なことかもしれないけれど、笑顔のいい遠藤くんはコミュニティーづくりの大切な方法を自然に身体で身につけている。